KIRINの環境活動シンボル「エコジロー」


夏も近づき、冷たいビールが恋しい季節。ひょんなことから、KIRINのビール工場を見学させていただくことになりました。パナデリアがビール!?と不思議に思われてしまいそうですが、酵母や発酵、熟成など、ビールとパンには共通項がたくさん。あまりの興味深さに、案内役のお姉さんを質問攻めにしてしまいました(ごめんなさい!)。まずは、歴史から紐解き、ブルワリーツアーで学んだKIRINのビール製造工程をレポートします。ビールの秘密を知ったら、きっとビールがもっともっとおいしくなるはず・・・!



◆パンとビールのルーツを探れ!


“イースト発酵の異母兄弟”

パンも、ビールも、酵母を“母”とするイースト発酵の申し子。厳密にいうと、酵母の種類が違うので、パンとビールは、いわば発酵食品一家の異母兄弟。だから、パンとビールってこんなに相性がいいのかな?たとえば、カリカリのプレッツェルに冷たい黒ビール。これさえあれば、何もいらない!
パンとビールの相性の良さには、何かもっと秘密がありそう。過去を辿れば、運命的なつながりがあるかもしれない・・・。そんな予感を胸に、ビール片手にパンをもぐもぐ食べながら、パンの文化史をめくっていくと、ある面白い史実にたどり着きました。


“発酵パンの誕生”

時は遥か、紀元前3000年頃。現イラクのメソポタミア地方。それ以前にも、小麦粉と水をこねて焼いただけの「平焼きパン」というものは存在しましたが、酵母菌で発酵させるものではなく、今のパンとは程遠いものでした。この無発酵のパン種の食べ残しを放置しておいたら、どうだろう。ぶつぶつと泡を吹き、匂いは腐ったように酸っぱい。しぶしぶ焼いてみたら?――どうしたものか、おいしかった!なんと、摩訶不思議。これはきっと、神様からの贈り物だ!
・・・という、なんともあっけらかんとした発見と礼賛により、パンの歴史は大きく動きました。そして、同時にビールの歴史もスタートしたのです。


“ビールは、パンの賜物!?”

当時の人々は、この神の贈り物たる発酵パンを、食用として作るほか“飲料”として使用するということを覚えました。これが、ビールの始まり。彼らは、焼き上げた発酵パンを水で溶かし、それをさらに発酵させてビールを作ったのです。まさに、パンが無ければビールはこの世に生まれてこなかった。「エジプトはナイルの賜物」という言葉があるのなら、まさに「ビールはパンの賜物」。パンとビールは切っても切れない関係だったのです・・・!


※参考文献「パンの研究―文化史から製法まで―」(柴田書店)




◆KIRIN横浜ビアビレッジ


やってきました!「KIRIN横浜ビアビレッジ」。ここにはかつて、キリンビールの前身である「スプリングバレー・ブルワリー」があり、日本で初めてのビール醸造が行われていました。

明治18年当時の横浜山手工場


KIRINビール横浜工場は、首都圏へのビール供給拠点として、年間50万リットルの生産能力を持つと同時に、地域とのコミュニケーションの場としてビアビレッジを併設。敷地面積約2万uの構内では、工場見学を体験できる“ブルワリーツアー”の他、ビールセミナーやビール作りの体験教室の開催、おいしいビールが愉しめるレストランや緑地の解放などをしています。





◆ビールの原料


KIRINのビール1缶(350ml)に必要な原料は以下の通り。

●麦芽(二条大麦) 手のひら1杯分
●ホップの花5個
●水 約3リットル
●酵母
●その他副原料(米、コーンスターチ)など



●二条大麦



ビールの原料となる麦芽は、主に二条大麦から作られます。大麦は、穂の形から二条大麦と六条大麦とに分けられ、穂の形を上から見たときに二列のものを二条、六列のものを六条といいます。二条大麦は、低たんぱくで、でんぷん質がたくさん含まれているので発酵する力が強く、ビール作りには最適。別名「ビール大麦」とも呼ばれ、日本のビールの主な原材料となっています。



●ホップ



ビールに独特の苦みと香りを与え、泡立ちを良くするのがホップ。ホップは、つる性の多年生植物。雄株と雌株があり、ビール醸造には、雄株につく花の受精していないものを使います。この花の中に含まれる「ルプリン」が、苦みや香り成分を含み、また余分なたんぱく質を沈殿・分離させ、ビールを清く済ませて泡立ちを良くさせる働きをします。ホップの中でも、香り高く、上質のチェコ産の「ファインアロマホップ」がKIRINのビールには使われているそうです。



●水

100以上の審査基準をクリアしたものを使用。ヨーロッパの硬水がドイツでよく飲まれる黒ビールに適しているのに比べ、日本の軟水はミネラル分が少なく淡色ビールに適しています。KIRIN横浜工場では、富士山の山中湖に水源を持つ相模湖から取水しており、この豊かな水資源がビール作りに適しているのだそうです。



●酵母



KIRINの醸造研究所には、酵母を凍結保存する「酵母バンク」があり、約400種類の酵母がストックされています。このうち、300種がビールの醸造に適した酵母。酵母は、製品のタイプに合わせて厳選され、テストを行って、出来栄えや適正を見ていきます。その性質は様々ですが、品質の安定したビールを作るために、まずはその酵母が元気であることが必要です。活性の度合を見るために、KIRINでは「酵母細胞内pH測定法」という技術を開発。酵母の細胞内のpH値を計測することで、正確に活性の状態がわかるというものです。個々の測定値は、解析データとしてまとめ、ビール作りに反映させているそうです。



●副原料

副原料の米・コーンスターチは、いわば調味料的な役割。米やコーンスターチを加えることで、100%麦汁のオールモルトビールに加え、まろやかな味わいになります。


・・・それにしても、これらの材料がどうやって、琥珀色のビールになるのでしょう?ブルワリーを見学しながら、製造工程を教えていただきました。





◆ビールが出来るまで


@製麦
二条大麦に水をたっぷりと含ませ、発芽させます。「緑麦芽(グリーンモルト)」と呼ばれ、発芽の際にビールの醸造を手助けする“酵素”が生成されます。酵素が充分に出来たところで、熱風で乾燥させて発芽を止め、根の部分を除去します。こうして出来上がるのが、ビールの原料となる「麦芽(モルト)」です。



A仕込

仕込釜


麦芽は、糖化・発酵させやすいように粉砕し、お湯と共に糖化槽に入れます。副原料は、この時に入れられます。酵素の働きにより、たんぱく質やでんぷんが糖に変わり、あまい「もろみ」ができます。
この「もろみ」をろ過機に通し、澄んだ麦汁にします。この時、最初に流れ出てきたものが「一番搾り麦汁」。キリンの商品『一番搾り』は、「一番搾り麦汁」のみを使ったもので、渋みが無くさっぱりとした味わいになるそうです。「一番搾り麦汁」が流れ出た後に、加圧して出される麦汁は「二番絞り麦汁」といい、コクと苦みのある、別のおいしさがあるのだそう。
これらの麦汁にホップを加えて煮沸し、ビール独特の苦みと香りを引き出します。煮沸には、麦芽の酵素の働きを止め、麦汁の濃度を一定にさせる役割もあります。



B発酵



いよいよ、発酵。仕込釜で煮沸した麦汁を冷却し、酵母を加えて発酵させます。発酵中に酵母が増殖し、その過程で麦汁の中の糖分をアルコールと炭酸ガスに分解し、ビールの香味成分が生成されます。ビール1リットルを作るのに、約600億個の酵母が働いているといわれています。
ビールの発酵には2種類あります。

・上面発酵
常温(15〜20℃)で発酵させるビール。この時、酵母はタンクの上面に浮き上がってきて発酵する。 苦みと香りが強いビールができる。

・下面発酵
低温(5〜10℃)で発酵させるビール。この時、酵母はタンクの底に沈んで発酵する。 穏やかな味わいのビールができる。

日本のビールのほとんどは、下面発酵で作られています。約1週間で発酵が終わり「若ビール」が出来ますが、この段階では、まだ香りも味わいも充分ではありません。



C貯蔵

貯蔵タンク


「若ビール」を貯蔵タンクに移し、約0℃の低温で1〜2ヶ月間、ゆっくりと貯蔵を行い熟成させます。すると、若ビールの中に残っている麦汁のにおいや、発酵中に生成された不快なにおいが取り除かれます。また、濁りがオリとなって沈殿し、清く澄んだビールになります。



Dろ過

熟成を終えたビールをろ過機に通し、発酵の役目を終えた酵母や濁りの原因になるたんぱく質を取り除くと、透き通った琥珀色のビールが出来上がります。生きた酵母をそのまま詰めた、ろ過をしない「無ろ過」タイプのものもあります。これは酵母やたんぱく質成分が残っているので、見た目は少し濁っていますが、豊かな味と香りが特徴。酵母が生きているので、品質保持の為、10℃以下冷蔵配送が必要となり、日持ちも通常のものよりは短くなります。



E缶詰め



こうしてできたビールは、缶フィラー(缶詰め機)で缶に詰め、空気が入らないようにすばやく蓋をし、巻き締めを行います。





◆ビールを飲み比べてみよう


生ビールをおいしく注ぐコツは、初めに泡を適量入れ、後からゆっくりビールを注ぐことだそう!


たくさん勉強して、にわかビール博士に・・・。おいしさの秘密を知ったら、やっぱりビールが飲みたくなります!ツアーの最後は、おまちかねの、できたてビールの試飲です。
試飲したのは、「キリンラガービール」「一番搾り生ビール」「キリン・ザ・ゴールド」の3種類。



キリンラガービール
一番搾り生ビール
キリン・ザ・ゴールド
ホップの効いたパンチのある苦みが特徴的。ビール本来のコクと一本筋の通ったしっかりした味わいなので、飲み応えがあります。



一番搾り麦汁のみを贅沢に使ったビール。麦の旨さが詰まったコクと、混じり気のないすっきり上品な味わいは、誰からも愛されそう。



麦芽を100%使い、琥珀色の美しい水色と、クリーミーな泡立ちが特徴。苦みとコクのバランスが良く、キレの良いクリアな飲み口。麦の味わいを実感できる強い旨みがとても印象的。







◆“生”ビールってなんだろう?


よく耳にする“生”ビールという言葉。一体、どのような意味なのでしょうか?
ろ過後、缶詰めの工程の際に、加熱殺菌しないビールを「生ビール」といいます。かつては、酵母の働きを止めるために加熱処理をしていましたが、醸造の技術が進歩して、熱処理の代わりにろ過によって酵母や微生物を完全に取り除くことができるようになったそうです。日本では、この熱処理されていないビールを「生ビール」と呼ぶようになりました。この非加熱処理の生タイプが主流となっていますが、熱処理と非加熱処理では味の違いはほとんど無いそうです。



◆自然から生まれ、人の手を経て・・・


麦・水・酵母・ホップ・・・シンプルな素材から作られるビール。はるか紀元前の昔から、今まで進化し続けているのは、まさに作り手の努力によるもの。そのおいしさを大きく左右するのが、発酵・熟成を担う酵母です。目指す味わいのビールに合わせ、300もの酵母から選び出し、何度も試作を重ね・・・。気の遠くなるような作業ですが、伝統と革新を行きつ戻りつしながら、さらなるおいしさを求めていく努力は、極上のバゲット一本を作るため、粉に一生を捧げるパン職人たちの姿と重なります。ビールはアルコール分があるので、嗜好飲料として捕らえられがちですが、すべて天然の原料から生まれたいわば自然食品。適量飲酒を守りつつ、作り手の努力と自然の恵みに感謝しながら、ビールをおいしく飲んでいきたいものです。                                          (2008.5)








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