秋の訪れが、ひんやりと冷たい風を運んでくると、ますます恋しくなるのがスイーツ。
そんな秋の訪れとともに開催される「リュー ド パッシー」の新作試食会も、今年で3回目。パナデリアにとっても、なくてはならない存在になりました。
これからの季節に向けての新作を、地元のお客様に知って楽しんでもらおうというこの試食会は、
おいしいのはもちろん、「リュー ド パッシー」の魅力を再確認できる会でもあります。
ということで、美味なる秋の幕開けとすべく、今年もお邪魔してきました。



訪れたのは、午後4時半。ご近所の常連さんと思われる方や、「リュ− ド パッシー」のファンらしき方が、ケーキに舌鼓を打っているのが目に入ります。


今日は終日、試食会。なかなかできることじゃありません!


今年は、どんなケーキが登場するんだろう? そんな期待を胸にショーケースをのぞくと、茶や赤など深みのある秋色のケーキが並んでいます。
「昨年は“タルト”をテーマにしたのですが、やっぱり人気が高いのは生ケーキ。そこで、今回は生ケーキの試食会にすることにしました」
と長島正樹シェフ。今日ばかりは厨房から店頭へと場所を移し、自ら対応します。


笑顔がすてきな長島正樹シェフ。
今日はスタッフ総出で試食会にあたります



「今回は、スペシャリテの『バルザック』でも使っている、“ショコラ” “キャラメル” “コーヒー”といった素材を、別の形で表現できないかと考えてみました。それから、ちょっと抵抗がありそうなものも、ぜひこの機会に試食していただこうと思い、スパイスや生姜などのケーキも今回のラインナップに加えました」
ふむふむ、それでこそ試食会。だって、自分でお店に行くと、ついついスペシャリテや定番ばかりオーダーしがちなもの。意外なおいしさを見逃していることだって、大いにありえます。

「組合せといっても、洋梨だからキャラメル、という定番的な発想ではなく、とにかく一度バラバラにしてみる。そして、ゼロから組み立て直すことで、新しい素材の組合せが生まれてくるんです」
どのケーキも見た目はシックな装いですが、その中には新しいアイデアがキラリと光っています。

さて、今回の試食会に並んだのは、全部で7種類のケーキ。その中から、5つを選んで試食することができるようになっています。まずは、“コーヒー” “キャラメル” “ショコラ”の使い方が特徴的な3品から。
(パナデリアは取材のため、特別に7種類全部を試食させていただきました(食いしん坊だからではありませんよ!))


どうです!おいしそうでしょう? 試食とはいえ、
しっかりと味わえるようなサイズにカットされています




キャフェ ショコラ

根っからのコーヒー党、長島シェフが今回の新作に選んだ豆は、苦みのある“深煎り”タイプ。エスプレッソを思わせる“カツン!”と抜けるような苦みと、ショコラのほろ苦さが利いた、なんともインパクトのある味わいです。当然ポイントは“苦み”なのですが、これをエレガントかつ重厚に表現できるのが長島シェフらしいところ。間に入ったパールクラッカン(シリアルをチョココーティングしたもの)のサクサクッとした軽い食感が、ともすると重たくなりがちな組合せのアクセントになっています。お酒とも合せられそうな、大人な味わいです。


レガル

エレガントなオレンジの風味とナッツの深いコクが印象的。ヘーゼルナッツのクリームとキャラメルヴァニラのムースショコラに、オレンジ風味のアーモンドプラリネのババロアという構成です。ナッツのまったりとしたコクに、キャラメルとショコラのほろ苦さ、そしてオレンジの香りが加わることで、力強さのなかにも華のある味わいに。フワッと優しい口当りも魅力です。


マレ \420

洋梨のムースキャラメルとチョコレートムースの組合せ。・・・というと、定番のように聞こえますが、繊細かつ力強いキャラメルの風味と、繊細なムースの口どけはさすが長島シェフ。そして、このケーキの密かな立役者は、“上赤糖”を使ったビスキュイ。やや弾力のあるしっとりとした食感があり、そのやわらかいコクが全体を丸く包み込んでいるよう。定番的な組合せに、新しい表情を持たせてくれています。



ところで、“マレ”に使われている“上赤糖”とは、どんなものなのでしょう?
「上赤糖は、以前から興味があった素材。お店では今年の夏くらいから使い出しました。食べてみますか?」
そういって長島シェフが持ってきてくれたのは、赤みを帯びた茶色のお砂糖。上白糖のように、しっとりとした質感です。
「フランスのベルジョワーズや日本の黒糖だと、どうしても味が強すぎてしまいますが、これは他の素材を包み込むような風味があるんですよ」
口にすると、アクのない黒糖のような味わい。香りやコク、旨みはしっかりとあるのに、非常に丸みがあり、後味がすっきりしているのも特徴です。


いつもは焼菓子が並ぶ棚も、今日はテーブルに変身。今回の参加者は約80名。店内が混み合わないよう、長島シェフの奥様が外で上手にコントロールしています


そして、次にいただいたのは、ちょっと通な素材使いのケーキ。
「“セシル”は生姜とレモンを組合せた新作です。ちょっと意外な素材の組合せですが、一度食べていただければ親しみをもっていただけるのではないかと思い、今回のラインナップに加えてみました」
確かに、『この組合せ、どんな風味なんだろう・・・?』と気になりつつも、結局、安全パイを選んでしまうという経験は結構あるもの。生姜は嫌い!なんて思っていても、案外食べず嫌いなんてこともありますよね。実際、この“セシル”は、試食したお客様からの反応がとてもいいのだそうです。



セシル \441

やわらかなムースを口に入れると、パァッと広がる生姜の香り。想像以上に力強いその風味を追いかけるように、清々しいレモンの風味が訪れます。ムースのベースは、ホワイトチョコレートですが、甘ったるさがなく、そのミルキーな味わいが、生姜の辛みやレモンの酸味を心地よくやわらげてくれているよう。そして、ここにも“上赤糖”を使ったビスキュイが。その丸みのあるコクが、それぞれの素材をうまくまとめています。力強さと繊細さを併せ持つ、長島シェフらしい作品は、ぜひ一度お試しあれ。


ポワール オ ヴァンルージュ \378

深みのあるボルドー色をまとった艶やかな洋梨は、まさに秋の至宝。オレンジ・レモン・ヴァニラ・スパイスで香りづけされています。しっかりと形を残しながらも、トロッとやわらかいその果肉は、口に入れた途端に崩れて、みずみずしさが広がります。スパイスのブレンドも絶妙。しっかりと利いているけれど、とがった風味がないので、スパイス系はちょっと苦手・・・とうい方にも是非トライしてみて欲しい一品です。



さらに、定番ものにアレンジを加えたケーキも登場。中でも、ちょっと面白いのが“サントノーレ ピスタッシュ”。
「“サントノーレ ピスタッシュ”は、実は、クリームの中に巨峰が隠れているんです。重たくなりがちなピスタチオのコクに何かを合せようと思い、考えつきました」
素材の組合せについては、料理など他のジャンルのものを食べたりしながら、常に考えているという長島シェフ。ここでも、ピスタチオだから、チェリーやフランボワーズといった、定番的な概念を取り払い、ゼロから構成を考えたのだそう。そして、導き出されたのが、“巨峰”というわけ。まさに日本の秋を実感できる味わいが楽しめそうです。



サントノーレ ピスタッシュ \441

サクサクッと音が聞こえるような軽い食感の生地は、フィユタージュにシュー生地を重ねたもの。美しく絞られたピスタチオクリームから顔をのぞかせるのは、みずみずしい巨峰です。その淡いグリーンと紫という色の組合せもさることながら、味の相性の良さにはちょっと感動。まったりと濃厚なピスタチオクリームのコクに、巨峰特有の香りと華やかな甘みが広がり、ハッとするような立体感のある味わいに。


ミルフィユ オ ショコラ \420

ザクッと食感のいいフィユタージュは、ショコラの香りとバターのジュ−シーさがしっかりと感じられるもの。ところで、チョコレートと生のフルーツって意外に合わないと思ったことはありませんか?このミルフィユにサンドされているのは、フレッシュではなくコンフィチュールのイチゴ。ビターなフィユタージュと甘さ控えめのチョコレートクリームに、そのキリッとした甘酸っぱさが加わることで、カカオのほろ苦さが引き立ち、輪郭のはっきりとした味わいになっています。



ところで、この試食会に参加費はありません。考えてみると、丸一日の営業を試食会に当ててしまうのは、かなり大変なことなのでは・・・?
「いえいえ、自分でも楽しみにしているんです。1周年で割引セールをやったりするところもありますが、私にはこっちの方がずっといいんです。お客様とのコミュニケーションにもなるし、意見も聞けますからね」
と、満足そうに微笑む長島シェフ。本当にこの会を楽しみにしていることが伝わってきます。


パリの“リュ− ド パッシー”。エッフェル塔に
程近い、高級住宅街にある通りの名前



街を愛し、街に愛されるパティスリー。
そんな、ほっこり温かい気持をいただき、身も心も満ち足りた今回の試食会。
残念ながら、試食会は1日だけですが、ケーキに込める長島シェフの想いは1年中変わりません。
今回ご紹介したケーキは、すでに店頭に並んでいますので、この機会に、美味なる幸せを感じてみてはいかがでしょうか。

(2009.11) 


リュー ド パッシー
住所 東京都目黒区中央町2-40-8
TEL&FAX03-5723-6307
営業時間9:30〜19:30
定休日水曜
アクセス東急東横線 学芸大学駅 西口より徒歩5分






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