色と光の宝箱、万華鏡。くるくると回すたびに、その印象を変える小さな筒に、誰もが夢心地になったことでしょう。今回のテーマは「カレイドスコープ・万華鏡」、その輝きをケーキでどのように表現するのでしょうか。

今回紹介されたケーキで感じたのは、「花」、「香」、「色」、そして「輝き」。ヴァローナの講習会というと、当然ダークな色合いと濃厚なショコラの味を想像しますが、今回の作品はどこにショコラが使われているのかわからない華やかで軽さのあるものばかり。まず、その色鮮やかで楽しさのあるプティガトーをご覧ください。



五感で味わえる楽しい作品が並びます


まるでマニキュアのような、パール感のある斬新な色使い!






思わず目をひく紫色のプティガトー。天然スミレ香料を使用したマンジャリのクレムーと、マンゴー風味のイボワール(ショコラブラン)の組み合わせ。紫の色粉を使ったナパージュと金箔、砂糖漬けのスミレの花で飾ります。


南国では良く使われるハイビスカスの乾燥花と赤い色粉を使ったジュレと、マロンの組合せ。透明なグラスに飾ります。


ショコラ・マンジャリとグリオット、そしてジャスミンティーの組合せ。面白いのはレシピにある“泡立てたガナッシュ”という表現、まず冷蔵庫で冷やし、その後泡立てて使用するのだそう。仕上げに、寒天にサクラの花びらと銀箔粉を散らし固めたものを飾ります。


アイスキャンディのようなキュートなデザイン。ヒナゲシ香料で香り付けしたイボワールのムースを赤い色素を加えた鮮やかな色でコーティング。最後にヒナゲシの乾燥花を散らします。


今回のコレクションの中では落ち着いた色合いのプティガトー。ゼラチンではなく粉末寒天で固めたカフェ・クリスタルとリンゴのペクチンを使用したクルミのヌガティーヌを飾ります。


フランスではポピュラーなオレンジ・フラワーウォーターの香りが印象的。好き嫌いが別れるクセのある味ですが、ショコラの風味がそれを和らげ、食べやすい味になっています。ナパージュには生のオレンジ果汁とオレンジ・フラワーウォーターを使いますが、加熱しないのでフレッシュ感が活きています。


バラの乾燥花、ピンクグレープフルーツのセミ・コンフィ、ライチを組み合わせた、このテーマにぴったりのプティガトー。艶やかな見た目の美しさ、口に入れるといくつもの味が広がっては1つにまとまっていく楽しさ、そしてそれぞれの食感の面白さは、まさにカレイドスコープ!ムースにはイボワールを使用していますが、主張しすぎず他の風味を引き立てるに留まっており、さすがボウ氏!という一品。



ご覧の通り、まるで花のような色合いの斬新さが光るコレクションでした。特筆すべきは、ナパージュヌートルに金の色粉を加えたもの。パール感のあるグロスのような輝きには、思わずうっとり!残念ながらこの色粉は日本では使用が許可されていないそうですが、あくまでも時々頂く嗜好品であるケーキ(パナデリアには違いますが!)にはこんな遊び心があってもいいのでは、と感じました。 また、デザインはシンプルながら、寒天特有の角のある固まり方を活かしたジュレを飾ったり、乾燥花や乾燥させたフルーツをグラニュー糖と一緒に粉末にして上に乗せるなど、アイデアも盛りだくさん。
季節は春。フランスの風が爽やかに吹き込んだような、刺激的で心弾むような講習会となりました。




<<ミニ・インタビュー>>


いつも笑顔で温かく私たちを迎えてくださるボウ氏と奥様。この日は体調が悪かったようなのですが、快くインタビューに応じてくださいました。
まず、今までとは違った印象のテーマについて伺ってみました。

「このテーマにした理由は3つあります。まず自分の中から沸きあがってきたインスピレーション、それからヴァローナのお菓子=黒というイメージを覆してみたかったということ、そして冒険心を取り入れてほしいということです。作り手としての自由な表現をもっとしてみてほしい、というメッセージを込めたつもりです」

今回のプティガトーに感じたワクワクするような気持ちは、きっとこの“冒険心”にかき立てられていたのでしょう。また、見た目の華やかさはもちろん、随所に花の香りを使っていたのも今回の特徴です。

「花を使うのは、フランスでは1つの傾向でもあります。私もそれに賛同し取り入れている訳ですが、この機会に日本の製菓界にも紹介したいと考えて決めました。日本でも桜や梅などを使うので、通じる部分もあるのではないでしょうか」

講習中には「バラの乾燥花はどこで買えますか?」という質問もあり、参加者も興味津々の様子。

「店のショーケースを全部こういったケーキにする必要はありません。色の鮮やかなものが1つあるだけで雰囲気が変わり、お客様の目を楽しませることができる。それが大切なんです」

元々嗜好品であるケーキには、やはりときめきを感じさせるプラスアルファ的な要素は欠かせないということを実感しました。

さらに、テーマを考えるのにはさぞ時間がかかっただろうと伺ってみると。

「・・・ここだけの話ですが、実は30分で決まってしまいました。妻と一緒に考えたのですが、テーマがパッとひらめいたので」

と声をひそめるジェスチャーで教えてくれました。 一瞬の閃きがイメージとなり、そしてボウ氏の味覚や知識、さまざまなパーツと結合し、新しい作品が生みだされていく・・・。それはまさにカレイドスコープのよう!
素材の性質を正確に理解して使いこなす、というクレバーさと、感性の豊かさを併せ持つボウ氏。チョコレートを他の素材と併せて脇役的に使うことで、コクや丸みを出すなど、ショコラの使い方はさすがと感心するばかりです。 今年の秋にも来日予定のボウ氏。次回はどんなケーキを紹介してくれるのでしょう、興味のある方はぜひ参加してみてください!



講習風景:
「いい天気」の友田シェフ、「アテスウェイ」の川村シェフも参加していました


受講修了者にはディプロムが授与されます


ドライフラワーを粉末にしてアレンジするという秘策も


今回使用したオレンジ・フラワーウォーター。瓶が素敵です


今回はなんとボウ氏の弟さんも!一緒に日本を旅行してきたそうです