スイーツ好きの仲間たちが集い、憧れのパティシエの講習会を受けながらおいしく楽しい時間を共有したい・・・そんな想いが込められた「スイーツプリーズ」が発足しました。代表を務める小松崎さんは大のお菓子好き。その小松崎さんが実際に食べておいしいと感じたケーキを、シェフの想いと共に紹介していこうというこのプロジェクト、記念すべき初回を飾ったのはサロン・ド・テ・スリジエの和泉光一シェフ。和泉シェフといえば、「ワールド・チョコレート・マスターズ(デザート部門で優勝)」や「ワールド・ペストリー・チーム・チャンピオンシップ(チョコレートピエス部門で優勝)」など国内外で数々の賞を受賞するなど輝かしい経歴の持ち主。今や世界中の注目を集めるパティシエとあって、自然と期待が高まります。そして現れたのは、黒いコックコートに身を包んだシェフ。


ひとつひとつの素材について丁寧に解説するシェフにじっくりと耳を傾けます


「これまでプロ向けの講習会で講師を務めることが多かったので、今回のようなケースは初めて。だから気合を入れて黒いコックコートにしてみました(笑)。今日は生ケーキと焼き菓子それぞれ1品ずつ作っていきます。生地の差し替えなども一切なしで細かく説明していきますので、聞き逃しのないように!」

今回の講習会で披露されたのは、バレンタイン用にと誕生した「サンセールマン」と、スペシャリテの「ケーク・ルージュ」。素材のことから始まって配合や製法の意味、器具の説明に至るまでじっくりたっぷりと説明していただきました。およそ3時間にわたる講習時間の後、完成したお菓子がこちら。


1.サンセールマン
チョコレートとヘーゼルナッツが主体のプティガトー。ビター系のチョコレートとナッツが主張し合うしっかりとした味わいながら、重さを感じさせることなく仕上がっています。ふわりと空気を含んだ軽い口どけのムースも印象的。



2.ケーク・ルージュ
しっかりとした弾力がありながら、噛み締めるとしっとりと口に馴染むタッチが魅力。口の中でカシスの甘酸っぱさが心地よく広がります。カシスリキュールをたっぷり使用した上掛けのグラス・ア・ローもインパクト大。




素材や製法を徹底的に突き詰めるという和泉シェフ。独特の食感や味わいは、自身の知識や経験に裏打ちされた確かなものなのです。それでは、世界が認めた和泉ワールドをとくとご覧下さい!



-- 食感の秘密 --

今回最も印象的だったのが、ケーク・ルージュの食感。“しっかりしっとり”とした口当たりは、しっとりやわらかな食感に馴染んでいる私たち日本人にとっては、とても新鮮にうつります。この食感の秘密は“粉”にありました。

ゆるゆるだった生地も、こんなにしっかりボリュームのある焼き上がりに!


「これはとても水分量が多くて無茶な配合なのですが、水分をバランスよく抱き込んで骨格となってくれるのが日本製粉の「クラシック」。国内産小麦100%で作られていて、フランスの中力粉にあたるもの。食感を感じるけれどスーッと溶けていくような生地を作るために辿り着いたのがこの粉だったんです」

そしてもうひとつの大切なポイントが、生地の温度。卵、糖分、牛乳、溶かしバターなどの材料を温めた状態で次々と加えていきます。こうするとオーブンに入れる前からベーキングパウダーが作用し始めるため、綺麗に膨らんでくれるのだそう。“こんなにゆるくて大丈夫?”と思わず不安になるほどシャバシャバだった焼く前の生地も、焼成後はしっかりと膨らんでいたから驚きです。

カシスのアンビバージュをたっぷりと。斜めに傾けておけば、必要な分だけかけることが可能

ケークの仕上げはカシスのグラス・ア・ローで


実はこのケーク、配合や素材を少しずつ変えるなど何度もマイナーチェンジを繰り返し進化を遂げているもの。他にも様々なタイプのケークがあるそうなので、気になる人は早速お店へ!



-- レンジが活躍?! --

「電子レンジってお菓子作りにすごく役立つんですよ。WPTC(ワールド・ペストリー・チーム・チャンピオンシップ)の時にも頻繁に使用していました。試しに、普通と違ったアングレーズソースのやり方をお見せしましょうか?」

なんと、ボウルに卵、砂糖、牛乳を入れて混ぜ、レンジで温めるだけという手軽さ!ただし、時々レンジから出して良く混ぜること。誤って加熱しすぎるとスクランブルエッグになってしまうため要注意です。

アングレーズはサンセールマンのクレーム・ショコラ(サバラン型)に使用


「だんだん卵が固まってきて、トロミがついたら出来上がりです。同じ方法でクレーム・パティシエールも作ることができます。器具もホイッパーとボウルだけなので洗い物も少なくてすみますよ」

いかに短時間で効率よく作ることができるかが、コンクールでは重要なポイントになるのです。もちろん、普段のお菓子作りにも充分活用できそう。早速皆さんも試してみてはいかがでしょうか?



-- 素材へのこだわり --

いい素材を見つけたら、どんどん取り入れていくのが和泉流。まだあまり知られていないものを探し出すのも得意なようです。今回もいろいろな素材を紹介してくれました。なかでも目を惹いたのが「ソミュールトリプルセック」。

ソミュールトリプルセックを加えて、艶々で香り高いグラッサージュ・ショコラの完成


「コアントローの替わりに使っています。さわやかで香り高いので、焼き菓子に入れてもきちんと香りが残るんです。今までになかったタイプのトリプルセックですね。きっとお酒が苦手な人でも大丈夫なのでは?」

とのシェフの言葉どおり、オレンジの果実味あふれるエレガントな飲み口はお菓子の素材との相性も良さそう。このリキュールを「サンセールマン」のクレーム・ショコラとグラッサージュ・ショコラに忍ばせることで、上品で爽やかな余韻が実現しました。

ケーク・ルージュには「グヨ クレーム・ドゥ・カシス」でインパクトを


また、サンセールマンの味の決め手となるチョコレートは、フランス・カオカ社の「エクアドル70%」と「三大陸61%」を使用。カオカといえば、パナデリアでもお馴染みの有機チョコレート。シェフはどんなところに魅力を感じているのでしょうか。

「有機栽培が無条件においしいわけではありませんが、これはいい味ですね。レシチンも入っていないし、カカオ本来の味が出ていると思います。単体で使うよりも、乳製品と合わせたほうが良さが活かせるチョコレートですよ」

クーヴェルチュールの状態では酸味や苦味、渋みが際立つ「エクアドル70%」も、生クリームのまろやかな甘みがプラスされるとバランスのとれた味わいに。

シェフのお気に入りという「ミクロ リキュール・ド・ローズ」もお目見え。魅惑的なローズカラーにうっとり(今回の講習会では不使用)


他にもチョコレートの味がしっかりと感じられるベルクリンのカカオパウダーや、フレッシュ感が際立つオレンジコンフィ、ベルギー産発酵バターやゲランド産のフルール・ド・セルなど、妥協を許さないシェフ。おいしいお菓子づくりの第一歩は、やはり良い素材選びにあるようです。



-- 器具 --

良質な素材や高度なテクニックを活かすためには、良い道具も欠かせません。というわけで、様々な道具が飛び出すのもプロの講習会ならではの魅力。

ピケが不要のシルパン。仕上がりもさっくり

タルトリングの内側にはローリングの「カカオバタースプレー」をふきつけて型抜きを


「パート・サブレ・ショコラを焼く時には、天板にベーキングマットの「シルパン」を敷きます。普通は余分な油脂分が下にたまって熱で押し上げてしまうのですが、これは油がシートの下に抜けてくれるという優れもの。だからピケの必要がないんです」

器具の世界も次々と進化しています。最近では、シリコンとグラスファイバーで作られた 焼き型「フレキシパン」も頻繁に見かけるようになりました。当然、シェフも使用しているのですが、

「フレキシパンを使うのは、ムースなどを仕込む時。型離れも良いし洗うのも楽だからとても便利です。でも、焼成用には鉄の型を好んで使っています。というのも、そのほうが表面の焼きがしっかりと入るから。それぞれの良さを活かしてあげたいですね」

お店の奥から引っ張り出してきた古いパウンド型もお気に入りなのだとか。新しいものをどんどん取り入れつつも、昔ながらの道具の良さも大切にしたい、そんな姿勢が感じられます。


堂々たる構えのピストレ用機械。驚くほど薄くコーティングすることが可能


サンセールマンの組み立て作業の時には、ピストレ用の機械が登場。ピストレとは、チョコレートにカカオバターを加えた柔らかいチョコレート液をケーキなどの表面に霧状にふきつける機械で、スプレーガンのようなもの。といっても、シェフのそれはこれまでに見たこともないような大きさです。いったいどんなものなのでしょう?

「世界堂にいって、グラフィックデザイナー用の機械を探してきました。これ、すごいんですよ。口径がわずか0.9mmと小さいので、通常のピストレよりも細かい霧状になってくれる。だから、ごく薄くかけることができるんです」

ピストレ用のチョコレートは、あくまでも表面の乾燥を防いだり、外見を良くするためのものだから、必要以上にかかりすぎないほうがいいとのこと。確かに、一般的なピストレの仕上げに比べると、見た目にもわかるほどの薄さ。更に、食べてみればその差は歴然。コーティングしていることをほとんど感じさせないから驚きです。

セルクルを外すときには、バーナーの火を直角にあてずに平行にあてれば、ムースが溶ける心配もなし




いかがでしたか?素材をとことん追及していく姿勢に驚かされたり、普段はなかなか目にすることのない器具が飛び出したりと、プロの貫禄に圧倒され続けた今回のデモンストレーション。といっても、シェフはとても気さくな方。笑いや冗談を交えながらの和やかなムードの中で会は進められました。

「次回の講師にはロートンヌの神田シェフを推薦しました。僕とは全然違うタイプなので、今回とは随分雰囲気が変わると思いますよ」

スイーツプリーズでは、毎回、講師の紹介で次の講師が決定するという、ユニークなシステムで進んでいきます。特別な制限もないのでシェフの色がそのまま出るのも面白いところ。皆さんも是非参加してみてはいかがですか?




Sweets Please

代表:小松崎 喜美子
Eメール:bon-vivi@tf6.so-net.ne.jp