「当時からの友人、ジャン=ポール・エヴァンのすすめで、彼がシェフをしていた「ホテル・ニッコー」のパティスリーでも少し働いたことがある(本文より)」
「『今日は、パリから友達が来るから、ぼくが腕をふるうんだよ。君たちも、今度来るときは前もって知らせなさい。いろいろ案内してあげよう』
そう言って、彼(ロベール・ランクス)は町の中に消えていった(本文より)」



ソローヌ地方にあるホテル・タタン発祥の「タルト・タタン」


フランス好き、中でもフランスグルメを自認する人なら、これがどんなにすごいことかわかるはず。他にも「ル・コルドン・ブルー」や「リッツ・エスコフィエ」での出来事や、食べ歩き、ホームステイ、パーティーの体験談など・・・。フランス通にはたまらなく刺激的な内容で展開していくのが、この「ママンの味、マミーのおやつ」です。



タルト生地にアプリコットのコンフィとアーモンドクリームを詰めて焼いた「アルカザール」。スペインのアンダルシア州にあるアルカザール宮殿がモデル


著書は、フランス料理・菓子研究家の大森由紀子さん。大森さんといえば、これまでにもお菓子や料理にまつわるレシピ本やガイド本をたくさん出版されていますが、本書はエッセイ形式。フランス滞在中の様々な体験が紹介されています。中には、つい笑ってしまうような楽しい体験談も。

目次を見ると、時系列にきっちりとではなく、「Iパリの美味しい」「Uひと皿への情熱」「V食いしん坊はフランス的人生」「Wマミーからママンへ」といった分類の仕方。高校時代からフランスの食に恋焦がれ、OLを経て単身フランスへと渡り、その魅力にとりつかれていくようすが自在に綴られているから、どの頁をめくっても楽しめます。



ボルドー地方には、銘菓「ガトーバスク」の博物館なるものも!


中でも興味深いのは、“ママンの味”や“マミーのおやつ”が登場するくだり。これはフランスの各地方で母から子へと受け継がれてきた食べもののこと。決して華やかさはないけれど、その土地ならではの素朴な味わいにすっかり魅せられてしまった大森さんは、その後何十年もかけて地方の食やそれに関わる人たちとつき合っていくことになるのです・・・。



新年の代名詞的存在、「ガレット・デ・ロワ」。1月の間中、何度も食べるフランス人もいるのだとか


“フランス料理や菓子を知りたい”“いつかフランスへ行ってみたい”なんて憧れを抱いている人は、この本を読んでますますはまってみてはいかがですか?






ママンの味、マミーのおやつ

著書:大森由紀子
発行所:文藝春秋
定価:¥1,524(税別)