素材が活きたやさしい味わいのお菓子が人気のオーブン・ミトン。実はお店に並ぶケーキや焼き菓子は、ケーキ教室で習うことができるんです。小嶋ルミシェフ自らがプロの技をわかりやすく伝えてくれるとあって、こちらも根強いファンがいっぱい。更に、この教室ではゲスト講師のスペシャルレッスンも開催されています。今回の講師はフランス・ブルゴーニュ地方ディジョンで腕を振るうパティシエ、ニコラ・コフィンさん。優しい眼差しと静かな笑顔が印象的なコフィンさんの登場に、会場は穏やかなムードに包まれます。

小嶋ルミシェフ(左)と渡辺麻紀さん(右)

まるで記者会見場?皆、身を乗り出して真剣に聞き入ります


「コフィンさんは、オー・グルニエ・ドールの西原シェフにご紹介いただき、私が以前フランスを旅した時に知り合った方。’89にディジョンの旧市街にパティスリーとサロン・ド・テをオープンしてディジョン市一の看板店になりました。その後Yssingeau校(フランス国立高等製菓学校)の講師を務めたりアドバイザーをしたりと幅広く活躍。現在はオーダーのみのアトリエを構えて活動しています」

小嶋シェフからの紹介の後、早速講習会がスタート。デモンストレーションの通訳を務めてくれるのは料理研究家の渡辺麻紀さん。明るいトークで、スムーズに会が進行していきます。まずは、気になる“ディジョネーズ風”メニューについて。

「今日は3品ご紹介しましょう。ひとつめは「サンフォニー」。キャラメルと洋梨のムースで、以前やっていたパティスリーでも評判のよかったもの。ふたつめは「マカロン」。バニラ・パンデピス・ショコラ、3種のクリームを挟みます。最後に、ディジョンのスペシャリテの「パン・デピス」。これは昔ながらのどっしり系ではなく、新しいソフトタイプのものを」

渡されたレシピを見てみると、どのお菓子の材料もいたってシンプル。例えばサンフォニーのキャラメルムースの材料は砂糖、生クリーム、ゼラチン、水のみ。土台のビスキュイだって卵白、砂糖、アーモンドパウダーという手軽さです。作り方も複雑ではないので、家庭でもトライできそう。

ムースのベースとなるキャラメルクリームと泡立てた生クリーム。キャラメルの温度をきちんと確認してから合わせます


「キャラメルを炊いたら、そこに生クリームの一部とゼラチンを入れて濾します。これを20℃くらいになるまで冷やして、さらに泡立てた生クリームを加えます。最後は必ずゴムベラで混ぜること。余分な空気が入ってしまうと泡の粒が不揃いになってしまいますから」

シンプルだからこそ丁寧に。混ぜ方ひとつで食感は変わってしまうので気を配ります。こうして出来上がったムースはとてもなめらかで口溶けのよいものに。また、優しい乳風味の中にキャラメルの苦みがしっかりと伝わり、アーモンド風味のビスキュイとも好相性です。

マカロン生地は砂糖、アーモンドパウダー、新鮮な卵白を合わせてペースト状にしたものに、イタリアンメレンゲをプラス

泡を切るようにしっかりとマカロナージュ


アーモンドといえば、今回の講習会で最も印象的だった素材。ビスキュイから漂うアーモンドの香りも濃厚でしたが、マカロン生地もしっかりとアーモンドを感じるもの。更に生地だけでなく、クリームにもたっぷり使われています。

「始めにアーモンドパウダー、水、砂糖を118℃まで温めたものを練り合わせた「アーモンドのパテ」を作っておきます。このパテとバター、そしてバニラなどのフレーバーをロボクープにかければ出来上がり」

日本ではあまり馴染みのないクリームに、皆、興味津々のようす。口にするとアーモンドの風味がストレートに伝わってきて、まるでローマジパンを食べているようなインパクトが。実はこのクリーム、マカロンの本場フランスではよくあるタイプなのだそう。さすがはアーモンド好きのフランスらしい味わいです。ところで、マカロンというと色とりどりのカラフルなイメージがありますが・・・。

絞った後は暫く放置して表面を乾燥させます。綺麗なピエを作るためのポイント(右は30分たったもの)

マカロンは焼きが命!小まめにオーブンチェックするのを忘れずに。自分のオーブンの癖を知ることも重要


「マカロンのおいしさは色ではなく、クリームのバリエーションで作っていくのが私のやり方。だから生地はナチュラルなまま。中のクリームで楽しんでほしいですね」

先に作ったアーモンドパテとバターを合わせたものに、パンデピス用のスパイスをプラスすればパンデピスクリームに。そしてもうひとつ、ちょっと変わった作り方のガナッシュクリームも披露していただきました。

「カカオ分60%のチョコレートを湯煎にかけて60℃まで温め、そこに冷やした生クリームを一気に加えて合わせます。空気が入らないようにゴムベラでしっかりと混ぜてください」

ポイントは冷やした生クリームを入れるところ。ガナッシュ作りというと、温めたチョコレートに熱した生クリームを加えて混ぜ、濃度がつくまでしばらく放置するというのが一般的ですが、これは温かいものに冷たいものを混ぜることで瞬時にガナッシュ状にしてしまうというテクニック。出来上がったガナッシュは乳化も万全で艶々!そしてすぐに絞ることができるのも利点。さりげない、でもプロならではのテクニックにため息がこぼれます。 

完成したアーモンドパテ。まるで粘土のような硬さ。これにバターを加えて混ぜればマカロン用のクリームに

温めてチョコレートに冷たい生クリームを混ぜれば、あっという間にガナッシュの完成!



続けてディジョン名物、パン・デピスのデモンストレーション。

パンデピスはたっぷりのハチミツと数種類のスパイスが入っているのが特徴。今回はグリーンアニス、シナモン、キャトルエピス(シナモン、クローブ、ナツメグ、黒胡椒を合わせたもの)を入れて作ります。皆さんも好みのスパイスを入れてみてください」  


パンデピスの生地は緩いリキッド状。B.Pと多めの重曹でふんわり軽やかに焼き上げます


スパイスは種類も量もお好みで。今回はグリーンアニス1、シナモン1、キャトルエピス2の割合で入れていました。このうちグリーンアニスについては日本では入手しにくいため、コフィンさんが持参。どうやらフランスではお馴染みのスパイスのよう。爽快感のある香りが印象的でした。小麦粉と全粒粉(本来はライ麦粉)を合わせたものに、熱した水、砂糖、ハチミツ、スパイスを少しずつ加えてミキサーで攪拌、最後に溶かしバターを混ぜれば生地のできあがり。シリコン製のマフィン型に流してオーブンに入れます。ほどなくすると甘くてスパイシーな香りが教室中に立ち込め、なんともエキゾチックな気分に。ハチミツのねっとりコクのある甘みにスパイスが絡み合い、濃厚ながら清涼感を感じさせてくれる一品となりました。このパン・デピス、ブルゴーニュ地方では朝・昼・晩問わずに楽しむものなのだそう。コーヒー、紅茶、ワインなど、どんな飲み物とも相性良く、またレストランの前菜として供されることもあるというほど愛されている郷土菓子なのです。


いよいよお待ちかねの試食タイム!



全てのデモンストレーションを終えた後は、皆でテーブルを囲んで試食タイムに。どのお菓子も地方菓子らしい素朴なおいしさが魅力的でした。ただ素朴といっても、古臭いとか重苦しいとかいったことはなく、イメージしていたものよりもずっと上品で軽やか。本物の郷土菓子とは、こんな風に伝統をふまえつつも時代に合わせてアレンジすることで長く語り継がれていくものなのかもしれません。コフィンさん、ディジョンからはるばるありがとうございました!


オーブン・ミトンでは、月1回のペースでゲスト講師によるスペシャルレッスンを開催しています。次回のレッスンは10月30日にスペイン料理研究家の丸山久美先生、続けて11月19日にオークウッドの横田秀夫シェフを予定しています。興味のある方は早速ウェブサイトを覗いてみてはいかがですか?





オーブン・ミトン

URL:http://www.ovenmitten.com/
пF042-385-7410