パナデリアが行く

「フレダーマウス」八木シェフに会う!!

いつかお会いしたいと思っていた、八木シェフ。そんなパナデリアスタッフの願いがかなったのは、前回、会報の「チョコレート特集」の企画の時だ。チョコレートを素材としてとりあげたのはもちろん、チョコレートを使ったケーキの王道でもあるザッハトルテのチョコレート掛けを見せていただけないだろうか・・と、名古屋の有名店「フレダーマウス」の八木シェフに取材のお願いをさせていただいた。八木シェフのお人柄などは、パナデリアの「こだわり職人」のページをご一読いただきたい。さて、こちらの「パナデリアが行く」のページでは、八木シェフのザッハトルテのレシピをご紹介しながら、その時の様子をお伝えしよう。

「フレダーマウス」の八木淳司氏といえば、オーストリア国家公認マイスターを取得されている方。そんな八木シェフの作るお菓子たちは、本場仕込みの筋金入り。もちろんザッハトルテにおいては、オーストリアを代表する伝統菓子として、その作り方から味わいまで、まぎれもなく「本物」である。マイスターの資格を持つ八木シェフの本格的なザッハトルテのチョコレートの上掛け技術を、是非とも真近で見せていただきたい…という思いが、「チョコレート特集」というテーマ作りのきっかけとなったと言っても過言ではない。

取材当日、チョコレートの上掛け用に仕込んだザッハトルテの台は大(約18cmのもの)4台、小(約13cmのもの)3台。これは、前日にシェフが焼き上げておいてくれたものだ。。前日に生地を焼き上げておくのは、味も生地自体も落ち着くから。オーストリアでは生地は丸型では焼かずにほとんどがセルクルに紙を敷いて焼くそうだ。もちろん八木シェフも同様である。

八木シェフは早速、その台をセルクルの高さに沿ってナイフを動かし平にし、角も削ぎ落とした。これはあとで、チョコレート掛けをした時に、チョコレートが流れやすくなるようにするためだ。そして、その切り落とした生地ももちろん、無駄にはしない。ザッハのトルテ台にアプリコットジャムを煮詰めたものを流しかけコーティングした後、そのアプリコットジャムと、先程切り落とした生地を練り合わせ、トルテ台のサイドにナッペしてゆく。そして、トルテ台の準備ができたら、いよいよチョコレート掛けだ。
チョコレートのコーティングの際にも、モノを無駄にしないというヨーロッパの精神がところどころに感じられ、見ている私達にもとてもいい勉強になった。例えば、チョコレート・水・グラニュー糖を煮詰める際に、前回の上掛けの際に残ったチョコレートを合わせ入れ、火にかけ煮詰めていく・・というように。

いったい、どの状態まで煮詰めてからテンパリングをかけるのか、温度計をさすのか…と素朴な疑問を持ちつつ、じっと鍋を見つづけるパナデリアスタッフ。八木シェフはそんな私達にもわかりやすいようにと、パレットナイフをチョコレートの液体の中に幾度となくさし、そこにはりつくチョコレートの状態で、煮詰まっていく様子を見極めると教えてくれた。
「今のタイミングが一番良い感じ。こんな感じと状態・感覚でいつもタイミングをはかります。ただ、季節によって若干煮詰める時間は変わってきます。」とのこと。そして、パレットナイフにこびりつくようになったチョコレートを、大理石の台の上にレードル1杯分を流し、それをテンパリング用のパレットナイフで練り上げ、粘りの出てきたものをまた、ボールに戻していく。
「右手でパレットナイフを動かし、左手ではボールの中のチョコレートをレードルで混ぜる。」そんな作業を数回繰り返すとボールの中のチョコレートが、さらっとした液体からトロッとスジを描く液体にと変わっていく。「これが上掛するのに一番良いタイミング。」と八木シェフ。

ボールの中のチョコレートをすくってみて、スーッと円が描けて消えない程度まで練り上げたものを、大きなトルテ台から流し、手際よくパレットナイフを動かしてチョコレートを下まで流してゆくという作業を順序良く大4台、小2台分仕込んでゆく。7台目の小さなトルテ台に上掛をしようとしたところ「もうこのチョコレートの状態では無理でしょう。」とボールの中のチョコレートをすくって見せてくれた。「もう、こうなっては上にチョコレートをのせたとしても下までは流れてこないんです。今日は一度に6台分チョコレートの上掛けをしましたが少ないほうですね。いつもはもう少し多く仕込むんです。」チョコレートの上掛がすんだザッハを見ると、今まで鏡のようにきれいにテカテカに光っていたチョコレートが時間がたつにつれ、鈍い光に変わってゆく。それが、成功したザッハトルテの特徴。

さらに感動したのが、ザッハーをカットした断面。上のチョコレートとサイドにかかっているチョコレートの厚みが全く同じ。これが、マイスターの技なんだ・・とあらためて感動。そして、その後やってきた至福のひととき。砂糖の入っていない生クリームを添えたザッハトルテは、生地とチョコレートにコクがあってとにかく美味しい。上のチョコレートのシャリシャリ感も、甘さもまさに、本物のザッハトルテ。「甘すぎるなどと言われることもあるんです。でも、やはり本場の味わいを皆さんにも味わってもらいたいって思っています。レシピも向うのものを使っています。」「自分がマイスターであることは文化を継承していく役目だと思っています。」と信念に満ちた八木シェフの姿勢が、ザッハトルテ始め、店にならんでいるすべてのお菓子から伝わってくるような気がする。

さて、次に八木シェフのザッハトルテのレシピを紹介しよう。自信のある人は、作ってみてください。自信のない人は、八木さんのザッハを @お店に行く。A地方発送してもらう。・・どちらかの方法で手に入れることをお勧めする。ぜひ、一度、「本物」の味を味わってみてはいかがだろうか。


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