「アルザス」ってどんなところだろう…?と素朴な疑問を持つようになったのは、もう20年近く前のこと。今ほどネットでアルザスの情報がでているわけでも無く、本や人の話を聞いてなんとなく、こんなところなのかなぁ・・・と、漠然とした想像をしていました。

フランス菓子の道に進めば進むほど「アルザス」に行って、実際この目で見て、そしてお菓子を食べてみたい!と強く思うようになり、遂にはアルザスお菓子ツアーを企画することになりました。

そして、実際訪れたアルザスでは、想像以上の可愛い街並みや美しい花々。
写真では見ていたけど、ほんとに実在するんだ〜っと変に感動したものです。
特に世界遺産にも登録されているストラスブールの旧市街グランディルは、自分の普段の生活を忘れるような別世界が広がります。ずっと昔から続く空間に今自分がいるんだということを感じます。

イル川沿いのコロンバージュの家々 あちこちで見かける季節の花々


アルザスでは自分が見たかったもの、食べたかったもの、会いたかった人に出会える貴重な経験をしました。それまで自分の中であたためてきたことを、凝縮してアルザスお菓子ツアーの企画をたてたので、短い滞在ながらかなり濃厚な時間を過ごせたと思います。

その中のひとつがアルザスの陶器。
ぽってりと厚みのある陶器は、日本ではクグロフ型が有名ですが、現地では普段使いできるようなお皿やカップ、花瓶、鍋などたくさんの種類の陶器がありました。そのどれも可愛らしく絵付けされていて素朴な風合いがたまりません。
ここでお菓子好きに外せないのがクグロフ型と復活祭のお菓子アニョー・パスカルの型ですね。
ぜひ、アルザスを訪れる際にはチェックしてくださいね。

大聖堂近くの陶器専門店にて


水差しやカップなど日常的な陶器も多い


私が見たかったもの、というか経験してみたかったのがアルザスノエル。クリスマス時期のアルザスです。これは、個人的に友人達と(最初のアルザスお菓子ツアーで知り合った)行きました。
夏のアルザスは、景色が美しくフルーツも美味しいのでとても楽しかったのですが、やっぱり気になるのはノエルの時期。マルシェ・ド・ノエルやその時期の街並みを一度見てみたかったのです。

冬のアルザスはとっても寒いのですが、そんな寒さを忘れるくらいの光景が待っていました。
ストラスブールのクレベール広場の大きな大きなもみの木。
一日中お菓子巡りをして疲れた日のことでしたが、点灯式に間に合うように雪の中を走って向ったのがいい思い出です。

クレベール広場の大きなもみの木 大聖堂前のイルミネーション


寒い街中に欠かせないのがマロン・ショー。焼き栗です。
焼き栗はパリでも売っていますが、電車のような形をした可愛い屋台で売っているその姿が街の景色にマッチしてなんとも可愛らしい。あったかい焼き栗をポイっと口の中にまるごと入れて食べながら、街のイルミネーションを見るのがちょっとした贅沢。
あったかい、といえばマルシェ・ド・ノエルでいい香りを漂わせているヴァン・ショー(ホットワイン)もおすすめです。ワインにお砂糖やりんご、オレンジ、シナモン等を加えて温めた、フルーツとスパイス香るドリンクで、寒いアルザスの空の下で体を温めてくれる美味しいドリンクです。

ノエルの時期ならではのシュトーレンやベラヴェッカなどのお菓子も楽しみの1つです。

マロン・ショーの屋台 香ばしい焼き栗にそそられます


そして、私が一番気になっていたのはもちろんアルザスのお菓子達。
多くのパティシエがアルザスで修業したり、アルザスに興味を持ったりと、何らかの形でアルザスのお菓子に影響を受けています。そのアルザスのお菓子を実際目で見て、自分の舌で味わいたかったのです。

アルザスに行く度に本当にたくさんの種類のお菓子を食べました。日本でもフランス菓子を食べられる環境になってきましたが、やはり現地で食べるという経験がとても大切だと感じていたので、多少苦しくてもお腹が許す限りたくさん食べてきました。

まず最初はアルザスならではのお菓子を。クグロフやフルーツのタルトなど。特にクグロフは、いろんなパティスリーのものを食べ比べしたほどです。同じように見えるクグロフも周りにお砂糖をまぶしたり、生地に塩味がきいていたり、それぞれのお店での特徴がありそんな違いを感じながら食べる楽しさがありました。

クグロフ食べ比べ! フルーツたっぷりのタルトはアルザスの定番


その他にもショコラショーやマナラ、ケーク・エコセ、シュトーレン、パンデピス、リンツァートルテなど、ここでは紹介しきれないほどの数多くのお菓子を食べました。

シンプルで味わい深いジャックのお菓子


ノエルの焼き菓子とサンニコラの日のマナラ


食べて感じたのは、フランス菓子はフランスにあるべくして作られているもの。ということ。特にアルザスでは自分達の土地にあるものが美味しいから、素晴らしいから、それをお菓子に使うというごく自然な流れがありました。

気負わず、美味しいから作る、美味しいから食べる、という姿勢がそこにあるように感じました。
それはきっとフランスの他の地方もそうだと思いますが、特にアルザスはパティスリーの仕事ぶりがとても丁寧だと思います。1つ1つのお菓子の仕上げが丁寧で美しいのです。

そして他の地方にない特徴といえば、ドイツの影響を強く受けているという部分。ドイツの領地だった歴史もあるため、フォレノワールやシュトーレン、クリスマスをお祝いする小さなクッキーなど、ドイツらしいお菓子がフランス菓子と融合して独特の空気感を出しています。お菓子好きがアルザスに惹かれるのが分かるような気がしました。

クリスチャンのショコラショー4種


美しく丁寧に作られたお菓子たち


そして、現地の職人さんとの出会いもとても大切な思い出です。
アルザスのお菓子はとても魅力的ですが、そのお菓子を作るのはやっぱり人。
人無くしてはお菓子は無い。ということで、作り手を訪問するのも大きな楽しみです。

いろんな職人さんに出会いましたが、印象的なのは日本でもよく知られているフェルベールさん。

あたたかく迎えてくれるフェルベールさん

コンフィチュールが有名な職人さんですが、コンフィチュール以外にも生菓子、焼き菓子、ショコラ、トゥレトゥール(お惣菜)などがお店には並びます。

アルザスを訪れる度に、フェルベールさんのお店に行くのですが、いつも素敵で可愛らしいデコレーションをしています。可愛いだけでは無く、「アルザスらしさ」と「季節感」を意識しているのがフェルベールさんらしいところです。

新鮮なフルーツでコンフィチュールを作る フルーツたっぷりのタルトは季節を感じるお菓子


彼女が作るお菓子は、どれも温かみがあって、素直に美味しい。そして香りが豊か。というのが印象です。それは彼女の印象そのものです。ただそれだけではなく、厨房にたつ際の真剣で厳しい眼差しや譲れないこだわり、という職人としての一面を垣間見ることが出来ました。

そして、アルザス滞在中一緒に巡ったメンバーがいたからこそ、これだけ多くの経験ができたと思います。ツアーに参加したメンバーは、最初はほとんど知らない者同士。
でも、フランス菓子好き、アルザス好き、という共通点があるので、皆で楽しさや美味しさをシェアすることが出来ました。

時にはケーキ10数個を公園で切り分けながら食べたり、マルシェで買ったフルーツを皆で味見したり。
サロンで頼んだ4種類のショコラショーを回し飲みしたり…。
ちょっとお行儀が悪いかもしれませんが、いろんな味を知りたい!という欲望はどこまでも続くものですね。
「あれ、食べてみない?」とか「これ、すごく美味しいね!」と言い合える仲間がいることで、より一層アルザスの旅が楽しくなったのを感じます。

買ってきたお菓子たちを広げ、まずは写真撮影 公園でお菓子を切り分け食べる私達


こんな風に私のアルザス旅は、お菓子をきっかけにして、いろんな景色や人に出会える思い出深いものになりました。その楽しかった、美味しかった経験を、自分の記憶の中だけにとどめておくのはもったいないと思い、このアルザスレポートを書いてきました。

このアルザスレポートを通じて、アルザスに興味をもったり、アルザスの魅力を感じてくれる方が一人でもいてくれたらとても嬉しく思います。私自身まだまだ知らないアルザスがたくさんあるでしょうから、これからもアルザスを訪れる旅は続けて行きたいと思っています。
そして、またこのレポートの続編を皆さんにお届けできるようにたくさんの出会いをしてきたいと思います!

コルマールのプティット・ヴニーズ


アルザスの美しいぶどう畑





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