本の紹介記事を書くために、その本を読むのはいつものこと。でもこんなふうに引き込まれる本に出会うのは、そうそうないかもしれない。
この本は、創業が1730年というパリでもっとも歴史の古いパティスリー「ストレール」の創業者、ニコラ・ストレール氏が日記形式で綴ったという形で書かれています。
日記は1788年8月に始まり、1789年5月、フランス革命勃発の2ヶ月前で終えられています。
ストレールは、元ポーランド王、スタニスワフ(フランス語名スタニスラス)・レシチニスキ公の厨房で働き、その後レシチニスキ公の娘、マリア・レシチニスカ(フランス語名マリア・レクザンスカ)がルイ15世に嫁ぐのを機に、ヴェルサイユ宮殿に移ることになります。こうして「王のパティシエ」と呼ばれるようになったストレール。
その後、パリ2区のモントルグイユ通りに自分の店を構えるようになったのです。




ピエール・エルメ氏の書評が書かれた帯。現代のフランス菓子を代表するパティシエからのメッセージは、この本にさらなる重みを与えてくれます



この本は、曾孫のフロリモンに伝えるために綴った形で書かれているのですが、それは読んでいるうちに、私たちへのメッセージかも・・・と思えてしまうほど。
ストレール氏の歴史とともに語られるお菓子の歴史、革命前の不安定な時代の描写、そしてその時代の貴重なお菓子のレシピも67点も掲載。もちろん、ストレールの名作、アリ・ババやピュイダムールの誕生秘話も欠かせません。




中世において、お菓子とは道端で売られるウーブリ(薄焼きのワッフル)などのことで、パティスリーとは、肉や魚などのパテをつくる店のことであった。1566年、シャルル9世の命によってウーブリ売りとパティスリーがひとつになり、パティスリーでもお菓子が作られるようになった。
〜本文より〜






1789年5月5日
歴史のページがめくられ、新たな時代が始まる。今日、三部会の開会式が厳かに執り行われた。昨日、ヴェルサイユでは町中にノートルダムの鐘が鳴り響き、家々の窓には王旗と白百合のついた旗が、ぱたぱたとはためいていた。
〜本文より〜




写真もイラストもほとんどない文字だけの本なのに、その世界観は、色鮮やかに表現され、まるでその時代にいるかのような錯覚に陥ります。
ぜひ、皆さんもこの1冊、読んでみませんか?
ページをめくると、そこには18世紀のパリの街が待っています。





王のパティシエ
ストレールが語るお菓子の歴史

著:ピエール・リエナール、フランソワ・デュトゥ、クレール・オーゲル
監修:大森由紀子  訳:塩谷祐人
発行:白水社
価格:本体2200円+税