去る10月28日、サンエイト貿易株式会社が主催する、デモンストレーション&講演会に参加してきました。講師は、パティシエ エス コヤマの小山 進シェフ。“小山 進の創造性”というテーマのもと、KAOKA(カオカ)社のオーガニックチョコレートを使って、7品のお菓子を披露してくれるというから興味津々です。神戸を拠点に幅広く活躍する小山シェフのテクニックを目にしようと、会場となったドーバー洋酒貿易にはたくさんのパティシエやショコラティエの卵達が集まりました。



「先月、KAOKA社のチョコレートに使われているカカオ豆の産地である、南米エクアドルへ連れていっていただきました。そこでは、実際にカカオ農園や工場を見学したり、フルーツとしてのカカオを食べたり。とても貴重な経験をさせてもらいました。そうするうちに、“ああ、こんなお菓子を作ってみたいな”と膨らんできた想いを、熱が冷めないうちに形にしたのが今回の作品なんです」
使用したKAOKA社のチョコレートは、全部で5種類。それぞれ、どんな風に使い分けているのかも見ものです。


トロアコンチネンツ61%:エクアドル南部の豆をベースに、サントメ、バヌアツをブレンド。まろやかでバランスのとれた味わい

サントメ66%:香ばしさの中に広がる、フルーティーな酸味と上品な苦みが特徴

エクアトゥール70%:ナショナル種を100%使用。フローラルな香りがエレガント。キレの良さ、長い余韻が魅力

ペパデオーロ80%:エクアドル・ナショナル種の中でも希少な北部の豆を 100%使用。個性的で力強い風味は、アクセント的に使う楽しみも

ショコラ オ レ32%:エクアドル、サントメ、バヌアツをブレンドし、フランス産のミルクをプラス。まろやかなキャラメル香とミルクのコクの中に、バランスのとれたカカオの風味が広がる


「“このお菓子に、何故このチョコレートを使ったのか”というのは良く聞かれるんですが、あくまでも僕の感覚でしかないんです。でも、皆さんの口の中で、KAOKAのチョコレートと僕の思いつきをじっくり確認しながら味わってもらえたらいいですね」
そんなシェフの希望もあって、今回はデモンストレーションを見ながら使用するチョコレートを試食できるとのこと。“このチョコレートがどんなお菓子になるんだろう?”なんて、想像しながら食べるのも面白そうです。
では、小山シェフならではの“感性”とは、どんなものだったのか、まずは完成した作品からご紹介します。


ラミチエ ド カカオ

使用したチョコレート:エクアトゥール70%(ムースショコラ、ピストレショコラ)
サントメ66%(ビスキュイ・サントメ)
グリュエドカカオ(ローストしたカカオ豆の粗挽き)の香りをつけたホワイトチョコレートのムースのセンターに、バナナのジュレ、バナナのクリーム、ビスキュイ、「エクアトゥール70%」を使ったショコラのムース、底にはビスキュイ・サントメを。いわゆるチョコレートとバナナの組合せですが、食べてびっくり!想像していたよりもずっとフルーティーで、チョコレートというよりも、南国のフルーツを食べているような感覚です。フレッシュなバナナの味わい、そして上品な酸味と苦みが心地よいショコラのムースを、ホワイトチョコレートのムースの乳風味が優しくまとめあげます。ビスキュイサントメの中に細かい粒状で残る「サントメ66%」がさりげないアクセントに。


ロートンヌ

使用したチョコレート:ショコラオレ32%(プラリネ・クロッカン、グラサージュ・ショコラ)
トロアコンチネンツ61%(グラサージュ・ショコラ)
洋梨のクリーム、ショコラのビスキュイ、ショコラのムース、キャラメルのムース、プラリネクロッカンを艶々のグラサージュで覆った一品。滑らかなグラサージュとコクのあるショコラのムースが重なり合い、エレガントな香りが広がります。軽やかなキャラメルのムースやフルーティーな洋梨のクリームでまろやかに、カリカリのクロッカンで香ばしく。カカオの風味をしっかりと感じながら、多彩な風味や食感が追いかけます。


ソーシソン オ ショコラ フリュイ

使用したチョコレート:サントメ66%
ソーセージに見立てたチョコレートの中には、ポワール、プルーン、フィグ、レーズンなどのドライフルーツとアーモンド、クルミ、ピスタチオなどのナッツがたっぷり。カカオの香ばしさやフルーティーな酸味の中から、ドライフルーツの旨みやナッツのコクが顔を出します。濃厚な味わいも、胡椒やアニス、シナモンなどのスパイスやキルシュの香り付けでキレの良い仕上がりに。薄くスライスしてお酒のお供にいただくのも良さそうです。


グラス ペパデオーロ

使用したチョコレート:ペパデオーロ80%
個性的で刺激的なペパデオーロも、たっぷりの牛乳や生クリームと合わせれば程よいショコラ感に。口中でスッと溶ける頃、フルーティーな酸味とスモーキーな苦みがほのかに漂い、後からカモミールの香りが追いかけます。さらりとした口当たりでさっぱりと。


ボンボンショコラ【ダニエル】

使用したチョコレート:サントメ66%
赤や黄色味がかった微妙な色合いは、まるで、カカオの実そのもの!中はライチとグァバ風味のガナッシュと、ライチとグアバのクリームの2層仕立てに。クリームはとろ〜と流れ出すほど柔らかく、フルーツキャラメルのような味わい。フルーティーなガナッシュと合わさり、フレッシュな酸味と上品な苦みがキレを残します。


ボンボンショコラ【モヒート】

使用したチョコレート:サントメ66%
フルーティーで爽やかなダニエルから一転して、こちらは大人の味わい。滑らかなガナッシュにはライム果汁とホワイトラムがたっぷりと使われ、心地よい苦みと甘み、爽快な酸味が駆け抜けます。

マカロン ショコラ カモミール

使用したチョコレート:ペパデオーロ80%(マカロン生地)、エクアトゥール70%、ショコラオレ32%(ガナッシュ)
外側はカリッと中はしっとりの繊細なマカロン生地の間に、滑らかなガナッシュと、黄色いカモミールのクリームをサンド。生地とクリームからは、それぞれ別のカカオの風味が広がり、立体的な味わいに。最後はカモミールの甘酸っぱい香りがふわ〜っと広がり、エレガントな余韻が楽しめます。






カカオはフルーツだ!

「“カカオはフルーツなんだ”ということが、とにかく印象的でしたね」
とシェフ。
「もちろん、カカオはフルーツで、カカオの実からどうやってチョコレートが作られるのかは知っていましたが、1度に5個も6個も食べたくなるほどおいしいフルーツだとは思っていなかったんです」


15分ローストしたグリュエドカカオをすぐに冷たい牛乳の中へ。暫く置くとほんのりと色づき、カカオの香りも移ります。ローストした後冷ましてから牛乳に入れれば、白いままの仕上がりに


現地で山ほど食べまくり、カカオのフルーティーな味わいに衝撃を受けた小山シェフが、“フルーツとしてのカカオ”を表現したのが今回の作品。例えば、グリュエドカカオを牛乳で煮出し、カカオの香りだけを活かしたホワイトチョコレートのムースを主体にバナナを合わせた「ラミチエ ド カカオ」、ガナッシュにライム果汁を忍ばせた「マカロン ショコラ カモミール」や「ボンボンショコラ【ダニエル】」など、製法にもひと工夫してフルーツ感を強調。中でも、ライチとグァバ風味の「ボンボンショコラ【ダニエル】」は、よりフルーティーな一品でした。
「カカオの実のパルプ(白い果肉の部分)を食べた時に、ライチやグァバ、マンゴスチンに似ているなあと思って。まずは、ライチピューレとグァバピューレを入れたガナッシュをコーティングしてみたんですが、何かが足りない。そこで、ライチとグァバのクリームとの2層仕立てにしてみました」


型にコーティング用のチョコレートを流した後、ライチとグァバのクリームを投入


このクリーム、実は、フルーツのピューレを110℃まで煮詰めてからバターを加えたもので、フルーツに含まれる糖分がキャラメル化され、まるでフルーツキャラメルを食べているような味わい。「サントメ66%」の酸味とも相性がよく、クリームとガナッシュと合わせた味わいは、まさにカカオのパルプのよう!・・・もちろん、パルプを食べたことがない人でも、大丈夫。このショコラを食べて、想像を膨らませてみるのも面白いかもしれません。



KAOKAは扱いが難しい?!

カカオの風味が活かされた、素直な味わいが魅力のKAOKA。でも、「ペパデオーロ80%」は追油していない分、普通のチョコレートに比べて扱いが難しそうなイメージがありますが・・・?
「例えばガナッシュを作る時に乳化しずらいとか、時々そういう話を聞きますけれど、僕が使った限りでは全く問題ありませんでしたよ。まずはカカオ分が何%なのかを考えて、そこに加える水分量(生クリーム)を考えればいいんです」


しっかりと乳化していれば、ご覧の通り艶々でプルプルのガナッシュに!


例えば、60%のチョコレート100gと35%の生クリーム50gで作っていたガナッシュを、80%のチョコレートに変える場合、カカオ分が高くなるため、乳化させるのに必要な生クリームの量も増やさなければなりません。逆に、ミルクチョコレートに変えるとカカオ分が低くなるため、生クリームを減らせばいいという具合。メーカーによって作業性が異なるのではと考える前に、まずはカカオ分と水分のバランスを調べてみては、と小山シェフ。
「それから、慣れない方は、生クリームを分けて加えていくといいですよ」
レシピを見ると、チョコレートに加える生クリームの分量が2つに分けられ、1つは“追加用”と書かれています。これについては、
「初めに少しずつ生クリームを加えていって、後から乳化に足りない分を補うという“気持ち”の部分なんです。もちろん1度に加えることもできますが、この方が失敗が少ないですね」


チョコレートと生クリームが綺麗に繋がったグラサージュ。うっとりするほどの光沢が


溶かしたチョコレートに生クリームを少量加えてしっかり混ぜ、ねっとりしてからまた少量を加える・・・そして最後に追加用を入れる頃には、艶々のガナッシュが完成!ガナッシュの時点で乳化がしっかりできていれば、更に泡立てた生クリームを加えてショコラのムースを作る時にも、合わせやすいとのこと。乳化のコツさえ掴んでしまえば、チョコレートの扱いにも自信が持てそうです。



小山流のKAOKA使い

ムースにグラス、ボンボンショコラにと、様々に配合や組合せを変えて登場したKAOKAのチョコレート。それにしても、どんな基準で使い分けているのでしょうか?
「KAOKAの5種類のチョコレートの中で、特に『サントメ66%』はフルーツとの相性がいいですね」


チョコレートとローストしたナッツ、キルシュにつけたドライフルーツ、スパイスを合わせてソーセージ状に。旨みとコクがたっぷり


“フルーツとチョコレートの組合せをストレートに楽しんで欲しい”との思いつきから生まれた作品が、「ソーシソン オ ショコラ フリュイ」。なんと、3分でレシピが完成してしまったというから驚きです。また、「ボンボンショコラ【ダニエル】」では、ライチとグァバのピューレをブレンドしたものを加えてガナッシュに。
「実は、合わせるチョコレートによって、ライチやグァバの味の出方が変わってくるから面白いんです」


マカロンの間には、ガナッシュとほんの少しのクレームカモミールを。フローラルなカカオの風味がよりエレガントに


また、「マカロンショコラ」のガナッシュや、「グラス ペパデオーロ」にはカモミールをプラス。
「カオカのチョコレートの表現で一番多く聞いた言葉が“フローラル”だったので、何か使ってみようかなと。特に『ペパデオーロ80%』は、“ジャスミンのような”と形容されていることもあって、始めはジャスミンを合わせてみました。それも悪くはなかったんですが、カモミールを入れてみたら、その方がしっくりきて。たまたまそばにあったものだったんですが(笑)」
そして、チョコレートの使い方にも一工夫。
「『ラミチエ ド カカオ』に使ったビスキュイ・サントメ。初めは溶かしたチョコレートを加えてビスキュイを作ったんですが、このケーキに使うにはちょっと重いなと思って。そこで、刻んだものを入れてみました」


粒状のサントメ66%を残して焼き上げたビスキュイ・サントメ


その入れ方もちょっとユニーク。冷凍庫で凍らせた「サントメ66%」をフードプロセッサーで細かくしてからビスキュイ生地の中に混ぜて焼き込みます。こうすると摩擦熱で溶ける心配もなく、また、焼成後も綺麗に粒々が残っている状態に。ビスキュイの軽さはそのままに、口中でチョコレートが溶けるように計算されているから流石です。



フルーツや洋酒で爽やかに

“フルーツとしてのカカオ”を表現するためにひと役買っていたのが、フルーツピューレ。例えば“フルーティーなバナナチョコレートケーキ”をイメージした「ラミチエ ド カカオ」では、バナーヌピューレをクリームとジュレ、2つの異なるパーツで表現。


フレッシュな香り、風味を閉じ込めたCAP'FRUIT(キャップ・フリュイ)社のフルーツピューレが登場


「始めは、アングレーズソースにピューレを合わせたクレームバナーヌだけだったんですが、何か物足りない。そこで、ピューレにゼラチンを加えただけのジュレバナーヌを上に重ねて2層にしてみました」
ミルキーなバナナと酸味のある瑞々しいバナナの2層が加わることで、グリュエドカカオを煮出したホワイトチョコレートのムースや「エクアトゥール70%」を使ったムースショコラも清々しい味わいになるから不思議です。


甘く気品のある香りが特徴のホワイトラム、ディロン トレヴューラム ホワイト

トッピングするカソナードの量は多すぎず少なすぎず・・・ひと粒ずつ慎重に乗せていきます

ソーシソン オ ショコラ フリュイには、アルザス産のキルシュ、アルキルを使用


また、後味をすっきりとまとめてくれる洋酒も欠かせない存在。キューバ生まれのカクテル、モヒートをイメージした「ボンボンショコラ【モヒート】」では、ミントとライムの風味をつけたガナッシュにたっぷりのホワイトラムをプラス。ガナッシュをサントメ66%でコーティングした後、カソナードをちょんと乗せて上からフィルムを被せて完成、というこのショコラ。アクセント的にトッピングしたカソナードですが、甘ったるくならないのはホワイトラムのお陰。清涼感とキレのある余韻が印象的な一品です。



おいしくするためのスイーツトリック

“普通のケーキもとびきりおいしく”が信条の小山シェフ。今回のお菓子も、基本的なガナッシュやムース、ビスキュイなどの知識があれば、比較的気軽に取り組めそうなものばかり。ただ、“とびきり”の味にするためには、レシピどおりに作ればいいというわけではありません。
「ビスキュイやジェノワーズを理想どおりの食感にしたいなら、必ず生地の比重を計ること。大切なのは、生地にジャストの空気を含ませられるかどうか。いい比重というのを覚えておいて、それに近づけられれば成功です。こういう風に分析していくと、作り方の注意点が見えてきますよ」
“比重”と言われるとややこしそうですが、方法は至って簡単。泡立て終わった生地を100ccカップにすりきり一杯入れて、その生地の重さを量るだけ。理想の比重よりも重い時には泡立てが足りず、軽いときには泡立てすぎの合図なので、重さによって調整していきます。勘や経験に頼るだけではなく、理論という裏付けがあれば、より明確なおいしさが表現できるのです。


生クリーム+カモミールを火にかけた後、ラップを被せて5分。濾した後は、生クリームをプラスして元の分量に戻すことも大切

ラミチエ ド カカオのクレームバナーヌ。炊き終わったクレーム・アングレーズと冷凍状態のバナーヌピューレをバーミックスに。凍ったまま使用すれば、色鮮やかに仕上がり、分離もしにくいそう




また、ハーブなどの香りの出し方も素材ごとに考えます。
「マカロン用のガナッシュカモミールは、生クリームの中にカモミールを入れて火にかけ、アンフュゼ(香りを移す)します。生クリーム以外には、牛乳や水などに抽出する方法がありますが、それぞれ粒子の大きさが異なるから、香りの出方も変わってくるんですよ。カモミールは香りが強いので、生クリームでも大丈夫」
つまり、水→牛乳→生クリームの順で香りが出やすいということ。生クリームで煮出したカモミールは、ほんのりと優しい香り。ゆっくりと香りが広がるのも、生クリームで煮出しているからなのかもしれません。



「配合や手順だけ書き取ってもダメですよ。この配合で何をしようとしているのか、どんな味になるのか、いつも想像することが大切です。そして、自分ならどうしたいのか、ということも」
考えることの大切さを繰り返し説いていた小山シェフ。エクアドルでの感動がそのまま伝わってくるようなドラマチックなお菓子の数々も、きっと“驚かせたい”“ハッとさせたい”と願う気持ちから生まれたものに違いありません。今回いただいたお菓子の一部は、パティシエ エス コヤマにも登場するそうなので、フルーティーなショコラのお菓子を味わいに、早速出かけてみてはいかがでしょうか?(2008.12)


※講習会前日に行われたインタビューのようすはこちら(会員専用です)http://www.panaderia.co.jp/members2/craftsman/ar_EsKoyama/index.html









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