今年創業80年という節目の年を迎えたユーハイム。バウムクーヘンをはじめとするドイツ菓子の店として、その名を知られる店である。創業者はドイツ人で、一号店は神戸の三宮。その後、ドイツにも3店の出店を果たし、「日本で生まれたドイツ菓子の店」が「本場ドイツに支店を出す」という、なかなかユニークな店なのだ。

ドイツ一号店は、1976年の開店で、フランクフルトにある、文豪ゲーテの博物館「ゲーテハウス」の中、1980年にできた2号店も同じくフランクフルトで、こちらはゲーテの銅像に面した場所。1982年の3号店は「ハウプトバッヘ」というゲーテが生きていた時代の義勇軍の駐屯地で、ゲーテが最も好きだった建物として知られているそうだ。(現在営業しているのは、ハウプトバッヘのみ)

「出店した3店全てゲーテに縁がある」ということで、日本でも何かゲーテに関する催しをひらいてはどうかと誕生したのが、『ゲーテの詩・朗読コンテスト』である。フランクフルトのゲーテハウスで、毎年ゲーテ生誕日の8月28日の前日に『ゲーテの夕べ』が催されることを参考に、8月末の土曜日に開催されることとなった。1982年のことで、今年で20回目を迎える。



ユーハイムの社長河本武氏が語る。
「20年前の第一回は、30名の出場者を集めるのにも苦労しました。それでも、やるからには格調の高い朗読会にしたいという志があり、当初から4名の審査員を選んで選考にあたりました」

今年はなんと、325名の応募があった。8月25日、舞台に立って朗読できたのはその中から30名。千駄ヶ谷の津田ホールは観客で満席。第一回から審査員を続けている慶応大学文学部教授の宮下啓三氏は言う。「最初の頃は、審査も楽でした。上手い人、そうでない人の差も、誰でも聞けばすぐに分かりました。しかし今は、30人全員が、誰が優勝してもおかしくない朗読をする。審査員にとっては、酷なことです。それだけこの会が充実してきたことは好ましいですけれど」

確かに、30名の朗読は素晴らしかった。目をつぶっていてもまるで演劇を見ているように情景が浮かぶもの、ドイツ語でものすごい臨場感のあるもの、元気で感情のこもった小学生の朗読…。

出場者の皆さん

審査員の方々も、さぞやお迷いになられたことと思う。
優勝したのは、『新しき気持ちで』を、ドイツ語で朗読した矢野由美子さんという女性。「子供の頃、ドイツで生活をしていました。日本に戻ってきたのは東京オリンピックの頃。帰国子女というのを隠しながら生活していました。今の時代だったらそんなことはないですよね」。当時、表に出せなかったドイツへの思い、それがドイツ語が理解できない私にも充分伝わってくる朗読だった。

歴代優勝者の挨拶があった。「"ユーハイム菓子一年分"という商品にひかれて応募しました。優勝して、毎月お菓子が送られてくるのは本当に楽しみだった」なんて言っていたのも印象的だ。お菓子の力って、やっぱり凄い!


矢野由美子さん

ユーハイムのイベント
マイスターの菓子工房
ユーハイム創業80周年記念