「飲んでから読んでも、読んでから飲んでも。もっと楽しい一杯のために」と書かれた帯をまとって、魅力的な1冊が発行されました。
本のタイトルは「フランスワイン 33のエピソード」。





今までもワインに関する本は多数出版されています。それはきわめて専門的なものを含め、どちらかというと、ブドウの品種や畑の土壌、味わいの分析などに終始してしまうことが多いもの、でも、「グラスを傾けるテーブルでの話題がそればかりだと、居心地が悪いこともあるのでは?」と、この本は、心やさしいなげかけをしてくれます。
フランスワインの周囲には、風土や歴史のみならず、画家や作家などにまつわる興味深い逸話がたくさんころがっています。
たとえば、アルベール・カミュの「異邦人」、主人公のムルソーの名はどこからきているのでしょうか。そのカミュが、自動車事故で亡くなる前に飲んだ、最後のワインは何だったのでしょうか。
他にもシャンパンの歴史を変えた二人の女性(奇しくもこの二人は未亡人という共通点がありますが、一人はのちのマダム・ポメリー。そしてもう一人はヴーヴ・クリコことニコラ・バルブ・ボンサルダン)の話や、バルザックの作品を彩るロワールのワイン、ラブレーの精神を受け継ぐ騎士団、ロートレックが愛した「シャトー・マルメロ」、ロスチャイルド家のワイン・・・など、この本には、魅力的な33のエピソードが紹介されています。


「ゴッホが描いたプロヴァンスのブドウ園」から
アルル滞在中にゴッホが描いた2枚のブドウ畑の絵、「緑の葡萄畑」と「赤い葡萄畑」。関係が破綻する前のゴーギャンへの、そして芸術家たちとのユートピアを夢見ていたゴッホの期待に溢れた気持ちが、このエピソードを読むとわかるような気がします


「ロートレックが愛した『シャトー・マルロメ』」から
19世紀末のフランスを代表する画家、アンリ・トゥールーズ=ロートレック。「シャトー・マルロメ」は、ロートレックの母が持つ別荘でした。ロートレックはここで休みなく制作し、そしてまた36歳というあまりにも短い生涯をこの城で迎えました。パリではボヘミアンであり続けたロートレックが、この自然に囲まれた土地では、静かにひっそりと過ごしていたそうです。このエピソードを読んでから、ロートレックの顔写真をエチケットにまとった「シャトー・マルメロ」を飲んでみたいものです


帯に書かれているように、まさしく「飲んでから読んでも、読んでから飲んでも、楽しい」一冊に仕上がっています。
もちろん、寒い冬に温かい部屋で、ワインを楽しみながらこの本を読む・・・というのも至福のひとときになりそうですね。




フランスワイン 33のエピソード

著者:須藤 海芳子(すどう みほこ)
定価:本体1800円+税
発行所:株式会社 白水社