毎年、この時期がくるとなぜか南の楽園バリ島へ行きたくなる。美味しい果物、美味しい空気、すべてをリフレッシュするには最高の楽園だ。

実は今回のバリ島の旅、事前にある情報をキャッチしていた。でも正直本当かどうか半信半疑だったのだが、思い切って車をチャーター、その情報を確かめるためバリ西部熱帯ジャングルに向かった。その情報とは。

「バリ島にカカオのプランテーションがある!」

リフレッシュどころか、思いっきり仕事モードのヴァカンスに突入だ。 ということで、早速バリ島カカオの取材報告を致します。

念願のカカオ農園に来ることができて満足!

色とりどりのカカオのカボスをお土産に



早朝から地図、ビデオ、カメラ、ノート、蚊や虫対策グッズ、など装備品をチェック。車の手配の確認をする。案内をお願いしたのは、グデ(Gede)氏、彼の本職はドライバーだが、実家がカカオ農園をやっていて、しかも奥様のコマン(Koman)さんの実家やお姉様の嫁ぎ先もカカオ農家を経営、さらに親戚にはカカオ農園のある村の作物集積場関連の仕事をしている人もいるという。そこで今回、グデ氏ご夫婦にカカオ農園への案内をお願いした。

車はトヨタのランクルのマイナー版「Kijan号」、滞在先のバリ島南部ヌサドゥア地区のホテルを出発、観光地や風光明媚な場所を抜け、車は一路バリ島西部の国立公園内へと向かう。途中、サーフポイントで有名なタナロットをぬけ、断崖絶壁の上に立つ寺院ランブーシウィを通過、いつもなら観光客の集まる場所へ向かうところだが、一切立ち寄らず、がたがた道をひたすら走ること3時間半、今回の目的地Negara(ヌガラ)の町が見えてくる頃、車は一般道を離れ山へ向け入っていく。棚田のあるきれいな景色の場所を走り抜け、細い車一台がやっと入れる道を10分ほど進むと、目指すグデさんの実家に到着。小さい屋根付のガゼボ(一休みする高床の場所)に案内され、彼の母、弟さんを紹介される。やがていいにおいがしてきた。キャッサバ芋の椰子砂糖煮だ。見ると金時そっくりの芋がボールに入って出てきた。味は甘い煮物のようなもので、こくのある旨みを感じる。そばの庭では、グデさんが若い椰子の実を割って、ストローをさしてココナッツジュースをふるまってくれた。自然の恵みそのものでの歓迎にドライブの疲れも忘れてしまった。ガゼボにさわやかな風が吹きぬけ、しばし休息をとる。

ほっくり甘くておいしい芋は、
日本人にもなじみやすい味


ほのかな酸味がさわやかなジュース。
飲み終わったら割って中の白い果肉を楽しむ

お互いあまり言葉は通じないが、一生懸命もてなしてくれるのは、日本の田舎に行ったような懐かしさを感じさせてくれる。周りには、犬やニワトリ、ひよこ、ネコ、などが自由に歩き回っていた。
休憩のあと、グデさんの農園を案内してもらう。椰子の木で全体が被われ、やわらかな日差しが届く畑には、カカオ、ランブータン、ジャックフルーツなどの木があり、下には所々パイナップルが実を付けていた。畑の入り口付近には、鶏舎、豚小屋などがあり木陰で気持ちよさそうに過ごす動物たちの姿を見ることができる。畑の奥のジャングル状になったところには小川が流れており、そこにはたくさんのアヒルが飼育されていている。ほぼ卵をとるためということだが、近づくと泣き声もすごいが、100羽ぐらい全部が群れをなして移動するさまは壮観である。

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自由に歩き回っているひよこ。ここではブロイラーなど考えられない

結局はみんな人間に食べられる運命?これはお祭りのごちそう用に飼っているそう
いったい何羽いるのか?いっせいに泳ぎだす姿は見ものです


カカオの木を見上げ、幹に直接なっている実を収穫してみた、意外にポロリと簡単に取れる。近づいてみると、1cmほどの小さい白い花が幹のあちこちに可憐に咲いている。緑のカボスや黄色のカボスがたくさんついているその木は、素人ながらもっと間引きして大きい実にしたらいいのにと思うほど、成り行きにまかせて実をつけていた。グデさんがカカオの実をその場で割って、中の果実を食べさせてくれた。ほんのり酸味がある甘いもので、ねっとりした中になんともいえない香りが口に広がり、結構やみつきになる味わいだ。この中の種がカカオビーンズになる。この白い果肉は口の中で溶かすように食べるが、うっかり噛んでしまうとチョコレートのあの苦い味が広がり、まるでフルーツを食べていて種まで噛んでしまった時のような感覚である。真ん中の種とそのまわりについた皮膜はとてもはがしにくいことに驚いた。


まわりの白い部分はフルーツのような爽やかな甘さ

自然にまかすままに実をつけた木
木の高いところにもたくさん実がついているのが見えますか?

(カカオの赤ちゃん→→→)
小さく実をつけ始めたカカオが・・


(→→→カカオの大人)
・・こんなに大きく育つ。木の幹もさぞや重いことだろう

じつはこの農園のカカオの収穫は早いという。一般的には一年中花がつき、実をつけるそうだが、ここでは2〜3週間に一度、黄色く色づき熟したものをまとめて収穫し、畑のあちこちにまとめておき、たまったところで中の白い果肉だけを集め加工するそうだ。若い実は淡い緑色かもしくは紫色のもので熟してくると黄色くなるとのことである。この農園の木は低木もあるが、ほとんどが大きな木で高いところに実をつけるので専用の長い竹ざおを使って採るなど収穫の作業は大変だという。その後、グデさんの実家を後に、次の訪問先へ向かうことにする。

車は山道をさらに奥地へ向かう。両側は熱帯のジャングルのような感じで、椰子やシダ類などがびっしりと続く。よく目を凝らすとなんとその奥はカカオの畑らしく、あちこちに紫色や黄色のカボスが見える。さらに山道を走ると道端に青いシートのうえにカカオビーンズを天日に干しているのが目に入ってきた。道の片側が斜面になってきた、下には沢のような形状になった急斜面が見える。カカオの木が下のほうまで続いている。車はやがて開けた場所をとおり、目指すコマンさんの姉の家へ向かう。ここは、村の茶店兼よろずやという感じで、お菓子からタバコ、ビンいりのガソリンなどを売っている。さらに店の周りはカカオ農園になっている。ご主人はカカオのほかにコーヒー、クローブ、ナツメグなどを作っている。店では車やバイクの修理までこなしているという働きものである。我々が到着したときもバイクの修理を始めていた。早速、店の前の縁台でお茶をごちそうになる。ふと脇をみるとなんと庭木で日よけになっている木はカカオだった。紫色の小さい実がたくさんなっていた。コマンさんの姉、子供などが我々を珍しそうにながめてお互い微笑合う時間がつづく、子犬がじゃれてきたり、鶏が足の周りをひよこをつれて走り回る、本当にのどかな山間の農家である。一休みの後、農園に入る。ここはジャングルの様相が強く、斜面に様々な作物というか植物が密生している。少し斜面を登ると、右手に山羊の小屋、水牛などが椰子の木陰に見え隠れしてくる。山羊小屋は高床式になっており下に糞がたまりこれが肥料として使われるそうだ。まわりは高い椰子の木で囲まれ、点々とカカオの木が実を付けているのがわかる。やはり下のほうにはパイナップルや、ジャックフルーツ、コーヒーなどが同じ斜面に作付けされている。グデさんによると、コーヒー、カカオ、バニラ、丁子、ナツメグなどで各農家が生計をたてているとのこと。確かに椰子の木のまわりの低木には、たくさんのバニラが植えてある。今回残念ながら時期がはずれており、果実を見ることはできなかったが、実は結構な収穫があるそうだ。話を聞く傍らで、コマンさんが我々のためにパイナップルを収穫してくれている。まわりを見回すと、農園のあちこちに収穫されたカカオの実が集積されていて、黄色い色が鮮やかである。ある程度まとまると、醗酵、乾燥と進めていくようだ。





ジャングルのようにうっそうとしたカカオ農園。バニラの木も見える

実のしまったこぶりのパイナップルは意外と甘さがしっかり

日本では見られないジャックフルーツ。
バリでは“ナンカ”という名前でよばれている


この牛の糞も肥料になる

ここで、カカオの加工について、グデさんに質問してみた。
まず、収穫は2週間に一回程度、それぞれの木ごとになっている実の数も異なるし、熟しかたも異なるので、一年中ずっと、熟したら採り、加工するというのを繰り返しているそう。今抱えている問題に中の果実が木質化してしまう病気が発生しているとのこと。カボスのまわりはなんでもないので見た目にはわかりにくいが、中の白い実が病気で褐色に変化してしまうそうだ。この村全体では農薬を一切使っておらず(農薬を購入するまでの収入がない、いい意味で完全オーガニックということになる)どうやっていいのかわからないとのことだ。醗酵のことについて質問すると、「そんなことは知らない」という答えが返ってきた。

まるで打ち捨てられているかのようだが、ある程度数がたまると実を割り中身をとりだす

この赤い色は実はまだ若いカカオ。このあと黄色くなるそう
これまたゴミかと見まがうが、実はこの袋の中で醗酵させている


ではどうやってカカオ豆にするまで加工しているのか現場で聞いてみた。
カカオの実を農園の何箇所かに集積したあと、その場で実を割り、中身をとりだし、大きな穀物用の袋に詰めていく。それを2、3日家の周りに放置しておくとのこと、現物をみたところ明らかに乳酸醗酵している匂いがした。中は結構どろどろにとろけた状態である。ある程度これが進んだところで、これを椰子の葉で編んだ戸板のようなものにならべ日光に当てて乾かす。その板の上を見ると茶色く変色したものが乾いてくっついている。さらに、半乾きになったところで、ビニールのシートにならべ道路沿いの日が当たる場所でさらに4日ほど乾燥させて出荷するとのこと。雨季にはこの仕事が難しく大変な作業となるそうだ。道路沿いは結構さわやかな風が吹き抜ける場所で、匂いはほとんど感じられない。

ここに並べて半乾きにさせる

その後、道路わきに並べ4日ほど乾燥させる。日差しが強いのでカリカリな状態に乾燥する

出荷は村に一箇所あるコマンさんの叔父さんが経営する集荷場へ運ばれる。今の取引は大体4日目のカカオビーンズ1kgで12000Rp(約150円)、村の人の収入にしてみれば結構な現金収入になるのだそうだ。コマンさんの姉の家に戻ると、コマンさんの父親が来ていた。印象的だったのは彼の手のひらが茶色く変色していたことだ。醗酵したカカオを毎日さわっていると手が黄褐色に変色してしまうそうだ。彼は農園の仕事のほかに、村では村長的存在で、祭りの時の仕切り役になっているとのこと。バリ島のヒンズー教の祭りは大変なもので、食べ物やら、衣装やら準備に大変お金がかかるとのこと、多分毎日の仕事もこの神様にお祈りを捧げるためにしていることだろう。
ところで、彼らはチョコレートを食べるのどうか聞いてみた。実は彼ら自身がチョコレートを楽しむことはほとんどないそうだ。確かにここでは冷蔵庫があまり普及していなくて、チョコレートを保存しておく環境がないことは一目瞭然であった。したがって、カカオ豆を生産していてもそれが最終的にどのような品質を求められているのか、生産者たちにはあまりわかっていないというのが現状のようである。
最後に、コマンさんの家からさらに10分ほど山道を上がったところにある、集荷場へ向かうことにした。途中、道端には各農家がそれぞれカカオビーンズを乾燥している光景があちこちに見られた。集荷場では、カカオのほかに、ナツメグ、サグ(柿のようなフルーツ)などが集められていた。お土産に、カカオビーンズを分けてもらうことにした。

無造作に置かれたカカオ豆。その後麻袋に入れ、やっとどうにか商品っぽく(?)なる

ここではスパイスなども集められている


この集荷場の前にグデさんの叔母さんが、やはりカカオ農園をやっていて、そこではコーヒーも収穫しているとのことで、おいしいバリコーヒーをご馳走してくれた。思ったより苦味は少なく、ほのかな酸味と香りがとてもすばらしいものである。砂糖をたくさん入れていただきコーヒーがこんなに美味しいものかとあらためて味わった。砂糖は、家の周りにある砂糖椰子から自分で採り使っているとのことだった、そばの台所では、バナナの若芽を砕いて、豚のえさを作っていた。下の方の斜面をみると青いバナナがたわわに実っているのが見えた。


お米を使った現地のお菓子とバリコーヒーをごちそうになる

コーヒーの実



たくさんの収穫を後に、カカオ農園の探訪を終え、夕刻、Negaraを後にすることにした。山を降りる道すがら、正面に海が見えてきた、真っ赤な太陽が今にも沈もうとしていた。今回の旅でもっとも印象的なシーンであった。
確かに知識があれば、もっといい作物を採ることができ、当然お金にもなることだろう。
バリでいいカカオが採れるようになれば、村人も豊かになりおもしろい展開になる予感はある。でもそれが本当にいいことなのかどうか、大きな自然を目の前にして、そんなことを考えながらの帰り道であった。