ピッコリーノ伊藤氏主催の南部小麦視察会に参加して



「今年の麦はあまりよくないんですよ」という東日本産業高橋専務の言葉は参加者全員に一抹の不安を与えた。 例年のこの「小麦視察ツアー」では、緑の麦の穂が一面に見渡せたのに・・。今年は国産小麦、特に岩手地区の南部小麦に関しては、今年の高温少雨の影響で、この時期ですでに麦の穂が刈り入れ時のように黄金色に染まっていた。今回の見学会当日の6月24日入梅した岩手地方、しとしと降りの雨、昨日までの30度にもなる暑さとうってかわって涼しい。案内された北上の麦畑、目立つのは、地割れのような畑、その中で見渡す限り一面の黄金色の景色、素人目にはわからないが、高橋氏の説明をきいているうちに今年の麦の状況がつかめてきた。

手入れのよい畑は例年の収穫を期待できそうだが、悪い畑は惨憺たる状況である。この地方では、普通、減反政策のもと麦を生産する。水田で米を収穫したあと、麦の種を蒔き芽吹いたあと雪の時期を迎える。雪解けのとき、麦はぬかるみを嫌うため、排水処理をしないと生育が非常に悪くなるということであった。雪の前に水田の畦を切って、雪解けの時期の排水を考えるという少しの努力を怠った畑は、今回目にした荒涼としたものになってしまうということだった。

実の入り方を見て確認し、穂のやせているもの丸々とりっぱなもの、麦の穂を手でもみ、中の麦を口に含んで味わってみた。じわっと野の香り、初めての食感、これが麦かとひとり納得してしまった次第である。刈り入れまであと2週間と聞いた。この間の雨が心配ではあるが、生産者の方々の努力が報われるこの時期、国産小麦を使うベーカーの方にとっても供給の状況が心配な時でもある。

今年も、北上で麦畑を案内していただいた西部開発農産の照井氏、やはり麦の状況はあまりよくないとのことであった。手間がかかり苦労が多いわりに、収穫量、利益がその苦労に見合わないため、正直言って生産をやめたくなることもある・・という照井氏。だが、この貴重な麦を心から待っているベーカーの方、消費者のことを思うと、やはり続けていくしかないというのも偽らざる気持ちだそうだ。私たち消費者としては、この努力に心から感謝したい。麦畑参観のあと、キャベツ、大豆等の畑を見てまわった。

キャベツ畑では手伝いの方総出で、草むしりをしている姿が見えた。これはできる限り農薬を使いたくない配慮だと聞いて、頭が下がる思いだった。最後にフルーツトマトの水耕ハウス等の見学をした。ここでは照井氏のご好意により、トマト試食の恩恵にあずかった。たわわに実るネネというフルーツトマトに全員舌鼓をうち、農場を後にした。
手間をかけることの大切さと、そしてそれを上回る、自然の偉大さ怖さを今回の視察会では特に感じた。そして毎年東京に戻ってから梅雨空を見上げながら、「今年の麦はどうなるかな?」と心配していたが、その心配は今年が一番かもしれないということを、付け足しておこう。



ここで南部小麦についての知識をちょっと

・40年ぐらいの歴史があり、岩手、青森地方でしか良質のものは取れない。
・今年度3000トン程度、需要の増加とともに来年度3500トン生産を目指す。
東日本産業(株)で製粉を行っている。
・中力粉であるが、味わい深く、パンにも向いているということで、天然酵母との相性がよく、
 ピッコリーノの伊藤氏をリーダーにリテイルベーカーでの需要が増加している。
・生産者の見える麦ということで、減農薬、安全性は保証されている。