私どもの団体で扱っているのはさとうきびが原料のものに限られますが、ビートが原料の精製糖の団体というのもあります。製菓用の砂糖というと、このさとうきびとビートが2大原料で90%以上のシェアになります。さとうきびは年間140〜150万トンを海外から輸入していて、タイとオーストラリアが日本の2大輸入国です。世界的にはブラジルやインドが生産量が多いのですが、ブラジルは品質が悪いのと、インドは輸出制限がされているので日本はあまり輸入していません。国内では沖縄や鹿児島の離島で年間15〜20万トン生産されていますが、人手が少なくなり年々減少傾向にあります。一方ビートは寒い所が産地なので、日本では北海道で生産されています。北海道では地元でとれたビートを消費するので、上白糖もグラニュー糖もビートのものがほとんどなんです。

精製の仕方はさとうきびもビートも基本的には同じですが、ビートは収穫されると実を刻んで加工される*2のに対し、さとうきびは生産地と加工地が離れているので、いったん原料糖という半製品の形にしてから輸入されてきます。さとうきびのままだと輸入するのにかさばるのと、収穫した直後から糖度が落ちていってしまうためです。

精製糖の作り方を簡単に説明すると、原料糖の表面を飽和砂糖液で洗って溶かし、石灰や炭酸ガスで汚れを沈殿させて余分な色やにおいを取ります。それを真空結晶管に入れて気圧をかけ、結晶糖を作ります(粉糖のようなものを入れて結晶の核にし、そのまわりに結晶ができる)。この段階ではまだ液体の中に砂糖の結晶が混ざっている状態なので、これを遠心分離機で脱水して出来上がりです。このとき脱水した液体にはまだ糖分が残っているので、再度これを真空結晶管に入れて煮詰める作業を繰り返します。このとき一番最初に取り出したものから順番に一番糖、二番糖と呼びます。

三温糖は上白糖やグラニュー糖よりも身体にいいと思っている方もいらっしゃいますが、三温糖が茶色いのは上白糖やグラニュー糖を取ったあとの糖液で作られるため、加熱によって茶色く色づいているだけなんです。黒砂糖やきび砂糖が茶色いのとは全く違う理由によります。ちなみにビートはあまり煮詰めると独特のにおいが出てくるので、三温糖は作りません。

また、どうして上白糖と三温糖は湿っているのかという質問をよくされますが、これはグラニュー糖に糖液をふりかけてあるだけで、結晶の大きさ自体はグラニュー糖とほとんど変わりません。ではどうして日本にだけこういう砂糖があるのかというと、はっきりとした理由はわからないのですが、もともとは湿度の多い日本で固まるのを防ぐために作られたという話しです。でも水分が飛んでしまうと逆に固まってしまうんですけれども。お菓子屋さんが上白糖の方が焼き菓子がしっとり仕上がるというのは、おそらくふりかけられた糖液のためだと思います。

黒砂糖は精製していない砂糖ですが、不純物も取り出さずそのまま煮詰めているので、身体にいいと言い切れるのかどうかわかりません。カルシウムが豊富といいますが、未精製とはいえ煮詰めるときに石灰は加えなければできないので、この石灰のことをカルシウムといっているだけではないでしょうか。

あまり知られていないことですが、原料糖の関税が撤廃されたのはつい最近のことなんです。2000年4月までは北海道・沖縄・鹿児島等の生産地を保護するため、原料糖・白糖には関税がかけられていました。ただ、現在でも海外から原料糖を買うときには国と精糖工業会が課徴金を支払うことになっています。これが国内の生産地の保護へとまわされるのです。ただし、加糖調整品といって砂糖の含有量が86%以下の加工品(チョコレート、餡、ココア、コーヒー、ミルクなど)であれば砂糖そのものよりも安く輸入できるので、白糖を輸入するかわりにそういった加工品を輸入する会社が増えているのも事実です。加工品の輸入が増えるということは、食材もろとも安い外国産のものが輸入されてしまうので、ますます国内の農産物は需要がなくなっていくという悪循環になっているのが実情です。


精糖工業会 内田 豊さん

原料糖


普段なにげなく使っているお砂糖ですが、知らないことがたくさんありました。内田さんのお話を、あんぱんに使う餡で考えてみると、国産の小豆と原料糖で輸入した砂糖を使うよりも、砂糖がすでに混入されている外国産の餡を輸入した方が断然安上がりになるということです。世の中の自由化が進むのは一見いいことのようですが、難しい問題もたくさんはらんでいるんですね。

* 1精糖工業会・・・日本の砂糖メーカーの業界団体(さとうきびを原料として作られる精製糖のメーカーの団体。和三盆や黒砂糖といった類のものは含まれない)
* 2ビートは刻んで温水に入れ糖分を取り出してから、その液体を精製していく。