東急東横線東白楽駅から歩くこと3分。平成3年にオープンした『ル・デリス』は、牧田二三世さんが切り盛りする、ビルの地下にあるカフェ。1階の入り口には目立つ看板などはないのでうっかりしていると通り過ぎてしまいそう。そこにあるのはアールデコ調の鉄製の優美な扉のみ。いったいこの下にどんな世界が広がっているんだろう。


 

階段を降りて入り口の扉を開けると、絵が展示されている小さなスペースがあり、そしてその奥が喫茶スペースになっている。喫茶スペースはカウンターとテーブル席に分かれ、テーブル席は白いパーテーションで仕切られている。白い壁のいたるところに掛けられた絵はスポットライトで照らし出され、まるでギャラリーにいるかのような雰囲気。周囲の喧騒とは無縁の落ち着きある空間が心地よく、アンティーク調の椅子に腰掛けるとついつい時が経つのを忘れてしまう。訪ねてくるお客さまも時間を気にせずにゆっくりとくつろいでいる様子。


「地下のひっそりとした空間でやりたかったんです」

と話す牧田さん。
彼女は結婚後、嫁ぎ先の家業を手伝っていたが、その後自分で喫茶店を開店するに至った。もともと作ることが好きだった彼女にとって、自分の作品を食べてもらえることが素直に嬉しかったそうだ。

手作りケーキとお茶の店として始めた『ル・デリス』。ところが、自分たちが食事の時に食べていた料理をお客さまにリクエストされ、だんだんメニューが増えていくことに。今ではサンドイッチに始まりスパゲッティ、グラタン、カレーやリゾットまでがメニューに並ぶ。中でも、メニューのトップに位置していることもあり気になる存在が自家製パンで作ったサンドイッチ。このパンは紅麹入りで薄いピンク色をしている。なぜパンに紅麹?


「初めは市販のパンを使っていたんです。でも、薬っぽい匂いが気になって自分で焼くようになりました。紅麹を入れたのは体にいいと聞いたから。紅麹に含まれているメバロチンという成分はコレステロールを下げる効果があるんですよ」。

ケーキは日替わりで5〜6種類。今田美奈子さんのお菓子教室やスイスのリッチモントで学んだ菓子がベースになっている。そこに牧田さんの嗜好がプラスされ、独自のケーキが出来上がった。その嗜好とは「甘さ控えめでやわらかいもの」。たとえば、極力砂糖を減らしてゆるゆるに仕上げた“マンダリン入りヨーグルトムース”や、ボソッとしているのが好きではないからと生み出された“とろとろブラウニー”など、彼女の手にかかるとどんなケーキもとろんと柔らかくなるから面白い。好きな素材だというチョコレート系のケーキが多いのも特徴。




「甘くないというお客さまもいるけれど、私は甘さ控えめが好きなんです。ここで食事をしてケーキまで食べていく方もいるので、食後でも食べやすい味にしています」。

更に入り口脇の棚には自家製の焼き菓子もずらり。




これだけの品を一人で揃えるのはさぞかし大変だろうと心配してしまうが、

「手際がいいことだけが取り柄だから」

と牧田さんは笑う。しかし、実際には早朝の4時から仕込みに入っているそうだ。




銀製のポットで出されるコーヒーや、ワインのデキャンタに入れられたアイスティーを飲みながら自家製のケーキをいただいていると、時間の流れがゆったりと感じられる。開店の11時から17時頃までこの店ですごすお客さまがいるというのも納得してしまう。
まるで自宅に招いているかのような感覚で、自分の好きなものだけを提供しつづける牧田さん。その姿勢はこれからも変えていくつもりはないようだ。 “肩肘張らないで自然体でやっているだけですよ”そんなふうに謙遜し、苦労を感じさせない温かみのある笑顔が印象的だった。





ル・デリス
住所
横浜市神奈川区西神奈川3-17-4
泰山ビル B1F
TEL
045-432-0202
営業時間 am 11:00 〜
定休日 火曜日・水曜日