もはや恒例となった新宿伊勢丹「サロン・ド・ショコラ」は今回で3回目を迎えた。日本でもおなじみの有名菓子店や、この企画のために来日した海外パティスリーやショコラティエが並び、どこを見てもチョコ、チョコ、チョコ!その中でも、世界的に有名なチョコレートショップといえば、思い浮かぶのがゴディバではないだろうか。美しいケースに金色で描かれたGODIVAの文字。ゴディバのボンボンショコラは、ヨーロッパへの憧れとともに日本中に広まり、高級チョコレート時代の幕開けを華やかに飾った。今や、誰もが知る高級チョコレートショップだが、その規模の大きさから、職人というイメージとはかけ離れているとも言える。いったいどんな風にショコラ作りに取り組んでいるのだろう、ゴディバでマスターショコラティエを務めるジャン・クロード・シブレ氏に、お話しを伺った。


ジャン・クロード・シブレ氏

「これ、私が作ったんですよ。どうですか?」
サロン・ド・ショコラ内のゴディバのブースには、ショコラ色の日本風の壺や福の神の彫り物が飾られている。焼成前の陶器のような質感をもつ壺は、まるでロクロで仕上げたかのように姿が良く、彫刻にいたってはショコラティエの粋を完全に越えている。
「これは、ショコラで作ったんです。福の神なんて上手くできているでしょう?16時間かけて彫ったんですよ」
嬉しそうな表情を見せるシブレ氏、長身にダークブラウンの瞳、そしてお父さんのような温かい笑顔が印象的だ。

「私の一家は、4世代皆ショコラティエやパティシエなんですよ。ショコラティエになりたいと思ったのは、まだ6歳くらいの頃。6〜7歳に堅信式(洗礼後、クリスチャンになったことを確認する節目の式)というキリスト教のお祝いがあるのですが、その時に祖父と父が自分のためにピエスモンテを作ってくれたんです。ガラス越しに、2人が作ってくれているそのすばらしいピエスモンテを見て『いつかこんなお菓子を作れたら』と思いました。それ以来、お菓子への興味や好奇心はずっと持ち続けています」
父親亡きあと、シブレ氏はゴディバに入り約19年間ショコラの研究開発を担当してきた。



お気に入りの福の神。
チョコでできているとは思えない見事な表情!


お寿司をイメージした作品!
もちろんチョコレートでできています

「ゴディバは、2種類の商品で構成されています。1つは定番もの、そして2つめは季節に合わせた商品です。ユニークさを出したり、お客様のニーズやリクエストに応えたり、新しいチャレンジもします。まずラボで作ってみてテストをし、そのあと試食をしてもらいます。評判がよければ、本格的に開発をしていくわけです。ショコラを作るうえで大切にしているのは、舌触りとフレーバー。フロントノート、ミドルノート、バックノートと、段階的にフレーバーが広がるようなショコラです。そのため、130種類以上ある全ての原料をしっかり吟味します。例えばよく使われるプラリネですが、ナッツを低温でじっくり丁寧にローストして風味を引き出し、ペーストにすることが重要。プラリネだけでも何十種類もあり、それぞれ味やフレーバーが違うんですよ。こういった素材の管理はお金のかかることですが、それをしっかりできなければだめなんです」

また、1つの商品を開発するためには徹底的に勉強することも怠らない。
「例えば数年前、マカデミアナッツをとり入れたときも、どの産地のものが良いか、どんな風味と合うのかなど、ネットやさまざまなものを利用して徹底的に研究をしました。『これが最高なんだ!』と自分で納得し、味わっていただけるよう妥協はしません」
実際、昨年から販売を開始した「Gシリーズ」はなんと16ヶ月もの歳月をかけて開発した自信作だという。



宝石箱のような美しさのGシリーズ

「ゴディバには商品価格の上限がないんです。例えば、シャンパンを使ったショコラを作るとしたら高くなっても本物のおいしいものを使います。その代わりお客様に『高い!』といわれても、そのおいしさや理由をちゃんと説明できることが必要。全て『Very』ではなく、『Very Best』でないとダメ。ライバルや競合に勝つためには、そういった努力が必要だと思っています」
毅然とした表情で語るシブレ氏。やさしい口ぶりの中にふと現れる職人の姿にドキッとさせられる。


笑顔が優しいシブレ氏


すばらしい美的センスを感じるチョコの絵
「とはいっても、仕事というよりも創造することを楽しみながら作っています。そして、おいしいものができたら、開発チームを呼んでみんなで食べてみる。会議なんかもありますが、家に帰るときにはいつも楽しい気持ちなんですよ」
巨大なゴディバを支えているのは、正真正銘のショコラティエであり職人なのだ。とはいえ、最終的には工場での生産となる。その辺はどのように配慮しているのだろうか。



「原料、そして各工程でテイスティングをします。マイクロアナライザーでもチェックをしますが、品質保証のため、ラボと味が同じかどうかをテストするのは自分の味覚なんです。毎日約250gはテイスティングしているんですよ」
世界中に店舗を持つゴディバは、どこで食べても同じ味と品質を保つため各プロセスを統一している。だが、その地域独自のおもしろい食材をとり入れるなど、新しい取り組みも忘れない。


刺激的なチリの味わいは
情熱の予感?

「今回のヴァレンタインの商品は、フィリングが一緒でカバーのショコラが違うというものなんですよ。パッションフルーツのフルーティな香りでまず夢心地になり、そのあとチリペッパーの刺激が喉の奥に広がります。男性、女性のイメージで作ったのですが、フィリングは一緒でも味のイメージが違い、面白いと思いますよ」
味だけではなく、流行色をラッピングやショコラのアクセントにとり入れることも忘れない。ヴァレンタイン向けには、男性に受ける色をセレクトしたという。

最後にお菓子を作りに必要なことを伺った。
「好奇心、素材への興味やノウハウ、それから創造性です。そして、何度も何度も繰り返すこと。それによって初めてそのプロセスを習得することができると思っています。それから、自分に厳しく、他人にも厳しくあること。最高のものを作るためには、妥協しないことが大切です」
4世代続いてきた職人一族の誇り、それが今もなおゴディバに息づいている。
(2005.1)


梅の枝ぶりと美しい色合いがお見事!





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