『 明治製菓 坂戸工場 』でチョコレートが加工される様子をじっくり見学したパナデリア。 カカオ豆から板チョコレートが出来上がるまでのことはしっかり勉強ができました。 でも本当はラグビーボールのように大きいカカオの実、どうやってあの豆の状態になるのでしょう? チョコレートの研究で博士号を取り、日夜おいしいチョコレートの研究に没頭されているチョコレート博士 古谷野 哲夫氏にお話を伺ってきました。

明治製菓株式会社
生産技術開発研究所
二室 室長

農学博士 古谷野 哲夫 氏



◆ 農産物としてのチョコレート

私たちが普段目にするチョコレートはすでに完成されたものばかりで、その素材を目にすることはほとんどありません。
構成される素材の主なものは、カカオ豆という農産物です。つまり、お米の味が産地やとぎ方、炊き方によって全く違うように、チョコレートの味も変わってくるのです。
カカオは赤道の南北20度の範囲の熱帯、アマゾン川源流域が起源と言われる幹生果の植物です。
幹生果の植物は、幹に直接実がなるというめずらしい特徴があり、ラグビーボールほどの大きさの"カカオの実(以降カカオポッド)"が太い幹にいくつもくっついているような形で実ります。
その種が"カカオ豆"なのですが、豆はちょっと甘い綿のような果肉"パルプ"に覆われてたくさん入っています。
明治製菓が輸入している原産国のガーナでは、収穫から発酵、乾燥という一時処理が農民による手作業で行われています。


《 一次処理の工程 》



  1. 収穫した"カカオポッド"を1つずつナイフで割り、中身を取り出します。
  2. パルプに覆われた状態のカカオ豆をバナナの皮にはさみ、4〜7日放置します。ここでパルプの糖分が発酵し、発熱と酸の発生のにより豆の細胞が死にます。これにより、後でローストした際にチョコレート特有の味と香りの元ができます。これはなくてはならない大切な工程です。
  3. 竹を編んだすだれ状の台の上に置き、天日乾燥します。水分が8%以下であることがカカオ豆の出荷条件です。この間に余分なパルプや異物を取り除きます。
  4. 乾燥後、袋詰めされて世界各地に輸出されます。

カカオ豆
● ガーナにこだわる理由

ガーナには、国内のカカオをコントロールするカカオボード(公社)が残っています。
まだまだ素朴さの残るガーナでは、年に数百キロ程度の生産高しかない小農と言われる農民達が先祖代々のやり方で、丁寧にカカオの一時処理を行っています。
ところが、アイボリーコーストなどでは民営化が進み、カカオの売買は重量によって決まるため、わざと小石などの異物を入れたり、あまり乾燥をさせずに高く売ろうという農民が多いのが現状です。その結果、あまり質の良くない豆がまざっている可能性が高く、非常にリスクが大きい市場となっています。

● 産地による風味の違い

元々はアマゾン川源流域、ベネズエラの近くや中米でしか取れなったカカオですが、イギリスやフランスの植民地政策により、ガーナ、ナイジェリア、アイボリーコースト、カメルーンや東南アジアなどに広がって行きました。
元々の原産国であるベネズエラで原種といわれる『クリオロ』("自国のもの"を意味する古いベネズエラ語)種は、厳密には今は残っていません。ですが面白いことにハイブリッド種として残っています。
クリオロ種のカカオ豆は種の中が白く、それに対して『フォラステロ』("他国のもの"の意)は中が紫色ですが、ハイブリッド種は1つのポッドの中に白と紫の豆が混在しているものもあります。

● 産地による風味の違いを試食で体験させていただきました。

〈 ガーナ 〉 ミントのようなさわやかな風味が口に広がります。日本人にはやはり食べなれた、親しみやすい味。


〈 コートジボアール 〉 強い酸味を感じます。コートジボアールではプランテーション化が進み、一度に大量に発酵させることから起きた過発酵が原因のようです。

〈 ベネズエラ 〉 苦味とコク、ナッティ感が強く非常に印象的な味です。 雑味がなく、非常に良い香り。
※ これは数あるベネズエラ産の中でも"スルデラゴ"と呼ばれるクリオロ種が多く含まれた品種のチョコレートです。

〈 エクアドル 〉 Nacional または Arriba と呼ばれる品種。花のような美しい香りが広がります。渋みは強め。

〈 トリニダッド 〉 チョコレートらしい風味が強い。酸味が程よく、味はまろやかです。

〈 コロンビア 〉 苦味が少なく、甘いような香りが広がります。やや渋みあり。 これらの産地の特徴をいかして、さまざまなフレイバーのチョコレートが生まれます。

●見学を終えて・・・
カカオ豆にはさまざまなフレイバーがあることがわかりましたが、そのフレイバーのブレンドによりさらに魅力的なチョコレートが生まれます。 たとえば"ポリフェノール効果"という明治製菓のチョコレートは古谷野博士が生んだ丸秘ブレンドだそうですが、今までのお菓子のミルクチョコとは全く違い、純粋なカカオのフレイバーが楽しめる、非常においしいスウィートチョコレートです。 今まではミルクや香料を入れたチョコレートが多かった、日本のチョコレート市場ですが、今後はカカオそのものを楽しめるような本格的なチョコレートが増えるのではと期待がふくらみます。 また 製菓用のクーベルチュールチョコレートも"アステカ"というブランドでお菓子業界にも進出すべく開発が進んでいるようです。 今まではフランスやスイスからの輸入がほどんどでしたが、国内で品質の高いチョコレートが手に入れば、もっと新鮮で質の高いチョコレートやケーキが増えるはず!とても楽しみです!!