「モンサンクレール」辻口シェフが故郷の石川県七尾市に美術館を作った?
それもスイーツの美術館というからびっくり!「モンサンクレール」を筆頭に次々と新しいブランドを立ち上げ、そのたびに私たちを驚かせてくれる辻口シェフ。なんと今度は、美術館というから、ことの次第を確かめに行かなくては!と、早速、飛行機で能登まで一っ飛び。羽田から能登空港までは飛行機でたったの45分ほど、最初は遠いところだと思っていた七尾だが、意外な近さにまたびっくり。しかも、機内にはところどころに知った方々の姿も見え、更に親近感のわいた旅となった。




シャープな印象の入口から期待が高まります



館内はミュゼ、カフェ、パティスリーブティックの
3構成でなされている


実はこのプロジェクト、有名な旅館「加賀屋」さんが、創業100周年を記念して、地元七尾市の活性化のため、世界に通用する石川県の文化を発信できないかということで、七尾出身の辻口氏にラブコールをしたことから始まったという。
そしてこの美術館には、もう一人輪島塗の巨匠である角偉三郎氏の作品が展示され、和と洋の見事な融合を感じられるようになっている。場所は1200年の歴史を持つ和倉温泉の中心にある「加賀屋」旅館の直ぐ近く。海に面した建物の一階に、無機質なガラスと石で作られた、よけいな飾りの一切ないシャープな空間が広がっている。これをデザインしたのは 山本コテツ氏。artが主役の空間作りは意外と簡単だったと、さらりと言ってのける山本氏だが、実は隠されたご苦労があったに違いない。

あいにく、当日は朝から雨模様の天気、辻口氏のいう七尾の鉛色の空を実体験した日だった。辻口氏のブランドのひとつ、玉川高島屋にある「和楽紅屋」を訪れたことのある方は、赤とんぼや空をデザインしたあの店舗を思い出していただくとわかると思うが、実はあの中へ入るまでの天井は、七尾の鉛色の空がイメージされているとのこと。そして、この日はまさにその鉛色の空の色。もしかしたら、これこそが七尾の色なのかもしれない。


鉛色の七尾の空。
パティスリーブティックは海に面している。



左より辻口氏、小田専務、シェフパティシエ永田欽哉氏


記者会見の会場は美術館に併設されたパティスリーブティックである。ショーケースに並ぶ色とりどりのケーキや焼き菓子などが、華やかさを添えている。
まず、「加賀屋」の小田専務のご挨拶から始まり、辻口シェフの挨拶へ。

「私は、自分の故郷、唯一癒されるこの場所に、本当はビジネスを持ち込みたくなかった。しかし、この能登という地方は昔から文化の発信地であり、今の自分をそだててくれた場所でもあります。ここで育つ未来の子供達、そして大志を抱く人たちに、自分が少しでも役にたてればと思い、決意しました。パティシエとしての自分のアートな部分に、能登出身の画家、長谷川等伯を重ね合わせ、等伯が当時の都へでて異端と言われながらも立身出世した道筋と同じように、自分も自分が目指すパティシエとしての美というものを、昇華していければと思っています。
ここで展示する作品は飴を使ったもので、色、造形、それにプラスするのは最先端技術であるLED(発光ダイオード)です。そのLEDを使った飴の壁面ディスプレイは、長さ6Mにも及ぶ世界でも初めての取り組みで、「海の中の銀河」と名付け、この美術館のメインアートワークとなっています。その他には、自分の中にある原風景をシュークルダール(砂糖の芸術作品)で表現したものが展示されています。能登へ来る機会があれば、ぜひ七尾へ立ち寄っていただき、辻口のアートワールドを体験していただきたいと思っています」


と締めくくった。




今回のプロジェクトについての説明をする辻口氏


他に、デザイナーの山本コテツ氏から建物のデザインコンセプトについての話、そして山本氏の「辻口氏のケーキには、今までのパティシエ、スイーツになかったパッションというものを強く感じた」という思い入れなどが語られた。


山本氏からは今回のデザインコンセプトが語られる


壁に「夢」と一文字を書き入れる。
かなった夢か、これからの夢か


その後、記者会見会場からいよいよ美術館の展示室へ、ここへ通じる通路は天井が高く、薄暗いトンネルのような空間である。瞬間どこが入り口かよくわからないが、辻口シェフの写真の横に、自動扉のスイッチがあり、ここを押すと展示室に入れるという仕掛けだ。
中はシュークルダールを展示するということで、温度、湿度管理がされ、ライトもかなり暗い感じに照らされている。壁面には先ほど説明のあった「海の中の銀河」が。幻想的な七尾の海に潜ったときに見た光景である。ゆらゆらと海藻が、赤い魚が泳ぎ、生き物がたくさん動いている様子が表現される。裏側にはLEDが仕掛けられ、色の移り変わりで春夏秋冬を現す。木の葉、雪などが映像で登場する、初めて見る壮大な印象の飴の壁画である。


「海の中の銀河」
見ている前で姿を変えていく、
そこは海の底、それとも宇宙?
全体像や他の作品は、ぜひ自分の目で確かめにいきたい




作品の説明にも熱が入ります


美術館の説明をひととおり受けた後、「加賀屋」開催されるオープニングパーティ会場へ移動する。
しかし、この会場の広さ、招待客の多さに圧倒されてしまった。一般ゲストも含め600人ほど(推定ですが)の参加者が、壇上で挨拶する辻口氏を見つめている。まるで芸能人の結婚式にでも参加したかのような錯覚に陥ってしまう。そしてなんといっても、それだけの大人数があらかじめ各テーブルにセッティングされていたチョコレートケーキを食べている姿は、圧巻。その他、「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」で食べられるスイーツが会場中央に並べられ、これも自由に食べられるという幸せ。会場は甘い香りにつつまれ参加者全員が辻口シェフの味を楽しんだ。


会場となった「加賀屋」は、
「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で26年連続1位という名旅館だ





壇上の辻口氏が小さく見えます



翌日、一般公開の時間に美術館に駆けつけると、すでに長蛇の列。町人から、観光客までが行列をするという、七尾では珍しい光景が出現した。会場では辻口氏が、特注のコックコートに身を包み、お客様と談笑したり、記念写真をとったりと、ここでも芸能人並みのの扱いを受けていた。


七尾では珍しい光景がこれ。
小雨の中、熱心な辻口ファンは後をたたない




まだまだ、辻口氏の中ではたくさんの思い入れや志があろうかと思うが、故郷七尾を出てから、東京へ出て、夢を一歩一歩実現していく。やがては世界の辻口を目指して行く姿は、誰の目にも当然のこととして映っているに違いない。
スイーツをアートとして自分を表現する一つの方法としたところが、辻口氏の才覚であり、努力の賜物といっていいだろう。これからの活躍に目が離せないパティシエのひとりである。





「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」概要
住所 石川県七尾市和倉町ワ部65−1
TEL0767-62-4000
営業時間辻口博啓美術館「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」・角偉三郎美術館・・
8:00〜17:00
カフェ・パティスリーブティック・・
8:00〜19:00(生菓子は10:00からとなります)
*閉店前に売り切れとなることもあります
定休日年中無休
入館料辻口博啓美術館「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」・角偉三郎美術館共通
大人600円(小学生以下は無料)
URL http://www.kagaya.co.jp/le_musee_de_h/index.html