日本の洋菓子界を牽引している大御所の一人として、必ず名前が挙がる菓子職人、それが、本書の著者である京都「パティスリー オ・グルニエ・ドール」オーナーシェフの西原金蔵氏である。そして、その西原シェフが永遠の師匠として敬愛し続けているのが、ヌーヴェル・キュイジーヌの旗手ともよばれるフランス料理界の巨匠、今は亡きアラン・シャペル氏だ。
フランス・ミヨネーの「アラン・シャペル」でシェフパティシエとして働いていた西原シェフが、シャペル氏から学んだことのひとつ、それは、「配合と作り方に頼り、ルセットを“再現”するだけでは、クオリティの高いものはけっして作れない」ということ。
今もなお、たくさんの料理人に影響を与えているアラン・シャペル氏の料理哲学に「料理とは、ルセットを超えるもの」という言葉があるそうです。
「決まった配合や手順をなぞるだけでは、料理ではない。そこを超えてこそ本当の料理である」。もちろん、お菓子づくりにおいても、しかりである。
本書は、西原シェフの魅力的なルセットの数々と、アラン・シャペル氏への愛情がいっぱい詰まった1冊となっている。




「はじめに」の頁で紹介されている西原シェフが大切にしていることは、「独創性」と「つねに基本に立ち返ること」。
そして、その独創性を生み出すために必要なこと、それは、「基本的な生地づくりの理論がしっかりと身についていること」と、シェフは言います。
本書では、菓子づくりに欠かせない12種類の「基本の生地」と、それぞれの生地を使ったお菓子26種類が紹介されています。製造プロセスの合間には「なぜ」という「理由」「目的」を明記し、解説が添えられています。
「なぜ」をふまえた「基本の生地」を理解することによって、独創性が生まれ、そこから先は自分で自由にイメージし、“ルセットを超える菓子”をめざしてくださいという、西原シェフの言葉で、この本は始まります。

基本の生地は12種類、そしてそれぞれの生地を使ったお菓子のルセットが紹介されます。 例えば、
「パータ・ジェノワーズを使ったお菓子」の頁では、基本のパータ・ジェノワーズの作り方から始まり、「ガトー・フレーズ」が紹介されています。
「パート・ブリゼを使ったお菓子」の頁では、アラン・シャペル氏から学んだ「オ・グルニエ・ドール」のスペシャリテのひとつ、「タルト・オ・ポンム」が。
「パータ・サヴァランを使ったお菓子」では、「サヴァラン」が・・・などなど。
どれもが、きれいな写真と丁寧な手順、そして、その生地やお菓子についての詳しい説明が添えられています。
京都の「オ・グルニエ・ドール」に行ったことがある方ならわかると思いますが、ショーケースのディスプレイの美しさは特筆もの。そんな「オ・グルニエ・ドール」のショーケースをのぞいているかのようなきれいで美味しそうな写真を見ているだけでも幸せな気持ちになります。


基本の生地についての説明のページでは、その生地の特徴はもちろん、作る上での注意点、ポイント、そしてなにより、「そうすることの理由」もしっかりと述べられている。その生地を使った代表的なお菓子の説明も加わり、次のページからは実際の手順が説明されていく



作り方の手順のページでは、わかりやすい写真で丁寧に説明がされていく。ここでも、ポイントとともに、理由が説明され、そこには化学的な理由も加わり、その知識は他のお菓子作りにおいても活かされるよう説明されている



代表的なお菓子とルセットが説明された後、その生地を使った他のお菓子の紹介もされている。例えば、これは、パート・サブレを使った「サブレのミルフィーユ仕立て」。見目麗しい写真とともに紹介され、改めて、お菓子は芸術であると感じさせてくれる



そして、ルセット以外にも、コラムの頁では、「フランス修業とアラン・シャペル氏との出会い」や、西原シェフが菓子づくりの上で大事にしていることのひとつである素材選びについての「素材との出合いから菓子がうまれる」や、基本の材料や道具などについて、町家をいかした造りの京都の店舗についてのことなどが書かれています。
そして、最後には「菓子づくりの仲間」として、お客様に満足していただくには、技術だけではなく、その人のありかたや姿勢もとても大切ということが記されています。
「ものづくりは人づくり」という西原シェフにとって、チームワークをいかにつくりあげていくかも、オーナーシェフの大事な仕事のひとつだそうです。
でも、そのチームワークがちゃんと出来上がっていることは、この店に何度でも行きたくなってしまう、客である私たちが一番よく、わかっていることかもしれませんね。


アラン・シャペル氏との想い出の詰まったコラムページ。シャペル氏との出会いがあってこそ、今の、オ・グルニエ・ドールのお菓子があるのだと教えてくれます



お菓子をつくる人はもちろん、食べることが好きな人、西原シェフを尊敬している人は、ぜひ、この本を手にしてください。きっとあなたにとって、バイブルとなる1冊になることでしょう。

尚、本書は、(株)柴田書店刊行のMOOK「café -sweets」vol.37〜48に掲載した連載記事「パティスリー オ・グルニエ・ドールの基本のパートを使ったお菓子」を再編集し、1冊にまとめたものです。


パティスリー オ・グルニエ・ドールの
12の生地と26のフランス菓子


著者:西原 金蔵
撮影:川瀬 典子
発行所:株式会社 柴田書店
定価:本体1,900円+税