2008年10月29日から11月2日までの5日間、チョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」がパリで開催されました。
パリ市内の南端、ポルトドヴェルサイユの25展示場に、約160店近くのチョコレートメーカーが一同に集い、フランスのみならず、世界各国からのチョコレートファンが来場するこの祭典。木枯らし吹く、パリの晩秋の寒さにもかかわらず、会場内はチョコレート好きたちの熱気であふれかえっていました。

おなじみ有機チョコレートのKAOKAや、
見ているだけでうれしくなる色鮮やかなショコラが並ぶVIRGINIE DUROC-DANNER、
そしてスペインなど各国のブースも目をひきます


会場にはこんなかわいらしいイスも。つい溶けていないか、お尻をもちあげてしまいそう


まずは10月29日の夜、華やかな前夜祭で、幕をあけます。今年はフラッテリーニアカデミーという世界的に有名なサーカスの養成所とコラボレートしたファッションショー。ラ・メゾン・デュ・ショコラ、リンツ、ドイツのコペヌール社など26名ものショコラティエが服飾デザイナーとともにアイディアと技術を注ぎ込んだドレスが、サーカスのダイナミックな演出とともに紹介されました。
ドレスのパーツや、帽子の飾りなどにチョコレートをあしらった衣装をまとったモデルが次々と登場すると、会場は賞賛のため息と歓声に包まれます。最初のステージでは、モデルの着用したドレスの作成者は観客には秘密になっており、審査員とともに、製作者のショコラティエを予想しながらショーを楽しみます。ショーの幕あいには、空中ブランコなどのサーカスをモチーフにしたスペクタクルも。躍動感のある、華やかなステージに一同、魅了される中、いよいよファイナル! 大会関係者とともに、ドレス製作に携わったショコラティエが、デザイナーとモデルとともに登場。拍手喝采のなか、この大会の立役者ともいえるべきスタッフやショコラティエなどが一同に介しました。
そして翌日からの5日間、会場は甘いショコラの香りに包まれ、見渡す限りのチョコレートとチョコレート好きの人々であふれかえっていました。 

カメラマンのフラッシュと会場の熱気にショコラのドレスが溶け始めないかと心配


各ブースやステージの間をぬう会場の通りは、「カカオ大通り」や「バニラ通り」「カボス通り」など、チョコレートにまつわる名前がつけられ、フランスをはじめ、ベルギー、イタリア、日本などのショコラティエや、南米やアフリカの原産地のブースなど、まさに世界各国からのチョコレートメーカーで埋め尽くされています。セミナー会場やイベントスペースでは、ピエール・エルメやアラン・デュカスをはじめ、名だたる有名パティスリーやレストランのデモンストレーションに参加することができ、その場で作りたてのマカロンやチョコレートのデザートが試食できるのもうれしい点。


メゾン・ピエール・エルメ・パリのマカロンのデモ。出来立てのマカロンショコラを堪能


中でも注目イベントは、フランスのお菓子のコンクール、シャルル・プルースト杯の授賞式。シャルル・プルースト杯とは、ルレ・デセール主宰のフレデリック・カッセル氏が中心となって、洋酒メーカー・グランマルニエ社などの協力をもとに、世界のパティシエが味と技を競うコンクール。今回のテーマは「世界における21世紀のクリスマス」。そして、そのグランプリに輝いたのは、東京・目白の「エーグルドゥース」の冨田大介氏。続く2位もパリの「プラザ・アテネ」の中野氏が受賞という、栄えある2冠を日本人が獲得しました。


シャルル・プルースト杯の審査発表には、選手だけでなく会場中がドキドキ

見事グランプリに輝いた「エーグルドゥース」の冨田氏の作品

2位「プラザ・アテネ」中野氏の作品


そのほか、前夜祭で登場したチョコレートのドレスの展示はもちろん、子供がチョコレート作りを楽しめるアトリエなどもあり、子供達が一生懸命、思い思いのショコラを作るほほえましい場面も。 このようにチョコレート好きには「1日ではとても足りない!」と思うようなイベントやセミナーが目白押し。ただ買うだけでなく、チョコレートをさまざまな観点から楽しみ、目の前で体験し、試食し、楽しむことができるのはパリのサロン・デュ・ショコラならでは。


会場にはこんなかわいい子供たちの姿も。この中から未来のショコラティエが・・・


そして、欧米のショコラティエが主流のなか、日本人のショコラティエもがんばっていました! 日本人ではマダム・セツコに 続き女性で2人目の出展となったのは、東京、千歳烏山の「ショコラティエ・ミキ」。
チョコレート会社の開発を経て、基礎をじっくりと学んだのち、2006年に独立して開業。地元に根ざしたおいしさに、その人柄がうかがえる、美樹さんのチョコレート。ご主人をはじめとする、応援者のおかげで、「こんなに早く夢のサロン・デュ・ショコラに出展が実現できました」といいます。今回、繊細でていねいなつくりのボンボンショコラやオランジェットを用意していたそう。しかし当日はアクシデントがあり、残念ながらすべてのチョコレートを登場させることはできませんでしたが、正直で、芯の強さの伺える彼女ならではのチョコレートへのこだわりと、スタッフが一丸となって準備したブースでは、その心意気はきちんとお客様に伝わっていたよう。インタビュー中も、チョコレート好きのフランス人が足をとめて「日本のチョコレート!? おいしそう!」「食べてみたいね」とささやいている声が聞こえたほど。


オレンジ色の華やかなブースと爽やかな笑顔の宮原美樹さん。チョコレートはプラリュを使ったものもあるそう。あの味をコントロールするとは、さすが!


また、今年の特徴としては、チョコレート原産地のブースや、原料からこだわり、自ら現地に足しげく足を運び、独自のチョコレートを開発したショコラティエの活躍が目立ちました。
ガーナやマダガスカルなどの原産地ブースでは、現地の様子や、カカオの加工、技術までを細かく紹介。エクアドルのブースでは、ローストしていないカカオを使ったチョコレートなど、珍しいものも登場していました。さらに、生のカカオの実を味わえるブースもあり、早速試食してみることに。生のカカオはアケビやマンゴスチンのような白くプリッとした、ほんのり甘いフルーティーな果肉で、チョコレートとは似ても似つかない存在でしたが、ここがチョコレートの原点かと思うと、感慨深い体験になりました。


エクアドルのRAWチョコレート。低温でローストした、フルーティな味わいは、衝撃的なおいしさ


高パーセンテージのカカオを使ったチョコレートや、原産地別のチョコレートなど、近年、チョコレートの世界は、異なる産地や種類のチョコレートの味や香りの違い楽しむ傾向にあります。こういったカカオ産地の国の活躍で、ますますこの傾向が高まり、より質のよいチョコレートが世に出まわることでしょう。
また、お店を出しているショコラティエだけでなく、パティスリーの裏舞台で活躍する“チョコレート業界の立役者”の活躍も見逃せません。
チョコレート鑑定士なる、クロエ・ショコラ主宰のクロエ・ドゥートル・ルッセル氏の活動もそのひとつ。
微妙なチョコレートの香りや特徴を識別する並外れた能力をもち、産地だけでなく、その産地ごとのチョコレートの特徴などにも精通した彼女。ヴァローナをはじめ、名だたるチョコレートメーカーのコンサルタントもしていますが、同時に、彼女の真の目的は、「チョコレートを通して、 その産地の人の技術と作物などの復興を目指す」といったもの。 
数カ国の南米などで幼少時を過ごし、発展途上国の復興にかかわる国際機関での仕事経験もあるクロエ氏。生産者の現状を知る彼女ならではの視点で、フェアトレード的な要素も含めたチョコレートの開発を手がけています。
現在、彼女が注目し、現地の作り手に熱心に働きかけて、共同開発しているのがボリビアのカカオ。 低温でローストしたカカオを使ったショコラノワールは、 ローストしきっていない、フルーティーな香りがひろがります。
このスイートチョコは、東京のサロン・デュ・ショコラにも登場する予定だそう。
「チョコレートのおいしさや、食べ方は人それぞれで、みんなと同じでなくていい。その「自分らしいチョコレートの食べ方、おいしさ」というものに個人がもっと気づいてほしい」というクロエさん。セミナーやプロ向け指導だけでなく、個人が楽しむ身近なョコレートの食べ方も積極的にアプローチ。最近は、紅茶や黒茶とあわせて楽しむチョコレートと茶のテイスティングセット「Chocolat Tea」などを発表。泉のようにわきでる、彼女のチョコレートへの情熱はまさにとどまることを知りません。


ショコラ鑑定家のクロエさん。その研ぎ澄まされた繊細な舌で選んだボリビアのカカオを使ったショコラノワールは、かなり印象深い味わい


また、「アンリ・シャルバンティエ」をはじめ、数々のレストランやパティスリーの指導にあたっているパティシエ・クリストルフ・フェルデール氏など、普段、直接は見ることができない彼らのお菓子を、デモンストレーションで間近に見られるのも、サロン・デュ・ショコラならではの醍醐味です。
さらに、数々のショコラティエのブースでは、最新のショコラが試食とともに紹介されています。ついつい足を止めては試食をし、気がつけば買ったチョコレートで両手がいっぱいになってしまうほど。
産地別に分けたタブレットをカラフルな紙で包んだショコラが目印の「プラリュ」は、昨年秋、パリのポンピドゥー近くにお店も開店。ますます勢いのあるショコラティエに。2007年の新商品BIOのタブレットをはじめ、なめらかな口溶けのナッツ入りのBarや、リヨンのスペシャリテ、ピンクのプラリネを練りこんだブリオッシュ「プラリュンヌ」が次々と売れていました。
「ショコラティエ ボナー」のきめの細かさとキレのよさが魅力のタブレットショコラには、原産地シリーズのラインナップがさらに増えました。現地まで赴いて厳選したチョコレートの原料を、それぞれのもつ個性を活かしつつ、「リファイニング」と呼ばれる、チョコレートの粒子を細かくする技術で、えもいわれぬなめらかさを実現したのは、ボナー氏のショコラへの情熱の賜物です。


プラリュのヘーゼルナッツ入りのミルクチョコのバーと、アーモンドの入ったノワールのバー。一度食べたら病みつきに

日本にも店を出したショコラ・ボナー。タブレットの美味しさはもとより、包み紙だけでもコレクションしたくなる


そのほか、今年日本のサロン・デュ・ショコラに上陸する「ジャン・シャルル・ロシュー」のバーボンショコラや、温めたミルクに溶かすだけで、本格的なショコラショーが楽しめる、ドイツのコペヌール社のドリンク用ショコラスティック、新進気鋭のチョコレートメーカー・Zaabär社のペッパーやラベンター風味のスイートチョコレートなど、さまざまな形や風味が注目されていました。


コペヌールのショコラスティックは、何種類かの味わいがあり、温かいミルクを注いで溶かすだけでショコラショーが手軽に楽しめる

香料の輸出入をしている会社がオーナーというベルギーのショコラティエ、Zaabärのタブレット




以上、大盛況のうちに終了したパリのサロン・デュ・ショコラでしたが、2008年10月末のパリを皮切りに、2009年の春まで、ニューヨーク、ロシア、日本と続いていきます。日本では今年1月末の伊勢丹新宿店を始め、伊勢丹グループとして札幌、仙台、京都など全国7店舗で開催を予定しているとのこと。日本にいながらにして、世界のショコラが楽しめる絶好の機会、ぜひ、お見逃しなく!(食べ逃しなく?)









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