美食の町といわれるルクセンブルク。そこで今、注目のショコラティエがあるといいます。ルクセンブルクのお菓子といえば、大公御用達のショコラトリー「オーバーワイス」やパティスリー「ナミュール」等が有名。伝統があって格式高いイメージかもしれません。そんな中、2005年にオープンした「ショコラトリー・アルティザナル・ジェナヴェ」が独自のショコラで新たな風を吹き込んでいます。きっかけは、2006年に開催されたパリのサロン・デュ・ショコラ。最も優れたショコラティエに贈られるという特別栄誉賞を受賞し、瞬く間に一流ショコラティエの仲間入りを果たしました。今年のバレンタイン時期には日本にも上陸するというから気になります。それに先駆け、昨年11月にルクセンブルク大使館主催のデモンストレーション&試食会が行われました。

天然のエッセンシャルオイルを加えるときは少量ずつ慎重に。感覚を研ぎ澄まして行う繊細な作業です



「私はジェナヴェのクリエータであり、デザイナーでもあります」
と語る、シェフのグーラ・ナヴェさん。品のある温かい笑顔が印象的なナヴェさんは、ちょっと変わった経歴の持ち主。病院で生物学研究に携わった後、ファッションデザイナーを経て、ショコラの世界へ。その多彩な才能を活かして、ショコラ作りはもちろん、パッケージや転写シートのデザインも手がけます。デモンストレーションでは、2種類のショコラが披露されました。
「ひとつめは、バラの香りをつけたボンボンショコラ。これは3つの方法で香り付けしています。まずはバラの蕾を煮出した生クリームを使ってガナッシュを作り、そこにバラの花びらで作ったコンフィチュールと、天然のエッセンスをプラスする、というやり方。化学的に合成した香料は一切使わずに、素材の味がきちんと感じられるショコラを目指します」

ソース入れに似たプラスチックケースを使ってガナッシュを注入。ココアの中にガナッシュをまぶしてトリュフを作る際には、なんと豆腐をすくう網が登場!「この間日本で買ったんです。便利ですよ(笑)」とナヴェさん


空気を入れないように作ったガナッシュは艶々でなめらか



コーティングチョコレートを流した型にガナッシュを詰め、型から抜いてバラの転写シートをうつせば「ローズ」の完成。こうしたフラワーシリーズは、ナヴェさんが最も得意とするところ。ガナッシュの配合を考えるときにも、何度も何度も1人で試作し続けるというナヴェさん。研究者としての血が騒いでいるに違いありません。また、生クリームを使わず、豆乳をベースにしたボンボンといったユニークなものも。それにしても、何故、豆乳を?
「ユダヤ教のお祭りのときに、チョコレートを頼まれたことがあったんです。でも、生クリームは禁止されているので、代わりに豆乳クリームを使ってみようかと。以前、日本を訪れたときに、たくさんの大豆製品を見かけたことがあって、それもヒントになっています」

繊細なバラの模様が施されたシートを被せて1枚ずつ転写



というわけで、今回のデモの時にも日本で販売されている豆乳クリームが登場。このクリームを使用して作った、できたてのトリュフが配られました。早速いただくと、生クリームを使ったものに比べてあっさりとして軽やか。特に大豆を食べ慣れている日本人にとって、馴染みやすい味に仕上がっていました。

トリュフには日本の豆乳ホイップを使用



オリジナルの味作りにとどまらず、ショコラのデザインにも、女性デザイナーらしいセンスが光ります。赤いバラの花をプリントした「ローズ」、女性の横顔をプリントした「マダム」や赤・黄・緑の3色模様が美しい「ピカソ・ア・ラ・フランボワーズ」など、繊細で洗練されたデザインが印象的。形や模様は、それぞれのフィリングに合わせて変えているとのこと。転写シートや型などを特注するなど、細かい部分にも妥協しません。
「例えば『ピカソ』なら、カカオバターに食品からとった色素を調合したものを型につけます。まず、黄、緑の2色を指でつけ、最後に赤をふきつけます。ひとつひとつ手作業で模様をつけていくんです」
シャープなデザインの中にも温かみが感じられるのは、手作業だからこそ。“ショコラを味わう体験は、見た瞬間から始まる”という、ナヴェさん。独自の感性が活かされたジェナヴェのショコラは、ひとつひとつが芸術作品のよう。では、早速、その一部をご紹介しましょう。



ローズ
上品な味わいは、イラストのイメージそのまま。少し厚めのカバーを破ると、中から甘美なローズの香りが立ち上ります。控えめでさりげない香り使いが清々しい一品。ビターなカカオの風味とバラの組合せは、スマートな大人の女性にぴったり。

ピカソ・ア・ラ・フランボワーズ
マーブル状の模様が美しいドーム型のショコラの中には、フランボワーズのガナッシュが。甘酸っぱいフランボワーズの風味が、シャープなガナッシュと共に口中で溶け合います。キレがありながらも、優しい余韻が印象的。

ガナッシュ・サン・ラファエル
ゼラニウム&カシスという珍しい組合せのガナッシュ。すっきりとしたビターなガナッシュから、カシスの風味がキュンと弾け、続いて芳醇なゼラニウムの香りが広がります。伸びやかな香りがエレガントな一品。

ノワゼッティーヌ
ショコラノワールとピエモン産ヘーゼルナッツプラリネ入りガナッシュの組合せ。コクのあるナッティな味わいですが、濃厚すぎないバランスの取れた味わい。フィヤンティーヌのショリショリ感がさりげないアクセントに。



バレンタイン時期にはショコラのほか、丸く焼き上げたフロランタンも登場する予定(名古屋三越などで販売)



小ぶりなショコラは、箱に並んだ姿も楚々として愛らしいもの。繊細で可憐なデザインも不思議と心をくすぐられます。いつものように好みの味を選ぶのもいいけれど、時にはアクセサリー感覚で、気に入ったデザインのショコラを選んでみるのも面白そう。温かみのある味わいやさりげなく光るセンスは、日本でも評判を呼びそうな予感がします。(2009.01)