パティシエ御用達のフレキシパンやシルパットなどを販売するドゥマール・ジャポン。ここで人気の、グランシェフ講習会に行ってきました!話題のパティシエを招いて毎月行われているこの講習会、7月20日の会にはリクエストの多かった「サロン・ド・テ・スリジェ」の和泉 光一シェフが登場。和泉シェフといえば、今、最も注目すべきパティシエの1人なのです!そのわけとは・・・?!去る7月7日、8日にアメリカで開催された製菓のワールドカップ、WPTCという大舞台で日本チームのキャプテンを務めたのが和泉シェフ。そして、その日本チームは見事、準優勝に!更に、和泉シェフのチョコレートピエスは、並み居る競合を抑えて1位!という快挙を成し遂げたのです。そんな世界一のテクニックを間近に見たいと、会場となったドーバー洋酒貿易株式会社には、熱心なファンたちが集まりました。“WPTCから凱旋帰国したシェフの講習会”というイメージから、てっきりパティシエや業界の方々が参加されるのかと予想していましたが、意外にもメンバーはお菓子好きの女性たち。皆、真剣な表情でシェフの言葉に耳を傾けます。

ドゥマール・ジャポンの上村 究氏ドーバー洋酒貿易代表の和田泰治氏



「実は、この会場にはとても縁があるんですよ」

と、話す和泉シェフ。というのも、この会場は、かつてWPTCの練習用にと使われていた場所。日本チームのメンバーだった氷川会館の林 正明シェフ、パンパシフィックホテル横浜の武藤 修司シェフと共に、WPTC本番さながらの作業を何度も何度も繰り返していたのです。たくさんの思い出が詰まった場所に立つと、自然と気合が入るのだそうです。


和泉シェフの優しい笑顔と滑らかな口調で会場は盛り上がります



さて、今回シェフに教えていただいたお菓子は2種類。ひとつはデセールで「エクロジオン」、そしてもうひとつは焼き菓子の「フロマージュ・サレ」です。エクロジオンはシェフが得意とするチョコレートを使ったもの。フランスで開催されたコンクール「ワールド・チョコレート・マスターズ」の味覚部門で優勝したデセールをアレンジしたというこの作品、実は某テレビ番組で紹介されていた幻の一品。鎧塚シェフとの対決に破れて封印されたはずの、あのデセールを再現してくれるというわけなのです。

「もちろん、テレビ関係の人には内緒にしてくださいね。あ、それと、鎧塚シェフと戦ってはいましたけれど、仲が悪いわけではないんですよ(笑)」

なんて冗談を交えながら和やかなムードでデモンストレーションが進んでいきます。
コンクールで作ったチョコレートのお菓子というと、複雑な製法だったりたくさんの材料を使ったりする難しいものというイメージを想像しがちですが、実際の作業や材料は意外とシンプル。コンクールでは制限時間内に作ることが鉄則。そのため、味はもちろんのこと、いかに効率よく作業を進めていくかがとても大切なのだそう。今回の講習でも、洗いものを少なくしたり、同時進行で作業を進めていくなど作業時間を縮めるための工夫が随所に見られました。また、一般家庭ではなかなか見かけることのない製菓材料には参加者も興味津々の様子。

それでは、講習会の中でも特に印象深かったシーンを集めてみましたのでご覧ください!  



■ アパレイユ・ショコラ・ノワール(エクロジオン用)


水風船を膨らませたらひょうたんのような形にするのがポイント


まずはエクロジオン用の、チョコレートで作るケース作りから。

「ケースを作るといっても、型は使いません。使うのは、これです」

そう言ってシェフがおもむろに取り出したのは、なんと水風船!テンパリングしたチョコレートの中に膨らませた水風船を半分位どぼんと漬け、そのままぶら下げて乾かします。チョコレートが固まったところで風船に針を刺して割ってしまえば、ケースの出来上がり。
特別な型を使わなくても、素材はどこにでも転がっているのです。

そして、このケースを作るために欠かせないというのが、カカオバリー社の超微粒子カカオバター、「マイクリオ」。

「このカカオバターをチョコレートに添加すると、とても伸びが良くなるので、薄くて繊細なケースを作ることが可能なんです。また、無味無臭なので、チョコレート本来の味を変えることなく仕上げることが出来るのも大きな特徴ですね」

大会での器は、その薄さに向こう側が透けて見えるほどだったというから驚きです!伸びを良くするために使用されたこのマイクリオという商品、元々はテンパリングの作業を簡素化するために開発されたそうですが、今回のようにチョコレートを薄く伸ばしたり、他にもゼラチン代わりに凝固材として使用するなどたくさんの可能性を秘めている注目素材なのです。



皺がよるような状態になるのが目安


更に、シェフの工程を見ていて驚かされたのが、テンパリング方法。一度に大量のチョコレートを使用するプロの場合、マーブル台の上でチョコレートを練る方法がとられます。この時、パレットナイフでチョコレートをひたすら練り続けるというのが一般的なのですが、和泉シェフの場合はちょっと違います。パレットナイフではなくカードを使用するのですが、そのカードをほとんど動かさないのです。これには、それなりのわけがありました。

「50℃に温めたチョコレートを、マーブル台の上に流して28℃まで下げていきます。この時、一番冷えているのはマーブル台に接している部分ではなくて、表面の、空気に接している部分なんです。だからできるだけ表面積を多くしてあげるようにするのが、早く冷やすためのポイント。少し放置してからカードでカーブを描いてショコラの縁を作るようにして表面積を増やす、という作業を数回繰り返せば意外と簡単にできてしまうんですよ」

見ていると、本当にゆったりと手を動かしていて、決してこねくり回すようなことはしません。他にも、マーブル台が汚れないようにOPPシートを敷いた上でテンパリングを行ったり、テンパリングを終えた後OPPシートに残ってしまったチョコレートは固まるまで放置してから楽にはがすなど、効率よく、かつ美しく作業を進める工夫が随所に見られました。



■ 飾り用チョコレート


スポンジで模様をつけたら、シートをくるりと丸めて乾かします




エクロジオンの飾り用チョコレートを作るシーンでは、キッチンで欠かせないあるものが登場しました。その、あるものとは・・・。

「これは、よくある家庭用のスポンジです。ギターシートの上にチョコレート用の赤い色素を垂らしたら、上からスポンジで円を描くようにこすると模様ができるんです。他にも、指や筆などで模様をつけることもありますよ」

赤い模様をつけたシートの上に金色の色素を重ね、その上からショコラノワールを薄くパレットで伸ばせば、飾り用チョコレートのシートが完成。パイカッターでカーブをつけたり、ハートの抜き型で抜いたりと、アイデアしだいで出来上がりの形は無限に広がります。


艶々の美しい飾り用チョコレートの完成!




家庭用スポンジにも驚かされましたが、もうひとつ気になる道具がありました。ギターシートっていったいなんでしょう?

「チョコレート用のプラスティックシートです。OPPシートにテンパリングしたチョコレートを伸ばすと、チョコレートが固まって縮んだ時に皺ができてしまうんですが、ギターシートなら一緒に縮んでくれるのでそんな心配もありません。それにとても艶が出て綺麗に仕上がるんですよ」

完成したチョコレートは鮮やかな色彩と驚くほどの光沢感。その美しさに思わず溜め息が漏れます。



■ モワルーショコラ

やわらかいメレンゲがこのお菓子のポイント

生地ができたらフレキシパンに絞り入れます


土台部分となるショコラ生地は小麦粉不使用で口溶け良く柔らかいタイプ。ポイントはチョコレートを扱う時の温度とメレンゲの泡立てにあります。

「僕の場合、焼き菓子にする場合も生菓子として使う場合も、チョコレートの温度を約50℃まで上げて溶かします。その後、他の材料を合わせていって、最終的な生地の温度を30℃〜40℃の間でキープすると、なめらかに仕上がるんです。それから、最後に加えるメレンゲは、角が立つまで泡立てずに、柔らかい状態で止めること。この時、あまり早すぎない速度でゆっくりと泡立ててあげると、柔らかくても泡がつぶれにくいものができます」

そして、このモワルーショコラを焼く時に必要になってくるのがフレキシパン。フレキシパン特有の少し蒸れながら焼ける状態が、この焼き菓子にとっていいのだそう。また通常の型で焼くと、オーブンから出した時に真ん中がへこんでしまうのですが、フレキシパンならそんな心配もありません。更に、型に脂を塗る必要もないなど、フレキシパンは本当に便利。

「フレキシパンでないとこうはいきません。欲しい方はドゥマールで買って下さい(笑)」



■ シャンティショコラ





今回の講習会で頻繁に登場していた道具のひとつがバーミックス。例えばシャンティショコラの場合、チョコレート・転化糖・水あめの入ったボウルの中に温めた生クリームを加えてバーミックスをかけ、冷やせばあっという間にガナッシュが完成。ここに生クリームを加えて泡立てます。他にもマンゴーピューレとカカオバターを合わせたクレーム・マング・エピセを作る時やチョコレートのテンパリングを滑らかに仕上げたい時などに、バーミックスが大活躍。でも、便利だからと言ってただ使えばいいというわけではないんです。

「バーミックスを使いこなせるようになると、とても効率的に作業を進めることが出来ます。でも、それは乳化についてしっかり理解しているからできること。今回作ったガナッシュやクレームも、ホイッパーで普通に作ることができて初めてバーミックスを使う意味があるんです。なぜなら時間を短縮するために使っている道具ですから」

こんな風に、シェフの鮮やかな手さばきに見とれながらデモンストレーションを受けることおよそ3時間、最後にお楽しみの試食タイムがやってきました!



■ エクロジオン





崩してしまうのがもったいないほど美しいデセールは、様々な工夫が凝らされているもの。このデセールには7種類ものパーツが使われています。そしてそのどれもが、素材の味が際立ち、異なる食感や温度で作られています。例えばカシャっと儚く崩れるチョコレートのケースにカカオの風味が濃厚なシャンティショコラ、ねっとりコクのあるバナーヌ・ソテー、まったりとしたカラメルエキゾティック、極薄のチュイール・ダンテル・クルスティヤン・アマンドに温かくスフレのような口どけのモワルー・ショコラというように。食べるたびに驚きや楽しみが訪れる、そんな生き生きとしたおいしさがそこにはありました。



■ フロマージュ・サレ





どこかパイを思わせる軽快な食感がポイント。チーズと一味唐辛子が効いた塩味の焼き菓子は、お酒のお供にも良さそう。材料を次から次へとロボクープで混ぜていくだけという手軽さも魅力です。





いかがでしたか?
全ての工程を通して感じたのは、何気ない作業のひとつひとつ全てに意味があるということ。シェフが頭の中で考えている理論が、鮮やかで素早い手つきとなって現れているのです。さすがはチョコレートピエス世界一の腕前!と思いきや、意外にもチョコレートは苦手な素材だったのだそう。

「チョコレートってべたべたするし汚れるから、元々は好きではなかったんですよね。でもそのことがきっかけで、だったら綺麗に作業できる方法を考えてやろうって。徹底的に理論を勉強したら、恐怖心もなくなりました。一度深く理解してしまえば、あとは意外と簡単なんですよ」

理論やテクニックだけではなく、お菓子作りにかける思いやWPTCでの裏話も飛び出すなど、とても密度の濃い贅沢な講習会となりました。和泉シェフ、どうもありがとうございました!



ドゥマール・ジャポン

URL:http://www.demarlejapon.com/