今までこんなに細部にこだわったレシピ本に出会ったことがあっただろうか?
青木定冶シェフの几帳面な性格がしっかりと伝わってくる、シェフ初のレシピ集というこの1冊。そしてその几帳面さこそが、パティシエとして一番大事なことだと、改めて気づかせてくれる。
最初にひとこと、注意しておきます。このレシピ集を手にしたら、決して普通のレシピ本のように、作りたいお菓子のページだけを開き、作り始めたりしないように。




まず、「はじめに」のページで青木シェフからのメッセージをしっかりと把握してから、次のページをめくってみてください。
そこには、「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」で大人気のお菓子ばかりが並んだきれいな目次があります。
それを見たら、早く作ってみたくなると思いますが、それはもう少し先のお愉しみとして、その前に「青木流 美味しく作るための10か条」を読んでください。
その10か条を理解すると、きっとあなたのお菓子作りも少しプロの領域に近づくかもしれません。
どれもが大事な10か条ですが、特にその中の3つ目「手順を事前に頭に入れる(手順の把握)」は、ぜひ実行してください。
全体の流れを把握してから作り始める・・・このことだけでも、間違いも少なくなるし、もし間違えても一からやり直すはめにならないで済むかもしれません。
そして、ぜひ、この本を利用する際にも、まず、この本の全体を把握してからお菓子作りをスタートしてみてください。


最初に紹介されたのは青木シェフの代表作でもある“抹茶のマカロン”。分量・材料・下準備に始まり、作り方のページでは、「生地を作る」「生地を焼く」などAからDまでの4つの工程にわけて説明されます


手順Aの「生地を作る」。各手順の下に赤字で書かれた注意点や作業上の知識も大事なポイント。この作り方の工程ごとにページのイメージカラーが違うのも楽しい。まるで本全体がパティスリー・サダハル・アオキ・パリの逸品「ショコロン」のよう


基本的でありながら、応用の効く作業が多いという「タルト・ショコラ・ミロワール」。つやつやと鏡面のように光ったアパレイユが美しい


作り方の工程Bの「チョコレートのアパレイユを作る」。ワンポイントで「このアパレイユは卵が入っているので、使い切る量のみを仕込む。菌が発生しやすいので、冷蔵庫での保存は避けた方がよい」とのアドバイスが。菓子作りには衛生管理も大事だと教えてくれる


タルト・ショコラ・ミロワールの作り方の工程D「仕上げ」。最後の焼成の際、オーブンから離れず、見極めと手際の良さが求められる。ここまでうまくできたら、なんだかプロになったような気がするかも!


道具のこと、素材のこと、お菓子作りの理屈(理屈を理解することでどれだけお菓子作りがスムーズになることか!)、基本的なことから高度なノウハウまで、とにかく懇切丁寧に説明されているレシピ集。
すべてが青木シェフの経験から生まれた財産です。そう、それは、失敗も含めて。
だからこそ、実際のレシピのところのワンポイントや注意書きがわかりやすく、その注意に気をつければ、失敗する人などいなくなるのではと思えるほど。




レシピ以外にも、青木シェフと「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」のヒストリーを紹介しているページや、食材や道具などの説明の書かれたページなど、青木シェフのすべてが惜しみなく表現された1冊に仕上がっている


そして、これ以上丁寧に説明してくれるレシピ集などあり得ないというこの1冊を見ながら作っても、お菓子作りに失敗したあなたは、青木シェフが言うように、迷わず、「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」に行きましょう。
もしかしたら、このレシピ集の最後の仕上げは、「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」にあるのかもしれません。そこには、まぎれもなく“正解の味”があるのだから・・・


本書には「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」の秋の定番“ケーク・オ・マロン”(左)やシャルル・プルースト・コンクール受賞作品の“ヴァランシア”(右)などのレシピも掲載されています。この写真を見ているだけでも幸せな気分になりませんか?


さて、皆さん。まず頭でレシピを理解したら、さぁ、青木シェフの手順に従って、「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」の人気のお菓子作りに挑戦してみましょう。
お菓子を作っている間も、出来上がったお菓子を目にしたときも、そしてそれを口に入れたときも、改めてこのレシピ集の素晴らしさに気づくことでしょう。



パリで最も愛される日本人パティシエ
サダハル・アオキのお菓子

著者:青木定冶
定価:1995円(本体1900円+税)
発行:株式会社角川マガジンズ
発売:株式会社KADOKAWA