精製した白砂糖とは明らかに違う、素朴な風味が魅力のメープルシロップ。さて、“メープルシロップ”といえば・・・? そう、パンケーキ!日本では、切っても切れない、定番の組み合わせ。ところが、本場、カナダではだいぶ事情が異なります。パンケーキやヨーグルトにはもちろん、なんと肉にかけたりマリネや煮物に使用することも。どうやら料理やお菓子作りに欠かせない、調味料的な存在のようです。そんなメープルシロップの可能性を知ってもらおうと始まったこのコンテストも、今回で4回目を迎えました。さあ、今年はどんな作品が登場するのでしょう?!興味津々で表彰式に伺いました。



会場はカナダ大使館。始めに表彰式を行い、その後立食パーティーに・・・と前回までのスタイルをイメージしながら伺うと、なんと、いつもとは全く違った光景が!ひな壇を囲むように幾つもの円卓と椅子が用意され、受付で席次表を渡されて各自、指定の席へ。まるで結婚披露宴のようなしつらえなのです。


主催者のクインビーガーデン 小田忠信社長


“メープルシロップの使用量は、日本は北米を除いたNo.1の使
用国なのです”と、駐日カナダ大使 ジョナサン・T・フリード氏



“おいしくてヘルシーで栄養価も高いメープルシロップは、時
代にマッチした素材ですね”と参議院議員 中曽根弘文氏



「今年は日加修交80周年という特別な年を迎え、様々なイベントが開かれました。また、今年の7月には天皇皇后両陛下がカナダを訪問されています。そうしたこともあり、今回はたくさんの来賓の方にお越しいただいています」
と、会を主催するクインビーガーデンの小田忠信社長。なるほど、今回は80周年を記念した特別なスタイルだったよう。続けて駐日カナダ大使のジョナサン・T・フリード氏、参議院議員の中曽根弘文氏が挨拶された後、厳かな雰囲気の中で食事がスタートしました。


メインは「カナダ産牛フィレ肉のソテーとフォアグラのムース メー
プル風味 すこし甘いトリュフソース」。優しい甘みが肉と好相性



3人の名シェフによるデセール盛り合わせ。時に優しく、時に荒々
しく・・・“メープルってこんな味だったんだ!”と改めて実感



早速メニューを見ると、メープル風味の肉料理に加え、メープルシロップやメープルシュガーを使ったデザートの盛り合わせなど、趣向を凝らした内容が目を引きます。聞けば、今回審査員を務める3人のシェフが特別に腕をふるったのこと。メープルの風味をしっかり主張した河田勝彦シェフ(オーボンヴュータン)、さりげなく優しい甘さに仕上げた桑原清次シェフ(現代の名工・ラボラトワール21)、他素材とのハーモニーでバランスよく仕上げた井上佳哉シェフ(ピュイサンス)といった具合に、メープルの活かし方はまさに三者三様!同じ素材を使っているとは思えないほどの個性溢れる味わいで楽しませていただきました。


現代の名工・ラボラトワール21 桑原清次シェフ


オーボン・ヴュータン 河田勝彦シェフ


ピュイサンス 井上佳哉シェフ


料理を楽しんだ後は、いよいよ表彰式に。124作品の中から、一次審査を通過した入賞者8名が紹介されます。まずは、皆さんの作品を見てみましょう。



菓子部門 入賞(5名)
「メープル・フィグ」

難波景子さん(スイートキッチン ananas)
アーモンドパウダーでコクを出し、セミドライのイチジクをアクセントにプラスしたメープルシロップ入りの生地の上に、メープルシロップとサワークリーム、生クリーム合わせたクリームを。焼成したメープルシロップとそのままのメープルシロップ、2種のおいしさが楽しめます。


「ケベックの雫」

元持裕美さん(クラブハリエ 美濠洋工房)
メープルシュガーデコレーションを使った土台のサブレはホロホロとした食感。対して、上の生地はフランジパーヌでしっとりと。中にはりんごとプルーンにたっぷり煮汁をからませたものを入れ、溢れる樹液を表現。


「ガトー・メープル」

日下部嘉樹さん(井村屋製菓 フードサービスジュヴォー)
スティック状の焼き菓子は、クッキーとバターケーキの中間のもろっとした生地。中にはネチッとしたキャラメルナッツが入り、食感の違いをアピールしています。香ばしい香りやコクのある甘みはメープルならでは。


「Exclair 〜エクスクレール〜」

野木将司さん(もんしぇり)
メープルの深い甘みに近い甘みの、バナナに注目。更にパッションフルーツで酸味やカルダモンの香りをプラスすることでバランスをとった一品。各素材が、主役であるメープルの味と香り際立たせるように作られています。


「ま・め〜ぷる」

佐藤貴宏さん(パティスリー・プラネッツ)
黒砂糖にも似た香りをメープルに感じ、和素材との組み合わせにチャレンジ。メープルシロップとメープルシュガーの優しい甘さと独特の香りが、小豆、きなこ、豆乳といった和素材と違和感なく馴染みます。素朴ながら、味わい深い仕上がりを目指しています。





デザート部門 入賞(3名)
「本日のチーズ3種と
ケベックメープルのマリアージュ」

香月友紀さん(プティ ジュール)
チュロスにはメープルシュガーとペコリーノを、ブリュレにはメープルシュガーとシェーヴルを、そしてスノータフィーではアイスクリームの上に熱々のメープルシロップとゴルゴンゾーラを。多彩なアプローチでメープルとチーズのマリアージュを表現。深い味わいを作り出します。


「柿のグラタン・メープルの香り」

コ永純司さん(ザ・リッツ・カールトン東京)
テーマはずばり、「食欲の秋」。旬の柿とメープルを合わせ、季節とメープルを感 じられるデザートを考案。柿のグラタンの部分では、メープルのやさしい甘さが素材 のおいしさを更に引き立て、アイスクリームでは口どけや後味の良さにつながってい ます。


「Source d'Or ―金色の泉―」

小堀真弓さん(レストラン・ラビラント)
メープルに合わせたのは、カナダ特産のアイスワイン。やわらかいムースを口にした時に、メープル独特の味わいと華やかなワインの香りが広がるように工夫しています。カナダが舞台の「赤毛のアン」の物語をイメージ。





いかがでしたか?表彰式では実際の作品を目にすることはできませんが、写真を見る限りではどれも甲乙つけがたい出来栄え。そして栄えある銀賞、金賞に輝いたのは・・・?



東京製菓学校で行われた実技審査のようす


「銀賞は『メープル・フィグ』の難波景子さん、金賞は『本日のチーズ3種とケベックメープルのマリアージュ』の香月友紀さんです!」
優勝した香月さんの作品は、ゴルゴンゾーラなどの癖のあるチーズとメープルとのコンビネーションの良さが決め手となったよう。チーズを使ったデザートを専門とするレストランで修業している香月さんだから、チーズの特性をよく把握していたのでしょう。
「河田シェフの『フランス伝統菓子』という本に衝撃を受けて、この世界に入りました。そのシェフに私の作品を食べていただけたなんて、本当に夢みたいな気持ちです。これからも個性あるものづくりを目指していきます。そして伝統菓子が生まれたフランス各地を訪ねたいと思います!」
と感無量で、受賞の喜びと今後の意気込みを語ってくれました。


銀賞を受賞した難波景子さん


金賞に輝いた香月友紀さん


最後に、審査員を務めた3人のシェフからはこんなコメントが。
「私も感無量で、じーんときています。皆さん、現場での経験を活かしてきたと思いますが、チャンスは現場にこそあると思うんです。是非、またチャレンジしてください!(井上シェフ)
「応募写真の撮り方もうまいし、作業も綺麗だし、最近は皆さんコンテスト慣れしているなと思います。ただ、実技審査では時間が長かったせいか、少し活気に欠けていたかな。それが作品にも出てしまったものがあったような気がします。そんな中で、香月さんの作品はメープルの味わいをシンプルに表現していたのが良かったですね。癖がなく優しい味のメープルは、使い方がなかなか難しい素材。でも、フランスのヴェルジョワーズにも負けないおいしさがありますよ。(桑原シェフ)」
「私にとって、メープルはとても癖の強い素材なんです。うちの店では扱ったことがなかったため、今回、いろいろと試作を重ねました。その時に意識したのが、メープルをしっかり感じられるような使い方をするということ。副材料としてではなく、主原料として使えれば、メープルの味も伸びてくると思います。そういう作品がもっと出てくるといいですね。(河田シェフ)」


“メープル風味”と言われれば、すぐにイメージもできて誰もが好きなフレーバーですが、お菓子に活かすのはなかなか難しいようです。でも、産地を限定して質にこだわったクインビーガーデンのメープルシロップは、自然の甘みや雑味がなんともいえず魅力的。独特の甘みとうまくつき合って、新たなおいしさが生まれることを期待しています!

(2009.12) 






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