吉祥寺をはじめ、東京、神奈川、埼玉と幅広く展開する「パン工房 アンテンドゥ」。めざすのは町のパン屋さんというだけあって、食パンなどのベーシックな食事パン、惣菜パンやおやつパンはもちろん、フランスパンなどのハード系のパンまで、あらゆる客層に応える幅広い品揃えに圧倒される。吉祥寺ロンロン店では1日に約110~120種類のパンが並ぶというから驚きだ。
その中でも人気商品は4種類(夏季は3種類)あるというメロンパン。メープルメロンパンや高級感を出したパティシエのメロンパンというラインナップからもわかるように、アイデアパンの種類が非常に豊富なこと、また今のように石窯の効果がもてはやされる前から、フランスの石を使った石窯を導入するなど随所にアイデアが見受けられる。




今回は5月から発売されている「ニューヨークチョコブレッド with キットカット」について、開発をされた製造部長内田純氏にお話を伺った。



「実は『セレンディピティ(幸せな偶然)』というラブコメディの映画にヒントを得て開発したものなんです。その中で主演の男女がニューヨークのカフェで毎回オーダーするチョコレートドリンクをイメージして作りました。チョコレートのほろ苦さで大人の恋を演出したつもりなんですよ」



チョコペーストとブラックココアをたっぷりと練りこんだパンをカップに見立て、その中に生クリームとストロー代わりのキットカットが添えられている。
「実はこのキットカットのサクサク感が非常に合うんですよ。それから好きなオランジェットをヒントにオレンジソースを入れています。オレンジが爽やかに全体をまとめてくれていると思います」
吉祥寺ロンロン店を皮切りに、現在はアンテンドゥ首都圏6店舗で展開し1日100個限定で発売、売れ行きは好調だそうだ。



仙台出身の内田さん、実はパンとは無縁の青山学院大学の仏文科に在籍していた。
「学部がら女性ばかりだったので居づらかったですね。その頃に食べたデニッシュのおいしさから、どんどんパンの魅力に惹かれていって。」
子供の頃から、食パンを砂糖水やイチゴミルクにつけて食べたりしていたという内田さん。大学時代にパンの道に目覚め、アンテンドゥへ入ったのだそうだ。



「アンテンドゥでは新商品の企画を
出せるチャンスはみんなにあります。逆に製造じゃない人間の方が奇抜なアイデアを出すこともあるんですよ。メインで開発を担当しているのは2人。お客さまとの会話や、買い方を見ていてヒントが生まれることが多いですね」




アンテンドゥでは厨房がガラス越しに見える設計を採用。また、店舗によってはDJ風にマイクを付けたスタッフが「ただいま○○が焼き上がりましたー」とアナウンスをしながら棚にパンを並べていくスタイルを取っている。どれも店とお客さまとの距離を少しでも縮めるためのアイデアだ。取材中にも、お客様から質問を受け笑顔で応えるスタッフの姿が目に入った。
「パン屋というとお客さまとは接さず裏にこもることが多い。でも敢えて接客もしながらパンを作ることで人間的な成長もできると思うんです。パンを媒体にして人間性を磨く、そしてパンの楽しさを広めていければいいですね」



内田さんのおすすめは、天然酵母を使い穀物やドライフルーツのたっぷり入ったミューズリー。一日のスタートに食べることをイメージして作ったと言う。「体に良くてもおいしくないものは続けられないと思うんです。おいしいというちょっとした幸せは体にもいいですからね」
フランスのパン屋ではない、あくまで一般大衆向けの日本のパン屋です、と言い切る内田さん。いわゆるパン好きとは違う、多くの日本人のパン生活を豊かにしてくれる存在にエールを送りたい。