えッ?燻製調理?ベーコンにローストポーク?!
パナデリアとはまったく関係がない食べ物に思えるかもしれませんが、ベーコンやローストポークはサンドイッチやカスクルートに欠かせないパン屋さんのマストアイテム。近頃は、パン生地はもちろんのこと、フィリング用の食材にもこだわりたい、というパン屋さんが増えているようです。
そんなパン屋さんの熱い声を受け、石窯パン教室でもお世話になっている櫛澤電機製作所の主催による、燻製調理の講習会が開催されました。
気になる講師は、なんと、わがパナデリアを主宰する三宅清。


真剣にメモをとるパン職人の面々


ハムやベーコンというと、工場で作るものというイメージがありますが、実は家庭でも作ることができます。手作りの良さは、まず添加物や着色料類の心配がないこと。そしてなんと言っても、既製品とは比べ物にならない、そのおいしさです。

パンやワインが欲しくなる、味わい深いハムやベーコン!


そこでまず重要なのが、素材選び。
今回は、パナデリアでもお世話になっている鹿児島県にある豚生産農家「陣之内工房」小倉安文さんの「かごしま黒豚」をセレクトしました。肉質の良さから、ブランドにもなっている「かごしま黒豚」ですが、小倉さんの管理する農場のこだわりは、飼料。なんと、豚たちをサツマイモとパンで育てているのです。そのため、たっぷりと霜降りが入り、肉質が柔らかく甘みがあるのが特長。そして、特筆すべきは、脂肪のおいしさ。豚の脂肪というと、敬遠する人もいるかもしれませんが、きめ細かい脂の質と、甘くて旨みのある味わいは、脂が苦手な人をも唸らせる絶品なのです。

「陣之内工房」の様子。
豚がのびのびと育ちそうな自然豊かな環境



まずは、豚肉の処理方法からレクチャー。
使用するのは、2kgほどもある大きな固まりの豚肉です。臭みが出ないよう、細かい血管などをナイフで丁寧に処理していきます。しっかりと血抜きされているとはいえ、こういう細かい作業で手を抜かないことが大切なのです。



生の状態。
血管はいたみや臭みの元になりやすいので注意です



次は、塩、砂糖、黒胡椒、ローリエをまぜた調味料をすり込みます。この作業の目的は、味をつけ、発色を良くし、さらに殺菌をすること。市販のハムなどには、色をよく見せるための発色剤が添加されている場合がほとんどですが、ここでは自然の発色剤の役割を塩が果たしてくれます。

「使用するのは、塩分に丸みのある海塩がいいですね。岩塩だと、少し尖った感じになりますよ」

と説明。塩の種類によっても、味わいや肉の繊維への入り方が違うので、気をつけたいポイントです。
※ 本来、岩塩に含まれる硝酸カリウムと硝酸ナトリウムがハム作りには必要だが、長期保存の必要がない場合は、海塩の方が味が良い


ローリエは細かくちぎって香りを出します。
すみずみまでしっかりと塩をすり込むのがポイント


そしてこの状態で、冷蔵庫で寝かせたら、今度は塩抜きの作業。これが、一番のキモ!たっぷりとすり込み、肉の中心まで浸透させた塩分をここでしっかりと抜がないと、せっかくのハムやベーコンの味が台無しに。肉質や厚みによっても変わってくるので、経験と勘が要される作業です。
水を張ったボウルに肉を入れ、水の浸透圧で塩分を抜いていきます。一度塩を抜いた豚肉は、いたみやすいので、ここからの作業は要注意。水は溜めたままにせず、蛇口からチョロチョロと水を出しておき、常にボウルの中の水が入れ替わるようにしておきます。
かなりしっかりと塩分が入っているので、数時間かけて、ゆっくりと塩を抜くのがポイント。

「この状態で味見をして、ほとんど塩気を感じない位がちょうど良いんです」

と説明する三宅。結構な時間水に肉を浸しますが、一度入った塩は想像以上に抜けにくいのです。
熱心に見入っていたパンステージプロローグの山本さんも、興味津々で塩抜き後の豚肉の味をチェックしていました。


パンステージプロローグの山本さん(左一番前)も真剣な眼差し

いざ、石窯へ!


そして、いよいよ仕上げの工程。
バラ肉は燻製にしてベーコンに。肩ロース肉は、燻製とローストの2種類に加工します。
両方とも200℃程度の石窯で焼きますが、焼き上がり頃、蜂蜜と白ワインを合わせたタレをたっぷりとハケで塗るのがポイント。これが、美味しそうなツヤと焼き色、そして風味を生み出してくれるのです。

軽く色付いたら取り出して、
1回目のタレ塗りをします



窯を開けると、ジュージューという大きな音と共に、豚肉の焼ける美味しそうな香りが立ち込めます。
ローストポークは窯で火を通しますが、燻製の方は、後で燻煙処理をほどこすことを考えて、芯温55℃くらいまでで窯から取り出します。ちなみに、石窯の場合、遠赤外線効果であっという間に肉の中心部に火が入るのだとか。やはり遠赤外線の威力はすごいんですね。

しっかりと中心部の温度を確認します


燻製に使用するのは、小型ロッカーのような機械。下でチップを燃やし、上部に肉をつるすことができるようになっています。ここでのポイントは、香りの決め手となる燻製のチップ。今回使用したウイスキーの樽から作られたチップは、ウイスキーの甘い芳香がたっぷりと染み込んだ、何とも香りの良いもの。アルコールが苦手な人でも思わず深々と吸い込んでしまうはずです。
長い時間をかけてじっくり燻すことで、ギュッと旨みが閉じ込められ、かつこの芳香が加わるのです。また、燻煙により殺菌効果もプラスされるため、保存食にするには最適な方法といえます。


肉だけでなく、魚類を燻製にしてもおいしい




そして、お待ちかねの試食タイム!
ハムとローストポークは薄くスライス、ベーコンはフライパンで軽く炙って、ルボワの森さん、日本堂の小山さんが持って来てくださったパンと一緒に、かぶりつきます。

「うーん、これはおいしい!」
「やっぱり肉がおいしいですね。あー、ビールがほしいなー!」

と、みんな見ていて気持ち良いほどの食べっぷり!参加者12名はすべて男性とあって、たっぷりとスライスしたハムがあっという間になくなってしまいました。

ジューシーなハムやベーコンに、
カットするそばから手が伸びます!




スモークハム
鼻腔をくすぐる芳しいスモークの香り!ほどよい塩気が肉の芯までしっかり染み込み、豚肉の旨みが存分に楽しめます。このジューシーさは、自家製ならでは!


ベーコン
普通だったら敬遠しそうな脂ですが、あえてカリカリにしないことをおすすめします。甘みのある脂に力強い旨み…、これがベーコンの本当の姿なのでしょう。かごしま黒豚ならではの旨みは、ぜひ野菜と一緒にパンに乗せて。


ローストポーク
ジューシーで柔らかな肉質をかみしめると、豚肉そのものの美味しさが口いっぱいに広がります。燻製系よりも味がおだやかなので、厚めにカットしてマスタードなどと共にパンにサンドして!





今回は、パンとハムの組み合わせだけでしたが、トマトやレタスなど野菜類を一緒にサンドしたら最高の美味しさになること間違いなし!
好評のうちに幕を綴じた今回の講習会。すでに第2回も開催する予定になっています。
もしかしたら、あなたのお気に入りのパン屋さんで、パナデリア直伝のハムやベーコンを使ったサンドイッチに出会う日も近いかもしれませんね!
次回講習会に興味のある方はこちらへ!