パッと目をひく独特のデザインや鮮やかな色合い、いくつものパーツを重ねた複雑な構成・・・。アンリ・シャルパンティエのショーケースの中で、ひと際キラキラと輝いて見えるパリ・コレクション。レセプションの案内状が届くたびに、新たな季節の訪れを知らせてくれるようでワクワクします。なかでも、今回はちょっと特別感が漂っていました。なんと、パリのラボラトワール(お菓子の研究所)で製作を手がけるクリストフ・フェルデール氏が3年ぶりに来日するという嬉しいニュースつき!フェルデールシェフ自身からの解説とともに春夏の新作5品をいただけるというから期待も高まります。

「店内に入ると目に飛び込んでくる素敵な本棚。中には料理やお菓子の本が300冊以上も。実際に読むことができるので、是非!


会場はアンリ・シャルパンティエ銀座本店。オスマン様式のパリのアパルトマンをイメージしたという店は、昔ながらの石造りの建物といい、広々としたモダンな店内といい、とてもお洒落で豪華な雰囲気。非日常の素敵な空間に、いつもながらため息がこぼれます。エントランスを抜けたら、早速シャンパンを片手にフロアをひとめぐり。すっかり贅沢な気分に浸っていると、パティスリー タダシヤナギの柳シェフや、フラウラの桜井シェフ、エーグルドゥースの寺井シェフなど、パナデリアがお世話になっているシェフの方々と談笑しているフェルデール氏を発見!透き通ったブルーの瞳でにこやかに微笑む姿は、想像していたよりもずっと気さくで優しそうな印象。女性ファンも多いとの話に、思わず納得です。

ケーキの話になるとついつい熱が入ってしまうようすのフェルデール氏。途中で通訳が入るのも忘れて、延々と話し続ける場面も。途中で気がついて、「あ、失礼!」と苦笑い


「今回のコレクションのテーマは『人生はお菓子と共に』。私が15歳の時からお菓子作りにかけてきた人生を、様々な形で表しています。その中には、例えば幼少時代の想い出に彩られたものもあります」
故郷アルザス地方のシンプルなお菓子が原点だと、フェルデール氏は言います。例えば、「ヴァシュラン・ダルザス」や「フォレ・ノワール2008」は、アルザス地方で長年受け継がれてきた伝統菓子をヒントにしたもの。そこにフェルデール氏ならではの感性をプラスすることで、現代版の伝統菓子が完成しました。山のようにそびえたつデザインも、懐かしさと新しさが共存する味わいも新鮮。それでいて、どこか優しい食べ心地に仕上がっています。


フェルデール氏にカメラを向けるとこんなに爽やかな笑顔に。パナデリアの会報とオリジナルクリアファイルを渡すと、興味深々で見入っていました。「特にこのファイル、オリジナリティがあってすごくよいアイデアですね!」


「それから、『フユテ・ドジュルディ』と『オゼ・モワ』の2品は、パリの今を表現しました。パリはとてもクリエーション能力の高い町。スペインなど他国の情報もたくさん入ってきます。そういう場所にふさわしい、斬新な組合わせに挑戦しました。皆さんがあっと驚くような味に仕上がったので、是非味わってみてください」
フェルデール氏が最近テーマとしている 、“お菓子らしからぬ”素材を使ったケーキがこれら2品。特に、その見た目からして息を呑んだのが「オゼ・モワ」。“思い切って私を食べてみて!”という名のこのケーキ、主役は、なんとキュウリ!さすがにキュウリのスライスがたっぷり乗ったお菓子を食べるのは、ちょっと勇気がいりそう。でも、文字通り思い切って食べてみると、意外にも相性の良さにびっくり。清々しいキュウリと甘酸っぱいフルーツの組み合わせなので、すっきりといただけます。キュウリに酸味といえば、日本人にとっては酢の物が定番。もしかしたら、フェルデール氏も酢の物を食べて触発されたのかも?思い切って質問をぶつけてみると・・・?
「うーん、それは知らないなあ(笑)。でも、外国に出かけたりいろいろな人との出会いの中で刺激を受けているのは確かですよ。とにかく、頭で考えるよりも前に、味わってみること。味覚や好みは人それぞれだから、いろいろな解釈があると思うんです」
今回のレセプションで最も注目を集めていた、このキュウリのタルト。あれこれ悩まずに、頭をやわらかくしてトライしてみると、新たな感動を味わえそうです。


フェルデール氏と親しい柳ご夫妻にインタビュー。試食したケーキについて伺うと、「どれもとても喉越しが良くて後味が優しいのがいいですね。きっと随分試作をしているんだと思いますよ」


現代風にアレンジされた郷土菓子や、斬新な素材を盛り込んだケーキは、パティシエ界をリードするフェルデール氏ならではの進化を感じさせるものばかり。けれども、食べ始めたときの“驚き”はいつしか“優しさ”へと変わり、後味はとても心地よいものに。そこには、故郷を想い、家族を愛するフェルデール氏の素顔が隠されているからに違いありません。そんな素顔を探しに、是非アンリ・シャルパテンティエに出かけてみてはいかがですか?(2008.03)






フユテ・ドジュルディ ¥525
「現代のパイ菓子」を意味するフユテ・ドジュルディ。形はシンプルですが、実はトマトが隠されているところがポイント。トマトとグロゼイユのコンポートとアーモンドミルクのムースを、厚めのフィユタージュで挟んであります。ふわっと軽やかなでミルキーなムースも、トマトの酸味で爽やかに。さらっと心地よい余韻が残ります。




オゼ・モワ ¥567
まず、この見た目に誰もがびっくりするはず。タルトの上にこんもり盛られているのは、なんと、キュウリとリンゴ!その下にはパイナップルやイチゴのコンポート、火を通したリンゴなど、フルーツがたっぷり詰まっています。全てを一緒に味わうと、まるでフルーツサラダを食べているかのような爽やかさ。レモンの酸味と隠し味の黒胡椒が効いています。キュウリ&リンゴのシャキシャキ感やざっくり焼けたパートシュクレなど、食感の変化も楽しいタルトです。




ポム・ポム・ダムール ¥662
フェルデール氏が幼少時代に親しんだ、縁日の「リンゴ飴」をイメージ。真っ赤な艶々のグラサージュ(イチゴとグロセイユを合わせたもの)をまとった球体は、実はホワイトチョコレートでできています。中にはオレンジ花水風味のクリーム、ジェノワーズダマンド、パッソア(パッションフルーツのリキュール)でマリネしたフルーツカクテルが盛りだくさん。リンゴ、オレンジ、パイナップル、バナナといったフルーツの旨みがたっぷり詰まっています。




ヴァシュラン・ダルザス ¥578
ヴァシュランは、王冠型のメレンゲの中にアイスクリームを詰めて生クリームを絞った伝統菓子。現代風にアレンジされたフェルデール氏のヴァシュランは、純白の雪山にピンクの水玉模様がスイートな印象。胡桃入りビスキュイの上に、イチゴのコンポート、バニラのムース、メレンゲ、生クリーム、そしてホワイトチョコレートという構成で、ヴァニラの甘い香りと乳風味のコクに、イチゴの酸味がプラスされた優しい味わいです。




フォレ・ノワール2008(ドゥーミルユィット) \578
真っ白なヴァシュラン・ダルザスに対して、こちらはチョコレートで覆われた真っ黒な姿が印象的。フェルデール氏の故郷、アルザスでもポピュラーなドイツの古典菓子を、現代版に蘇らせたこのケーキは、グリオットチェリーのコンポート、生クリームとカスタードクリームを合わせたクリーム、チョコレート生地のケーキの土台に、スペキュロス(スパイシーなクッキー生地)を敷いているところがポイント。軽い生地やクリームを引き締めるかのように、シナモンやジンジャーなどのスパイスがキリッと効いています。




アンリ・シャルパンティエ銀座本店
住所 東京都中央区銀座2-8-20
TEL&FAX03-3562-2721
営業時間ブティック 10:00〜21:00
サロン・ド・テ11:00〜21:00(L.O.20:30)
定休日無休
アクセス東京メトロ日比谷線、丸の内線、銀座線「銀座」駅より徒歩3分
2008春夏パリ・コレクション
販売期間
2008.3.1〜2008.8.31
(フユテ・ドジュルディ、オゼ・モワは〜2008.5.31まで)