7月初旬、北海道が一番美しいといわれる時期に取材に行く願いが叶いました。 おいしいパンに出会うと、それを捏ね焼いているシェフのことが気になりますよね。そんな思いが高じて、素材と作り手のことをもっと知りたいと思ったのがこの取材の発端です。そして生産者を始め、小麦に携わる製造、流通の関係者に出会い、苦労や心意気にじかにふれる貴重な体験をすることができました。小麦畑がたまらなく愛しく、身近に感じられ、1つのパンに込められた大勢の人の心意気を感じとることができる素晴らしい旅になりました。



今や北海道を代表する麦となった"ハルユタカ"をエースに、国産小麦の人気はとどまるところを知らない勢いです。残念なのは、こんなに人気があるのに供給が追いついていないこと。パン屋さんや製麺屋さんがのどから手が出る程欲しくても、中々手に入らないのが現状のようです。

そういう消費者の声に応えて、『国産小麦をもっとたくさん作ろう!』という目的で開かれているのがこの学習会です。

市や農協、農業試験場や製粉会社など麦にかかわる様々なメンバーから作られた"江別麦の会"が中心となり、まだ歴史の浅い"ハルユタカ"のより良い農法を生産者の方に勉強してもらおうという内容になっています。


"ハルユタカ"の人気の秘密は?

幻の小麦と言われる、"ハルユタカ"。国内で取れる小麦は"ハルユタカ"以外にも沢山あります。ところが、今まで栽培されていた麦はうどん用のいわゆる中力粉。中力粉はグルテンが少ないのでパン作りには向かず、国内産の小麦粉でのパン作りは難しいとされていました。そこに登場したのが"ハルユタカ"!グルテンの量が強力粉レベルなので、パン作りぴったり。粉自体の風味が良く、更にポストハーベストがないため外麦に比べて安全。パン好き待望の麦が"ハルユタカ"なのです!


農業試験場とは?

より品質が良く、安定した農作物を作るため、農業試験場では品質改善、病気の研究など様々な研究が行われています。 特に"ハルユタカ"のようにまだ新しい品種は、どんな土地に向いているのか?どういう育て方が良いのか?など農業試験場の研究員も農家の生産者もわからない部分がたくさんあります。何ヶ月もの間、肥料をやり病気から守りと育ててきた農作物がだめになってしまったら、今までの苦労が無駄になるばかりでなく、生活するお金が入らなくなると言う非常に大きなリスクが農作業には伴います。ましてや新しい品種でのリスクはそれ以上!それを何とか防ぎ、より高品質で安定した農作物が収穫できるように、農業試験場の存在があるのです。


佐藤 導謙 氏
 道立中央農業試験場で
障害耐性に優れた高品質小麦を研究

相馬 潤 氏
  道立中央農業試験場で
コムギ赤かび病、
ジャガイモそうか病を研究


春まき小麦とは?

小麦には種類によって、春に種をまくと良いとされる春まき小麦や秋に種をまくと良いとされる秋まき小麦など、まき時期の異なる小麦があります。春まき小麦には"ハルユタカ"、秋まき小麦には"ホロシリ"などがあります。

なぜ春まき小麦を初冬まきするのでしょう?

自然の恩恵を受けて育つ農作物は、同時に自然の被害も受けてしまいます。
麦は収穫期に雨が降ると、穂が発芽して商品になりません。春まき小麦を雪が降る直前の11月上旬にまくと、芽はでないものの根が2cmほど出た状態で冬を越すことになります。それにより、収穫が約1週間程度早まるため降雨の被害を受ける可能性が低くなるのです。
また、雨風で穂が倒れてしまうという被害も多い麦ですが、初冬まきでは倒れにくいという特徴もあることがわかっています。
更に、収穫高も初冬まきの方が高く"ハルユタカ"には適した栽培法と考えられます。

赤カビの被害について

麦のかかりやすい病気に赤カビ病があります。降雨が続くと、赤カビ病が発生しやすく、赤カビ病にかかった麦は売ることが出来なくなってしまいます。赤カビ病対策には初冬まきが有効だということが報告されています。

生産者にとっての初冬まきのメリット

雪の降る直前に麦をまくと、収穫が1週間早まります。1年を通して色々な農作物を作っている農家にとっては、収穫適期が分散し収穫体系が組みやすくなるというメリットがあります。


ほ場を見学しました

実際に"ハルユタカ"を作っているほ場を見学に行きました。
前日の大雨の被害を受け、かなりの面積の麦がばったりと麦が倒れている畑もありましたが、見学先のほ場では倒れた麦はないように見えました。
"ハルユタカ"は少し黄色く色づいた穂先以外は青々としています。青々とした美しい畑を見ていると、雨や風の被害を受けないでこのまま収穫までたどり着いてほしいと強く感じます。

大井川さんのほ場


平成14年、"ハルユタカ"を春まき栽培したところ、収穫期の降雨で穂が発芽してしまい、全量が規格外になってしまったと言う大井川さん。
その年の冬に、初冬まきを行い 地区内でトップクラスの収量と品質を上げたそうです!
今年の初冬まきも順調のようで、まだ青い外皮の1粒1粒がぷっくりと膨らんでいました。

麦の粒は、口の中でプチっとはじけるよう。
まだ青臭い味でした。



"ハルユタカ"の根は土から上の部分に比べてこんなに短い!
だから強風に弱いのです。


富永さんのほ場

いち早く平成11年から"ハルユタカ"の初冬まき栽培に取り組んでこられた富永さん。平成13年度全国麦作共励会で米麦改良協会長賞を受賞するほどの優秀な栽培技術をお持ちの方です。
ところが今年は、昨年の729本(/u)に対し578本(/u)と減収の見込みです。
富永さんは、例年大豆の跡作付けをされているのですが、昨年は大豆の収穫が遅かったため通常よりも10日ほど播種が遅れてしまったそうです。
それに加え、3月中旬にまいた溶雪促進剤にムラがあり雪解けにムラが出来てしまったのが原因だという分析でした。
ほ場には、初冬まき小麦用の播種機も登場。バラまきよりもこのような"専用播種機"による播種が増加しているそうです。農作物にはそれぞれにこのような機械が必要になり、その投資にもずいぶんお金がかかりそうです。


試食会に参加しました

学習会でじっくりお勉強した後は、国産小麦を使ったいろいろな加工品の試食をかねての交流会です。 パン、うどんはもちろん、パスタ、ラーメン、味噌 など様々なメニューが登場しました!
なんと、国産小麦を使ったパンとして東京からリスドオル・ミツのパンも空輸されており、何だか懐かしいような気持ちになったパナデリアでした。

メニュー

1. パン盛合せ(ハルユタカ、春よ恋、ホクシン、ホロシリ使用)
2. ラーメンサラダ(ハルユタカ、春よ恋、ホクシン、ホロシリ使用)
3. 納豆スパゲティー(ハルユタカ、春よ恋、ホクシン、ホロシリ使用)
4. 釜揚げうどん(ホクシン使用)
5. マカロニグラタン(ハルユタカ、春よ恋、ホクシン、ホロシリ使用)
6. ラーメン(ハルユタカ、春よ恋、ホクシン、ホロシリ使用)
7. 冷やし素麺(ホクシン、ホロシリ使用)




取材を終えて

東京でパンを食べているだけでは絶対にわからない、生産者サイドの努力とご苦労が良くわかり、本当に勉強になりました!1つのパンにも何人も何十人もの努力と苦労があるんですね。
普段は接することのない生産者の方のお話しを聞けて、本当に貴重な経験になりました。
まぼろしの小麦"ハルユタカ"、残念ながら今は"ハルユタカ"ブレンドしか手に入らないのが実情のようです。おいしいハルユタカが沢山獲れて、100%ハルユタカのパンが食べられる日が来ればいいな!と思います。