加賀百万石の城下町、金沢。
その雅な歴史のなごりを残す日本庭園、兼六園に程近い、金沢県立美術館内に9月20日「ル ミュゼ ドゥ アッシュ KANAZAWA」がオープンしました。
本店となる「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」はご存知の通り、辻口博啓氏の故郷、石川県七尾市の辻口博啓美術館内にあるミュージアム&カフェ。砂糖を使って表現する“シュークルダール”など、アートとの共生を図った新しい試みは、数ある辻口ブランドの中でも特別な位置にあります。
今回オープンするのはその2号店になりますが、県立美術館と辻口氏のコラボというのが気になるところ。さらに、“コンセプト-G”なるある秘密が隠されているのだとか・・・。
という訳で、オープン前日に行なわれたプレスカンファレンスに出席してきました!



緑豊かな兼六園エリアに建つ金沢県立美術館


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


モダンで直線的なデザインが印象的。本多の森の緑が心地よく調和している


エントランスから奥へと誘う鏡張りのアーチ。
その輝きに導かれるように進んでいくと、生命力溢れる「本多の森」の緑がパノラマでこちらに迫ってくる。
天井に流れるのは、星降る銀河のようなきらめき・・・。
気が付けば、周りを囲んでいるのは辻口氏の創り出す世界。美しいケーキや焼き菓子、ヴィエノワズリーにコンフィズリーがこちらを見つめている。
日常から非日常へ。どうやらここには、“辻口ワールド”へと誘う魅惑的なるワナが仕掛けられているようだ。


黒とシルバーで統一されたシックな店内。約100種類のアイテムが並ぶ

山本氏いわく「宇宙にあると言われるモノリスがイメージ」という通路上のデザイン


「こんにちは」
真っ白なコックコートに身を包んだ辻口博啓氏と、空間デザイナーの山本コテツ氏が登場した。


辻口博啓氏。金沢ではオープン告知のCMも放映されるなど注目度は高いようだ


東京、自由が丘のモンサンクレールに始まり、ジャンルや場所を変えて次々と新たなステージに挑んできた辻口氏。すでに地元石川県に「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」をオープンさせているとはいえ、今回とは立地も環境も違う。オープンに当たって、どんな想いがあったのだろうか。


地元素材を使ったケーキを始め、東京では食べられないものばかり

生ケーキすべてはここで作られる。出来たてを食べられるのが嬉しい


「オープンに当たって金沢の色々な場所を見てきましたが、この『本多の森』の美しさに魅せられ、“ここしかない!”と思いました。地元素材に目を向けたいと感じたのは、石川のル ミュゼ ドゥ アッシュを立ち上げた時。様々な食材を探し回り、珠洲の塩や能登大納言、キンジソウといった素晴らしい素材に出会いました。そしてそのなかで、実感するようになったのが金沢の素晴らしさ。今回は美術館という場所で地元への敬愛の想いを込めて、地産地消のケーキを作っていきたいと思っています」


“金澤かすていら”は、白山蜂蜜と加賀棒茶の2種類



ヴォーグ \550
地元素材、能登ワインでイチジクをコンポートにし、ムースフロマージュと合わせた一品。イチジクと葡萄のフルーティな味わいが楽しめる。





コンセプトの異なる10のブランドを展開する辻口氏だが、ル ミュゼ ドゥ アッシュの鍵を握っているのは“地元素材”。氏が子供の頃から親しんでいたという「能登ミルク」や「セイアグリー健康卵」、「加賀棒茶」といった素材をいかしたパティスリーはここでしか味わうことができないもの。


濃厚な味わいの能登ミルク

北陸には、まだまだ知られていない美味しい素材がたくさん眠っているという


「そして今回は、パティスリーだけでなく、新たな試みを用意しました。名前は“コンセプト-G”と言います」
“H(アッシュ)”ならぬ“G”とはいったい?

「“G”は玉露(ぎょくろ)の意味です。実は6年前。京都の宇治でこの玉露と出会い、そのおいしさに驚きました。そのときに、“これだ!”と思ったんです。そこで今回は店内に茶室を設け、コース仕立てのデザートを出すための空間を作りました。デザインは千利休が最初の茶室で用いたといわれる“黒と銀”がテーマです」
辻口氏を驚かせたという玉露の味わいも気になるが、デセールをコース仕立てで合わせるという発想はさすが。しかも、古都金沢の地でというところが興味深い。


玉露とスイーツの相性はいかに?


「私の信念は“和をもって世界を制す”ということ。今回のル ミュゼ ドゥ アッシュ KANAZAWAにより、この世界観をもっと広げていきたいと思っています」


壁面には大きな辻口氏の写真が。サインを入れてニッコリ


そして、山本氏からの挨拶が続く。
「今回のデザインでは、七尾のル ミュゼ ドゥ アッシュとの共通性、美術館のカフェという社会性、そして“コンセプト-G”のストーリーを明らかにするということを考えました。エントランスから続くアーチは連続する鳥居をイメージしています。そして、その奥にあるのが茶室。玉露という神聖なものへと続く参道を連想していただければと考えています」


エントランスの先に待ち受けているのは深紅のバラを湛えたオブジェ。森とバラがチラチラと見えるように・・と考えられているという


生命力溢れる森と、生命の象徴ともいえるバラを経て、神聖な玉露(コンセプト-G)へ至る・・、そんな心憎いストーリーがこの空間に描かれているのだそうだ。
言われてみれば、色や質感が全く違うとはいえアーチは鳥居の連なりを思い起こさせる。ちなみに、鳥居とはいわば世俗から離れ、神聖な領域へと入るための門。このエントランスをくぐると、無意識のうちに辻口ワールドに引き込まれるように仕組まれているのかもしれない。


まるで森にせり出したようなカウンター席。清々しい気持ちでスイーツを味わえる


「コンセプト-Gに関しては森を直接感じながら、お茶やお菓子をいただけるということを重要視したデザインです。カフェ部分は、窓に面してカフェスペースを作り、景観を楽しめるようにと考えました。この空間を、ぜひ県民の方にも楽しんでいただければと思っています」


前回のル ミュゼ ドゥ アッシュのデザインも手がけた山本コテツ氏



モンターニュ \350
加賀伝統野菜のひとつ、五郎島金時を使ったタルト。金時たっぷりのクレームダマンドの中には、赤ワインが香るレーズンが。シナモンの香りも心地よく、金時という素材から想像するよりも上品な味わい。





金沢県立美術館は、昨秋から約1年がかりで大規模な改修を進めており、「ル ミュゼ ドゥ アッシュ KANAZAWA」もリニューアルの一環。それだけに、県民からの期待も大きいといえるだろう。

ところで、聞けば聞くほど気になるのが“コンセプト-G”。そこで、さっそく内部を案内していただいた。


茶室へと続く細い通路。どんなことが待ち受けているのかと期待が高まる


店内の最深部に位置する茶室は、鳥居を思わせるアーチが続く細い道の先にある。やや小さく作られた入り口をくぐると、急に視界が開ける。目の前には漆黒のカウンターと茶窯から立ちのぼる湯気。“黒と銀”のテーマの通り、天井と床は黒の漆塗り、そして、壁面は銀箔が施されている。シックな配色に色を添えているのは、壁一面に大きくとったガラス越しに見える自然の緑。茶室独特の濃密な空間に見事な開放感を与えている。


畳ではなくカウンタースタイルと、すべてが辻口流。もっと気軽に玉露のおいしさを知ってもらいたいという


「いらっしゃいませ。よろしければ、お茶をいかがですか?」
この日はプレスカンファレンスのため実際のコースを食べることは出来ないが、噂の玉露はいただけるとのこと。さっそく、カウンターに落ち着いた。

千利休に倣ったとはいえ、装飾やしつらえは非常にモダン。伝統と近代の和が不思議な調和を生み出している。


いよいよ玉露が登場!


「一煎目の玉露になります」
差し出されたのは厚みのあるガラスで作られた黒い茶器。銀の茶托ならぬグラス受けに据えられ、最初から“茶”の概念がくずされる。


特別にオーダーしたという玉露用のグラス。ぽってりと厚みがあり、口当たりがやわらかい


口に近づけると、お茶とは思えない濃厚な薫りが立ちのぼる。そして、ひと口飲むと衝撃が走った。今まで知っていたお茶の味とはまったく違う。まるでスープがダシかのように、旨み成分が凝縮した味なのだ。少量を口に含んだだけにもかかわらず、アミノ酸とグルタミン酸が舌にグッと押し寄せる。


針のように細い茶葉は、このまま口に含んでもおいしい


「玉露は茶道のなかでも究極と言われています。茶葉を作る人もそうですが、煎れる人にも技術が必要とされるものなのです」
使用する茶葉は京都・宇治の高田茶園のもの。二煎目までは低い温度で煎れるが、三煎目は熱く沸かしたお湯で。すると、いわゆるお茶らしい味わいになる。茶葉の種類や煎れ方でこんなにも変わるとは驚きだった。


熱い湯で入れた三煎目の玉露は陶器の茶器でいただく


最後に出していただいたのは玉露のほうじ茶。
「ほうじ茶は炒り立てが一番おいしいんですよ」
卓上に置かれた炉を使って軸の部分をその場でゆっくりと炒り、充分に薫りを引き出していく。香ばしさのなかに、玉露ならではのキレのある風味が立ち、口の中がすっきりと改まる。
実際には、お茶に合わせて泡のデザートと3品のアシェットデセールが登場するというから、これはもう贅沢というほかない。


湯を通したあとの茶葉に醤油をたらしたものも登場。色鮮やかで、おひたしのような味わい



エビと加賀レンコンのキッシュ \350
主役はずばり加賀レンコン。シャキシャキ、ホックリという食感と、甘くて濃いレンコンの風味がしっかり。プリンのようアパレイユとプリッとしたエビ、そしてほんのり香るカレーの風味が素材の味を引き立てている。





ちなみに茶室は定員5名までの完全予約制。11時から1時間区切り(コースは45分)で行なわれるため、誰にも邪魔されない特別の時間を楽しむことができる。1日わずか5、6組しか入ることが出来ないため、その意味でも特別な楽しみとなりそうだ。





金沢、そして美術館という大きなバックボーンの中で展開する「辻口ワールド」。
空間や味を楽しむのはもちろんだが、辻口博啓という人間の世界観を鑑賞してみるのも面白いかもしれない。




ル ミュゼ ドゥ アッシュ KANAZAWA
住所 石川県金沢市出羽町2-1 石川県立美術館内
Tel076-204-6100
Fax076-204-6116
営業時間10:00〜19:00(ラストオーダー18:30)
定休日無休
アクセス 美術館公式サイトをご参照ください http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp/



※このページの情報は掲載当時のものです。現時点の情報とは異なる可能性がございますのでご了承ください。