今回、服部製菓専門学校にて開催されたのは、ドモーリ社の創設者であり、カカオをこよなく愛するジャンルーカ・フランゾーニ氏によるチョコレートレッスン。
日本ではまだあまり馴染みのないドモーリ社ですが、うわさを聞きつけてか、開始時間の前から人でいっぱい!通路にも椅子を設けて対応するほどの盛況ぶりに、今か今かと期待が高まります。 そして登場したのは、想像していたよりもはるかに若く、ヘーゼルナッツ色の髪に目元がなんともやさしそうなイタリア紳士。明るいブラウンのスーツをスマートに着こなすあたりは、さすがイタリア!の貫禄です。




まずは、ジャンルーカ氏から今回のレッスンのテーマについてご挨拶が。

「カカオ豆の産地ベネズエラでは、生産者の方々は、自分たちが作ったカカオ豆がどんな風に食べられているのか知りません。私は、生産者の方々にチョコレートのすばらしさを伝えるため、またチョコレートの販売や食べて下さる方々には、カカオ豆がどんな風に栽培されているかを伝えるため、こうしたレッスンを世界中で行っています」

チョコレートのおいしさにとどまらず、 “カカオの木”→“チョコレート”、そして再び“カカオの木”へと循環させていくことがドモーリ社のプロジェクト。なんとも感動的な会の趣旨に身の引き締まる思いです。



そして、ベネズエラにあるサンホセ農園でのカカオ豆の栽培の様子や、ドモーリ社のこだわりについての紹介がスタート。

「私が作っているのは、カカオマスと砂糖のみを使用したいわゆるブラックチョコレートです。通常チョコレートに添加される、カカオバターやレシチンその他の香料は使いません(カカオバターは元々含まれるもののみ使用)。その理由は、木から育てているカカオ豆本来のおいしさを伝えたいから。1996年に、ワインの鑑定方法などを参考にチョコレートの扱い方を考え出し、98年には実現が困難と言われていた100%カカオマスのチョコレート作りに成功。その木が自然に持つおいしさを引き出すため、カカオ豆の扱い方はよりシンプルになっていきました」

実際に味を決めるコンチングでは、ステンレスの玉を使い18ミクロンまで精錬。あくまでシンプルに加工し、温度も極力あげないように気をつけているのだそう。カカオの自然な特性を活かし、追油をしてなめらかさを出すことはしません。


ジャンルーカ氏の中では“カカオ豆へのこだわり=カカオ栽培へのこだわり”。生産地に目を向けると、1850年代には60%程度あった良質のカカオが、なんと10%にまで減少しているという由々しき現状があります。かつては、ミルクを始めカカオ豆に添加するものに関心が集まり、カカオのクオリティはそれほど重要視されない時代もあったことも原因のひとつです。 1994年の創業以来、農園から工場まで連動した生産体制を整え、芳香豊かな豆“アロマティック・カカオ”の原種再生に取り組んできたというドモーリ社。チョコレートの良し悪しは、素材であるカカオ豆の質(遺伝子によって決まる)が50%と半分を占め、残りは、産地が10%、農園での発酵・乾燥などが20%、そして焙煎・精製・仕上げなどの工程が20%と考えられ、いかに収穫後の作業でカカオの持ち味を損なわないかということを大切にしているのだそうです。

「現在、ベネズエラにあるサンホセ農園でクリオーロ種を栽培していますが、カカオの品種の中でもクリオーロ種は全体の0.001%のみという非常に希少な品種。農園では15種のクリオーロ種があり、挿し木をして木を増やしているんですよ。その木からカカオ豆が収穫できるようになるのは4年後。成熟したカカオの木からは、1年に2回、1本当たり1〜2kgの豆(乾燥状態で)が収穫できるようになります」

カカオ豆のおいしさを守るためには、着実に質の高い品種を守り増やしていくことが大切なのでしょう。ちなみに、2回ある収穫時期での味の違いはないとのこと。あくまで、木の遺伝子の力が優先するためだそうです。ただ、第一の収穫期の方が大きな豆が取れるので、市場では人気があるということでした。


会場からの「100%純粋なクリオーロ種というのはあるんですか?」という質問には、
「100%のクリオーロ種が現存するかどうかは現在調査中です。通常のクリオーロ種は95%〜100%なので、カカオポッドにはクリオーロ特有の白い豆に紫色の豆が数粒混ざっているような状態なんです」

とコメント。
VTRではカカオポッドから中身を取り出して発酵させている様子や、挿し木の様子など、なかなか目にすることのできない貴重な映像が流れます。カカオの木に一番重要なことは、水の量、木の剪定、日陰。化学肥料は嫌いで、腐った葉やミミズなど天然の肥料を好むそうです。


ホール状のカカオニブ。
カリカリと歯ごたえよく、
カカオ豆そのもののおいしさが味わえる。




今までとは違う、新たな観点からチョコレートに臨むジャンルーカ氏。その理由とは?

「元々、おいしいものを食べることが大好きなんです。カカオのおいしさに出会ったのはアメリカ。チョコレートの持つ大きな可能性に気付いたんです。自分の求めるビジョンは、初めてカカオに出会ったときからすでにありました」

カカオの本来の味を伝えるため、加える砂糖も厳選。色々試した結果、現在はサトウキビを原料にしたピュアな砂糖を使うようになったのだそう。


そしていよいよ、クリュ・ラインチョコレートの試食。“クリュ”とは、ワインの世界で、ワインの特定産地、ぶどう園・畑、またそこで作られるワインをあらわす言葉。つまり、この“クリュ”ラインは、1品種のカカオやある品種を特定する産地のチョコレートを意味し、カカオの素材力を見聞きするために生まれたものなのです。
試してみると、味わいがそれぞれ違うのは当然ですが、豆の味わいと香りの違いがとても顕著!カカオそのものの雑味は活かされていますが、カカオバターやレシチンを添加しないためか、ヌルっとした食感がなく、クリアで豊かな味わいが楽しめました。


《ジャンルーカ氏の提唱する、
チョコレートを5感で味わうDegustazione(試食)》


1.目で見る:アロマティック・カカオの色調は、赤〜マホガニー〜シナモンで光沢感があり、くすんでいてはいけません。

2.耳で聴く:チョコレートを割ったときにクリアな音がする。

3.香りを嗅ぐ:香りはさまざまな心地よい香りの記憶によって評価されます。(第1アロマ(最初の香り)、第2アロマ、香りの強度、香りの豊かさ、香りの洗練度、香りの持続性。こうした香りの要素の均整のとれたチョコレートがエレガントとされます)

4.舌で味わう(甘味、苦味、酸味)

5.触感(切れのある触感、収斂性(しゅうれんせい)、なめらかさ)




最後にジャンルーカ氏から、チョコレートの楽しみ方について一言。

「よく好きなカカオについて聞かれますが、おいしいと感じる味わいは体のコンディションによっても違うもの。朝起きたら酸味の強いカレネーロを、寝る前にはアリバをという風に気分によって選んでみてはいかがでしょう。そして、一緒にあわせる飲み物ですが、コーヒーはカカオと似ていて味がぶつかる可能性があるので、コーヒーの2,3分後にチョコレートという食べ方がいいと思います。日本で烏龍茶を飲んだのですが、これも合いそうだなと思いました。ぜひ、色々な方法でチョコレートのおいしさを楽しんでみてください!」



ジャンルーカ氏のカカオへの熱い想いの詰まった今回のレッスン。
チョコレートがたくさんの人の手を介して作られるものであり、ワインと近い楽しみ方ができるものだと改めて感じました。チョコレートがおいしいこれからの季節、今年は一歩進んで、あなたらしいチョコレートの楽しみ方を見つけてみてはいかがでしょうか?


《クリュ・ラインのチョコレート》(写真左上から順に)
●スール・デル・ラード・クラシフィカード:トリニタリオ品種(クリオーロ種とクリオーロトリニタリオ種の交配種。クリオーロ種遺伝子を多く含む品種)
●カレネーロ・スーペリオール:トリニタリオ品種(20世紀にできた品種。原産クリオーロ種と外来フォラステロ種との交配種)
●エズメラルダ:カカオ・ナショナル種
●リオ・カリブ・スーペリオール:トリニタリオ品種(クリオーロフォラステロ種と、その後時間の経過とともに生まれた交配種との交配種)
●サンビラーノ:トリニタリオ品種(クリオーロ種遺伝子を多く含むカカオ)
●砂糖も一切加えない100%のタブレット