街路樹の楓も紅葉に染まる10月のある日、株式会社クインビーガーデン主催「第3回メープルスイーツコンテスト」の表彰式がカナダ大使館にて行われました。
本大会は、カナダからの自然の恵みであるメープルシロップ、メープルシュガーを使用したプロを対象としたスイーツコンテスト。人材を育てると共に、職人を通じてメープルシロップの可能性を拡げ、日本での更なる普及を目指しています。1回目、2回目の入賞者の中には、早くも独立・開店を遂げている人も。今回はどのような新星が誕生するのか・・・期待が高まります!(前回の様子はこちら



応募部門は菓子部門(洋・和菓子問わず)、デザート・アシェット部門、パン部門から。クインビーガーデンの「ケベック・メープルシロップ」、「ケベック・メープルシュガー」を使用した未発表作品が審査の対象となります。応募総数は全144作品。この中から1次審査(書類選考によって)菓子部門4名、デザート・アシェット部門3名、パン部門5名の計11名が選ばれました。


実技審査の様子


前日に行われた実技審査では公平を期する為、店名や職歴等は伏せて競技が行われました。審査の対象になるのは、メープルの効かせ方、工程、技術、味わい、外観、そして将来性など様々な角度から。まさに実力のぶつかり合いです。 今回の審査員を務めたは、以下4名。


吉田利弘氏(フォーシーズンスホテル椿山荘東京)

志賀勝栄氏(シニフィアン・シニフィエ)

佐藤均氏(ドゥーシュークル)

鎧塚俊彦氏(Toshi Yoroizuka)





会場では、エントリーされた11名が結果発表を目前に緊張の面持ち。一人一人壇上に立ち、自己紹介と共に、今回の作品のポイントなどを一言づつ発表します。


(左から)梶沼直人さん、高塚俊也さん、進士一郎さん、冨田和彦さん

齊藤雅之さん、金子高也さん、木野内辰美さん

伊藤 愛さん、宍戸 周さん、戸澤 実さん、土屋伸明さん


蓋を開けてみると、様々な受賞歴を持つベテランから、コンテスト初参加というフレッシュな職人まで、年齢も職歴もそれぞれ。作品も、餡とメープルを組み合わせた和菓子や、中華菓子をイメージした皿盛りのデザート仕立てなど、個性豊かです。さて、誰の頭上に栄光が輝くのでしょうか。いよいよ結果発表です!



【入賞作品】

金賞
『Une Forêt de Quèbec -ケベックの森-』
冨田和彦さん(カルチェ・ラタン オーナーシェフ)

作品のテーマは“森の恵と実り”。メープルシロップをクレームダマンドに閉じ込め、たっぷりのドライフルーツとナッツと共に、しっかりと火を入れて焼きあげることによって香ばしい食感と風味を演出



銀賞
『メープル三重奏〜カルテット〜』
齊藤雅之さん(ロイヤルパークホテル)

ムース、アイス、焼き菓子で、同時に冷たさと温かさを取り入れてメープルを活かしたデザート。フルールドセルや白しょうゆの塩気と組み合わせ、メープルの甘さと香りを引き立てます



銀賞
『ブリオッシュ・エラブル』
宍戸周さん(宮城調理製菓専門学校)

楓の切り株をイメージ。ブリオッシュの折り込み生地から、ダージリン風味のフィリング、トップのシュトロイゼル、ナパージュ、仕上げまでふんだんにメープルを効かせた、まさにメープル尽くしの一品



『Une Forêt de Quèbec -ケベックの森-』で、見事金賞を取った冨田和彦さんは、入賞者の中でも最年長のベテラン。現在は名古屋市中川区の「カルチェ・ラタン」でオーナー・シェフをされています。今回受賞した冨田氏の作品は、決して気をてらったものではありません。しかし、シンプルだからこそ光る熟練の技。メープルを活かすにあたって、王道ともいえる“焼き菓子”で直球勝負に挑み、栄冠を手にしました。

「焼き菓子は、非常に地味なお菓子です。陶芸と同じで、窯に入れて蓋を開けてみないと、どうなるかわからない難しさもあります。しかし、焼き菓子は冷やしても、温かさがあります。私はそんな焼き菓子がとても好きなんです。今回は、メープルシロップを自分なりに表現しようと思ったら、自然に配合やイメージが沸いてきたんです。ひねくらず、素直な気持ちで・・・。今回の受賞を大きなステップにして、さらに一生懸命にお客さんの心を打つお菓子を作っていきたいと思います」


受賞に涙ぐむ冨田和彦さん


声を震わせながら、受賞の想いを語る冨田さんに、会場は拍手喝さいに包まれました。ご自身のお店を開店して30年。今回の大会以外にも、2005年、2006年にはキリ・クリームチーズコンテストで2年連続して金賞を受賞するなど、ベテランながら今だコンテストにチャレンジしていく姿勢には敬服せざるを得ません。

授賞式後は、同会場内でパーティーが催されました。会場には、審査員の方々によるメープルシロップ、メープルシュガーを使ったお菓子やパン、そしてパーティー料理が豪華に競演。シェフの個性溢れるメープル使いや、意外な料理とのコラボレーションに感動!


今や行列しなくては買えない鎧塚シェフのモンブランに人気集中。土台の生地にメープルを忍ばせています。

ドゥーシュークル佐藤シェフのケーキは、生地もクリームもメープル尽くし。メープルが入ることにより生地はもっちりした食感に

砂糖の代わりに、酢飯にメープルシロップを使った巻き寿司や、ローストポークとメープルシロップのコンビネーションなど、新たな味わいも



審査員の、コンテスト全体の総評、評価のポイントはどのようなものだったのでしょうか?
「和菓子も10点以上の出品があり、メープルの裾野の広がりを感じました。優勝した冨田さんは、おいしいというだけでなく、メープルの特性を活かすために直前に焼いて粗熱を取ってから提供するというように、メープルの特性を考えて食べさせ方も工夫しているところがさすがでしたね」と、鎧塚シェフ。デザートのスペシャリティーらしく、アシェット部門でのメープルの様々な表現にも注目だったようです。
また、佐藤シェフは「他のコンクールでも最近はモンタージュに凝る人が多い。単体の素材がテーマになる今大会ではシンプルなおいしさというのが賞に繋がります。味で勝負するコンクールというのは少ないので、私自身も非常に刺激を受けました」とのことでした。


志賀シェフは、ブリオッシュにメープルシロップをしみこませた生地を包んだ「ブリオッシュのテリーヌ風」と、メープルを生地に折り込んだ「チャバタ 栗とメープル」。ハード系でもガツンとメープルを感じさせ“メープルの主張とおいしさのバランス”の取れた素材使いはさすが


志賀シェフのコメントには、今回のコンテストを通して、職人達への深いメッセージが・・・。
「仕事には、攻め方が大事。そして、攻める為には柔軟な思考が必要です。製法、技巧、フォルムの既成概念を捨てて、科学的・精神的に攻めることを奢ることなく突き詰めていって欲しい。パン屋やケーキ屋という仕事は、毎朝フレッシュなものを作るためには、365日毎日同じ仕事を繰り返さなくてはいけません。それは、浜に打ち寄せる波のようでもあります。でも、波によって、海岸の形は刻々と変わっていきます。技法が変わることによって、出来上がるものも変わるのです。今日は、長年の努力に幸運が舞い降りて良かったと思います」


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楓の樹液を煮詰めて作るメープルシロップ。自然の恵みから生まれたナチュラルスイーツにも、職人の存在があります。毎春、メープルシロップの採取時期には多くの生産者の元へ足を運び、味・色・香りをチェックし、厳選したものが製品になるのです。 たゆまぬ職人たちの努力によって、さらに深く、広く、おいしく。常に進化し続けるスイーツの世界をこれからも期待したいものです。(2008.11)









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