業者を対象に製菓用洋酒などを扱う合同酒精株式会社に、昨年完成したばかりの施設「CRAM studio d’oenon」を訪問させていただきました。フランス語で「レシピ、用途、メニューを創生する工房」を意味するこの施設は、クッキングラボの他、セミナールームやプレゼンテーションルームを併設したとても機能的で綺麗な建物です。

充分な設備が整ったクッキングラボ
24名集客できるプレゼンルーム


洋酒を使ったお菓子と聞くと、洋菓子専門店で売られている、ラム酒やキルシュにたっぷり浸されたサバランなどが思い浮かびます。しかし、最近では趣向を凝らしたデザートが多く売られるようになったとはいえ、コンビニなどでは、まだ洋酒使いを全面に出したお菓子はあまり見かけません。しかし、

「実は、コンビニのデザートにはほとんどのものに洋酒が使われているんですよ。」

との意外な応えが。では、洋菓子業界全体で洋酒の需要が高まっているのかというとそうでもなく、

「ここ何年も減少傾向にあります。新進のシェフは使わない方が多いですしね。ただ、個々人に目を向けると、以前に比べ使用が増えているシェフがいるのも確か。使う方はよく使う、使わない方は全く使わない、と二極化されています。例えば、鎧塚シェフ(Toshi Yoroizuka)はコアントローやリキュール等が大好きでよく使ってらっしゃいますし。」

今や次々とパティスリーが開店し、多方面からパティシエが注目されているにもかかわらず、こと洋酒に関しては、需要が伸びていないとは驚きです。


製菓用洋酒は主に、ブランデー、スピリッツ、リキュールに大別されます。ブランデーは果実の蒸留酒の総称ですが、ブドウから造られたものが大半を占めるため、ワインを蒸留したものを指します。ブドウ以外にもりんごやチェリー、洋梨など他の果実から造られたものは、エキス分を加えてリキュールとして販売されているようです。スピリッツは蒸留酒を意味する言葉ですが、日本ではウイスキー、ブランデーを除いたものをいい、さとうきびから造られるラム酒、ジェニパーベリー(杜松の実)を浸漬、蒸留して造られるジン、ロシア生まれの無色透明のウォッカなどが有名です。リキュールは蒸留酒をベースに、ハーブや果実などを加えて香味を付けたものですが、非常に多くの種類があり、原料により果実系、薬草系、種子系、特殊系に分かれます。


合同酒精のオリジナル商品には「ネプチューン」というシリーズがあります。これは、原料の入手から、発酵、蒸留、熟成などすべての過程において高品質を追求し作られたものです。その自信作を数種類テイスティングさせていただきました。
この他にも種類は豊富に揃っています

まずは「ドライジン」。これ以上ハーブの入っているものは他にはないのでは・・・と思わせる、合同酒精の製造技術の高さを知ることのできる商品です。

「製菓用のドライジンはもともとフルーツゼリーのために開発されたものなのですが、チーズや紅茶にも使うことができますし、チョコレートにも合いますよ。」

と役に立つ情報も。
マダガスカル産の最高級バニラビーンズ、ブルボンバニラを使っているという「クレーム・ド・バニーユ」、オリジナルブランド「ネプチューン」の始まりだという「ラム・ダーク」…etc.その中でも個人的に気に入ったのは、チェリーの香りが驚くほどフレッシュな「キルシュ・リキュール」と、ナッツの香ばしさとまろやかさが純粋に「おいしい!」と思わせる「ナッツ・リキュール」。

「“飲んでおいしいもの”ではなく“使っておいしいもの”を目指しているんです。」

とのご説明でしたが、いえいえ、飲んでも十分においしいです!「ナッツ・リキュール」は焼き菓子に合い、生クリームに入れると濃厚な味になるということなので、ますます興味がそそられます。


そのままでも充分魅力的な合同酒精の製菓用洋酒ですが、やはり実際にお菓子に使用した時の効果のほども知りたい!ということで、いくつか実験をしていただきました。

まず、オレンジゼリーの実験。
ジンを2.5%入れたものと入れていないものの味の違いをみます。一見、果汁のみのゼリーのほうがおいしいような気もしますが、ジンを入れることで後味の軽い、さっぱりとした味わいになるからびっくり。そのためか、よりオレンジの味が強調されるように感じます。

次に、生クリームの実験。
動物性に比べ、融点が高いため口溶けも悪く感じられがちな植物性の生クリーム。結果、ケーキも油っぽく感じられてしまいます。そこで、植物性にラム酒を0.4%加えます。すると…。生クリームのキレが良くなり、口の中から生クリームの味が消える時間が短くなったのです。そして、先ほど書いたようにナッツリキュールを2%加えたものも試食しました。バタークリームのようなコクがありながら、口溶けの良いクリームに早変わり。牛乳臭さはなくなるのに、ボディー感(味の濃さや幅)がでます。

最後に、ロールケーキの実験です。
生クリームにバニラリキュール「クレーム・ド・バニーユ」を8%加えます。おいしそうなバニラの風味をもたらすのはもちろん、キレのあるシャープなクリームに変わります。
作りたてが試食できるのはうれしい


実際に自分の舌で確かめることができたいくつかの洋酒の効果。しかし、洋酒の効果はまだまだあったのです!
「製菓における洋酒の8つの効果」とういうのを教えていただいたので、紹介します。



1.香味付与
@ババやブランデーケーキ、ガナッシュなどに洋酒の香りそのものを活かす
A隠し味として使用…素材とは少し異なる洋酒の香りで、素材本来の香りを相乗効果的に引き出す。例えば、イチゴとキルシュ、リンゴとプラムといった組み合せで、香味がより複雑になりおいしくなります。

2.香味バランスの調整
@ヘビー感・ライト感の付与…例えばオレンジムース。「トリプル・セック」を使用すれば軽い香味に、「グラン・オランジュ」を使用すると重い香味に。
A香味をまとめる…フランボワーズとチョコレートの組み合わせはよく見かけますが、口に入れた時にフランボワーズの香味がまず感じられ、しばらくしてチョコレートの香味が感じられます。しかしそのままでは香味のバランスが悪いため、間に洋酒の香味をもってきてバランスを良くするとのこと。

3.味の改善
@甘味…甘みのないお菓子はコクに欠けますが、砂糖のみ多く加えてもくどい甘さになってしまいます。そこで、それを解消するために、洋酒を加えてマイルドで複雑な甘さにするのです。
Aカット…生クリームの実験でもやっていただきましたが、後味の切れる時間が大幅に短縮され、すっきりとした後味になります。
Bカバー…例えば、後味に苦みを感じるココアクリーム。これにカカオリキュールでココアの香味をつけることにより、全体的に香味が増し、苦みをカバーすることができます。

4.マスキング
加熱・冷凍臭、卵臭さ、ドライフルーツの日なた臭、缶詰臭、油脂の酸化臭などの不快な香り(オフフレーバー)を抑えます。これについても、オレンジゼリーの実験で体験済み。オレンジ果汁の加熱時の芋臭さが抑えられてスッキリした後味でした。

5.菌抑制
アルコールには雑菌の増殖を防ぎ、水分活性を抑える特性があります。水分は多いけど日持ちをさせたいもの、例えばフルーツの漬け込みやブランデーケーキなどがあります。

6.浸透・溶解
@浸透…ドライフルーツを洋酒に漬け込むと柔らかくなるのは、アルコールはいろいろなものに染み込みやすい、という性質があるからです。
A溶解…水に溶けない香気成分をも溶解してしまうので、ブランデーにバニラビーンズを漬け込んだ時のように、香りに一体感が生まれます。

7.口溶け
アルコールの凝固点は低く、なんと約マイナス114℃!そのため、アイスクリームに入れることにより低温でもガチガチに固まらず、ほどよい口溶けが得られるのです。あの「ガリガリ君」にさえ使われているとのこと。

8.演出
@フランベ…目の前でデザートや果物に洋酒を振りかけて火をつける演出は、華やかで高級感を覚えます。ほどよく素材を焦がし、風味と見栄えをよくします。
A色調…ゼリーなどのように、リキュールやワインと言った洋酒自体の色を活かして、見た目を綺麗にします。



みなさんはこれらの「洋酒の効果」、知っていましたか?ただお酒の風味付けだけに用いられているのではなかったんですね。今までなかなか知ることができなかった洋酒の世界。お菓子作りをする人にはもちろん、食べるだけの人にとってもとても興味深い内容です。なお、合同酒精ではこのような8つの効果を提案していますが、今なお日々製菓用洋酒の研究を重ねており、内容は定期的に更新されているとのこと。一度、それぞれの洋酒を意識してお菓子を食べてみるのも面白いかもしれません。


お世話になった合同酒精のみなさんと一緒に