今年で3年目を迎えるフードフランス、今年もこの4月より、アラン・デュカス氏が選ぶ7人のシェフの饗宴がスタートした。「フランス料理に国境はない」と考えるデュカス氏。第一回目は初めて日本のフレンチのシェフが選ばれたと聞き、その技と味を堪能すべく、早速、会場となるレストラン「ブノワ」へと向かった。
デュカス氏を動かしたそのシェフは、京都の「匠奥村」の奥村直樹氏である。氏は「西洋膳所おくむら」の2代目として子供の頃から鍛えられてきた味覚を活かし、独自のフレンチスタイルを創りだしている。
まず、その料理を紹介するとしよう。





DÉJEUNER
(最終日のランチメニューより)



八寸を思わせる前菜の一皿
白い皿にかえでの若葉があしらわれ、その繊細さは懐石料理のよう。アスパラの黒胡麻和え、ごぼうのスープ、ゴマ豆腐にうにといった料理がならぶ。




鯛のクリュ キウィフルーツと彩り野菜のパトネ
 きゅうりとワサビのドレッシング
鯛の刺身に、きゅうりのジュレドレッシングがかかる逸品。見た目はあくまで和だが、その味わいはカルパッチョで、キウィが爽やかな甘さをプラスしてくれる。




赤座海老のジャガイモ包み
クスクスの付け合せとカレーソース 水菜サラダ添え
ジャガイモのフリットで包まれた海老は、火の通し方が絶妙で、ふわっとした食感に仕上がっている。隠れ技の、にんにくをミルクで伸ばしたピュレが、カレーソースの下で、しっかりとその役目を果たしている。




スズキのパイ包み焼き
うすい豆のピューレとヴルーテ 赤ワインソース
春らしい色合いのワインと、緑のうすい豆のソースが爽やかな印象を与える。スズキは、一口大に切った身とすり身をあわせ、パイ生地で包まれたもの。添えのトマトは刻んだキノコのフリットがのり、皿全体に深みを与える。味覚、嗅覚、視覚など 五感にしっかりと訴えかけてくる一皿。




フルーツのグラタン サバイヨンソース 大葉のソルベ
大葉のソルベは、初めての味わいで、しその香りが口全体を引き締めてくれる。フルーツのグラタンには、小豆やうずら豆の炊いたものが入り、フルーツとアングレーズの味わいに和が入ることで、食感、味を通して日本人を意識させられる。




チーズ盛り合わせ(コースには組み込まれていません)
特徴的だったのは、なんとブリーと大徳寺納豆の組み合わせ。ブリーにこれを合わせるのか!という驚きの中、口にしたこのチーズ、お互いが主張しあいながら美味しさを盛り上げている感じがする。他に木の芽を入れたブリーも。




そのほか、パンや食後のプチフールも楽しみのひとつ





一通りコースをいただいた後、奥村シェフに話を伺う機会をいただいた。こちらの質問にひとつひとつ丁寧に答えてくれるシェフ。穏やかな答えの中に、奥村シェフの「情熱的な生真面目さ」のようなものを見たような気がした。

料理について、そしてご自身のことについて伺ってみた。




ソースの色合いがとてもきれいですが。

私にとってソースは、出汁の延長線上にあります。しっかりとしたブイヨンをとり、味をしっかりとさせます。たとえば今日の赤ワインのソース、赤ワインをつめてフォンドヴォーをあわせていくところはフレンチのスタイルですが、その後もう一度ワインを足したりバターソースを加えることで、私の味にしています。(確かに旨みがしっかりした、赤ワインの香りの残る珍しいソースでした)



鯛のカルパッチョが刺身のようでしたが。

そうです。和で魚を生で扱うときは、コリコリとまではいかないまでも、出来るだけ新鮮なものを選び、歯ごたえ、食感、味の出方までを考えます。今日の付け合せの野菜もシャク感の残る切り方、合わせ方をしています。よくあるカルパッチョですと、身が少しやわらかくなったものを薄くカットして皿に盛りますが、今回は魚を美味しく食べたいと思ったので、このような盛り方にしました。私の料理はいつも、こんな風に自分が食べたいと思うような作り方をします。



チーズと大徳寺納豆の組み合わせはおもしろいですね。

普段、店ではチーズを出していません。実は初めてこれを作ったんですよ。
このアイデアは、知人のフレンチシェフの末富さんがフォアグラのソテーに大徳寺納豆をのせてサービスされていたのを思い出し、私もこの味が好きだったので、チーズに合わせてみました。特にブリーの熟成が進んだものとの相性が抜群です。もうひとつ木の芽をあわせましたが、これも香りがとても合うと思います。




料理を始めたきっかけは?

実は小さい頃から父のそばにいながら、父に料理を教えてもらったことはありません。すべて自己流といってもいいかもしれません。ただいつもそばにおいしいものがあり、それを食べてきた環境がありました。学校を出てから料理の仕事に就きましたが、最初はサービスとケーキ作りが唯一自分に出来ることでした。料理を覚えなきゃいけないという感じはありましたが、実際には若干25歳という若さで、祇園の店を任せられるようになって、あらためて独学で料理のことを始めたという感じです。しかし小さい頃から父の姿を見て育ってきただけに、苦労はありましたが、しっかり乗り越えることができたと思っています。


素材について。

料理を作るときはいつも、様々な素材を思い浮かべ、その中から季節感、味、香り、食感などを考え、出来上がりをイメージしていきます。その上で全体のバランス、相性、アクセントを考えるようにしています。父が店を始めた時代は、物流も良くなく、フレンチの食材も今のように簡単に入手できる状態ではありませんでしたが、身の回りの素材を見極め独自のフレンチに仕立てあげていました。そんな料理を味わっていましたので、今自分が料理をやるようになって、素材の選択に自由度があることを、とても幸せだと思います。
しかし、すべてフランスから同時進行的に素材を持ってきて料理を作っても美味しいとは思いません。それより身の回りにある美味しい素材をどうフレンチに仕上げていくかを考えていきたいと思います。





器について。

京都の店ではもっと料理の数が多いのですが、器は見た目や料理との相性を考えてお出しししています。最も好きな・・・というかインスパイヤされる器は、絵柄のある皿で、何気なく描かれた一筆が大胆でしっかりとしたフォルムを持っているものです。京都には伝統の美があり歴史があります。その中で料理するということはある意味日々緊張感をもって仕事をしていくことになります。それは、本当に美味しいものを愛し続ける人がいて、お金ではなく手間隙かけて創った料理とそれを盛る器、食べる作法等、すべてに伝統が存在するからなのです。


今の料理のスタイルについて。

実は京都にはかなり前からカウンタースタイルのフレンチ割烹がありました。最近、東京でも流行りのスタイルですが、京都では当たり前のスタイルとして定着しています。和食というのは、料理の順番や次に何が出てくるかがある程度分かる料理です。私の店でこのスタイルでフレンチを始めた頃、「君のところは次に出てくる料理が何か想像できないところが楽しい」と言われたことがあります。自分としてはあたりまえにやっていただけに、改めて客観視することで、これが自分のスタイルであることに気づかされました。最近、フランス人がフランスでこのような和のスタイルを取り入れていくことに、若干減滅することがあります。できればフランスの文化を大切にしてほしいと思います。自分としては、料理は流行を追わない自分流を貫いた料理が食べたいですね。




想い出に残る料理はありますか?

昔、父に連れて行ってもらった料亭「中村」の“ぐじの酒蒸し”です。一匹をそのまま料理したもので、今でもよく思い出します。


これからどのような料理をめざしますか?

先ほども言ったように、素材ではフランスと時差のないものが入手できます。しかし独自の開拓精神というかアイデアのない料理が多すぎます。自分としては昔のレシピを再現したり、今まで目にしなかった料理やスタイルなどを探求してみたいです。その中で自分のスタイルを構築できればと思います。贅沢が根付いてしまっている昨今ですが、本当に美味しい、自分が食べたいと思う料理を作って、お客さまの期待に応えていければと思います。


最後にお聞きします。ケーキで一番好きなものは何ですか?
(即答するシェフにびっくり)


「シュークリーム」です。(さぞかしシュークリームは食べこんでいるようです)
焼き菓子では、特に「フィナンシェ」が好きです。

ずっと真面目な顔で答えてくれていたシェフ。シュークリームの答えの時は、こんな満面の笑みに




インタビューを終えて。

パッションのあるフレンチシェフに出会った気がした。料理は軽く、目で見ても季節感のある美味しさを感じることが出来るものであった。料理を食べ終わったとき、少し物足りない気がしたが、デセールを食べ終えた時、しっかりと満足できるコースに仕立てられていた。奥村シェフの創る料理は華やかで、その一つ一つがアシェットデセールをいただいているようである。京都という伝統と革新が共存する中で美味しいものをたくさん食べ、美しい器や伝統と歴史に囲まれた奥村シェフ。これからの日本の味を育てていってくれることを実感したインタビューであった。



「匠 奥村」 
住所 京都市祇園町南側570-6
TEL075-541-2205
URLhttp://www.restaurant-okumura.com/



5月22−27日まではニースの「La Reserve」のヨウニ・トルマネンを招いての
イベントです。「FOOD FRANCE」は、まだまだ続きます。
今後の予定など詳細はこちらから。

http://www.chateauxhotels.jp/event/