ある日のこと。

「はじめまして。私○○と申しますが、実はパナデリアさんにおりいってお願いがありまして・・・」

事務局にこんな電話が舞い込みました。
事情を伺ってみると、先のジャパンケーキショーで来日された韓国のtoujoursという店のオーナーが、日本のパン屋とケーキ屋を見学したいとのこと。突然の話に驚きましたが、これも何かの縁と引き受けることに。

でも、ひとつ問題が・・・。国内のパン屋&ケーキ屋事情なら負けないと自負しているパナデリアも、韓国事情に至ってはほとんど未知の世界。toujoursってどんな店?何が目的なの?韓国語はどうする!?!ハングルは読めるの?

そんな不安が広がる中、toujoursで働くスタッフのイムさんは日本語が話せると知ってほっと胸をなでおろしました。イムさんは数年前に来日し、ケーキ屋での修業経験もあるそう。彼の話によると、toujoursはソウル市内と郊外に2店舗を構えるパン&ケーキ屋さん。今後の店舗展開を考えるため、日本で活躍している経営者に意見を伺いたいというのが今回の訪日の主旨なのだそうです。それを踏まえて、早速お店のリストアップや取材依頼が始まりました。韓国の方をお連れするという慣れない依頼に緊張気味のパナデリアでしたが、どの店も快く引き受けてくれ、ほっと一安心。綿密に事前の打ち合わせを行い準備万端。専用のワゴン車もチャーターしました。

そんなこんなでパナデリア初体験、3日間のアテンドツアーがスタートしました!
 

ミルポンド、シェ・シーマ本八幡アトリエ
キャトル成瀬台店、パリセヴェイユ、キャトル柿の木坂店、モンサンクレール、オリジンーヌカカオ、ショコラ・ド・アッシュ、ブルディガラ、アンデルセン、シュマン
金麦、エスプラン、リリエンベルグ、パンステージ・プロローグ、櫛澤電機製作所



(11月9日)
AM9:30パナデリアスタッフ2名がワゴン車に乗り込み事務局を出発。パン&ケーキ屋をご案内する今回のツアー、まずtoujours一行を空港でお出迎えすることから始まります。
AM11:00成田空港着。到着ロビーでtoujours一行の到着を待ちます。初対面なので「toujours様歓迎! Panaderia」と書いたプラカードも用意しました。まるでツアコン状態(笑)。いったいどんな方が登場するのか緊張と不安が高まります。
PM1:00 ついに御一行がやって来ました!

メンバーは社長のヨンさん、シェフのリーさん、従業員のイムさんの3名。第一印象はまじめで誠実そうな方々。その場で簡単な自己紹介をして、早速パン&ケーキ屋めぐりがスタート。
PM3:00 最初に向かった先は流山市の『ミルポンド』

焼きたて石窯パンが評判の郊外大型ベーカリーです。広々としたスペースに並ぶ種類豊富なパンを見て、一行は驚きの表情。豊富な商品のラインナップや石窯などに興味を示している様子。

飯島社長との対談では、どのように他店との差別化を図っているか、そして店舗を拡大していく上でのポイントなどの話題が上がりました。最後に、80cmもあるロングソーセージパンを購入して、早速いただくことに。「マシソヨ(おいしい)!」クラストがカリッと香ばしく、クラムはふんわりが魅力の石窯パンは大好評。
PM17:00 2軒目は市川市にある『シェ・シーマ本八幡アトリエ』

実はお店やデパ地下に並ぶケーキは全てこちらのアトリエで作られているんです。シェフパティシエとして、多くのスタッフを統率するのは本間さん。誠実なシェフのお人柄と、彼のもとでテキパキと働く若いパティシエの姿が印象的でした。

もちろん、ケーキのチェックも忘れません。できたてケーキのおいしさに一同大感激。これこそアトリエならではの醍醐味ですよね。中でもシェフのスペシャリテのモンブランは大好評でした。

PM19:00 宿泊先である目黒のホテルまでお送りして、本日の任務は無事に終了しました。
toujours一行が成田空港に到着した途端、一息つく間もなく始まった今回のツアー。皆さんちょっぴりお疲れのご様子。でも、パナデリアの底力はこんなものではありません。2日目、3日目と日を追うごとに、更なる強行軍が待ち構えているのです。明日に備えてたっぷりお休みください!


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(11月10日)
AM9:00 目黒にある滞在先のホテルでtoujours一行をピックアップ。前日の3名に加えて、toujours側から新しいメンバーが駆けつけました。彼の名はパクさん。現在、『パティスリーキャロリーヌ』で修業中のパティシエです。パクさんのように、日本のパティスリーで修業する韓国人は年々増加しているのだそう。
toujours一行とパナデリアスタッフ、の計6名がワゴン車に乗りこみツアー2日目の始まりです!
AM10:30 まずは町田市の『キャトル成瀬台店』へ。
シェフパティシエの清水さんにご挨拶を済ませると、待ってましたとばかりにケーキが登場。定番の「うふプリン」に始まり、「とりころーる(米粉)」やモンブランなどがずらり勢ぞろい。嬉しい悲鳴をあげながらの試食タイムとなりました。

Toujoursの方々はとても誠実。出されたケーキは全部食べないと失礼だとばかりに、ひとり3個ずつぐらいは食べていました。「うふプリン」のカラメルが黒糖でできていたり、米粉でできたスポンジなど、新しい素材の使い方に興味津々の様子でした。
PM12:00 次に向かったのは自由が丘の『パリセヴェイユ』

ここで、ある事実が発覚しました。実は金子シェフとtoujoursのイムさんは顔見知りだったんです。なんて世界は狭いんでしょう!パリ留学中に知り合いになったというお二人、久々に再会できて本当に嬉しそう。ここではフランスそのままの店の雰囲気や商品構成などが参考になったのではないでしょうか。
PM1:00 目黒区の『キャトル柿の木坂店』ではオーナーの東さんを囲んで対談が始まりました。


1981 年に原宿店オープン以来、成瀬台店、柿の木坂店、さらにデパ地下にと出店を果たし、順調に規模を拡大していった東さん。優秀な人材を育てていきたいとパティシエに愛情を注ぎつつも、オーナーとして経営効率も考える、そのバランス感覚の良さに脱帽です。社長のヨンさんも、「すばらしい人に出会えて良かった」と大絶賛。
PM3:00 そしてやってきたのは、自由が丘の『モンサンクレール』

事務所で待つこと15分、金髪にレザーパンツという素敵な出で立ちで辻口さんが登場しました。日本ではカリスマシェフとしてすっかりおなじみの辻口さんですが、お隣り韓国にまでその人気は広がっているとのこと。記念撮影やサインをせがまれ、すっかり芸能人状態でした。 「韓国でも有名なの?」なんて軽いトークで、これまでとはちょっと違った雰囲気の対談に。辻口さんのアグレッシブな取り組みには驚いた様子でした。
PM4:00 自由が丘でパリセヴェイユ、モンサンクレールときたら、もうひとつ忘れてはならない店があります。そう、『オリジンーヌカカオ』ですね。

アポイントをとっていなかったにもかかわらず、笑顔で迎えてくれた川口シェフに感謝。なんと厨房の中まで案内してくださいました。できたてのおいしそうなショコラに思わず目が釘付け。すると、そのようすを察知したのか、川口シェフがショコラを手にして「食べてみます?」そのおいしさといったら・・・お伝えできないのが本当に残念です!シェフのリーさんは「バヒア」という黒胡椒の効いたボンボンを口にして驚いた様子。「これは初めて食べるもの。韓国にはまだないが、おいしい!」
PM5:00 最後の目的地は六本木ヒルズ。『ショコラ・ド・アッシュ』や『ブルディガラ』、『アンデルセン』などを回りました。

なかでもアンデルセンのオープンキッチンには興味津々。韓国ではオープンキッチンスタイルはまだ定着していないようです。ショコラ・ド・アッシュのようにあまりに洗練されたショップには、逆にそれほど興味を惹かれないようでした。
PM7:00 本日の締めくくりのディナータイムがやってきました!パナデリアがセレクトしたのは赤坂にあるフレンチレストランの『シュマン』

実はランチをとる間も惜しんで駆け足でまわっていたため、お腹はぺこぺこです。他の事務局スタッフも加わり、賑やかな会食となりました。

おいしい料理とワインのお陰ですっかり盛り上がり、気づいた時にはPM11:00。 韓国や日本の洋菓子事情などの意見交換をして相互に理解を深めたディナーとなりました。


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(11月11日)
AM7:00今日のスケジュールは横浜方面のお店。移動が長距離となるため、昨日の疲れもまだ癒えない体に鞭打っての早朝の集合となりました。今日は昨日までのスタッフに替わり、スタッフYが同行。なんと運転まで任され、ちょっと緊張気味・・。みんなを気づかってイムさんが配ってくれた栄養ドリンクに励まされ、いざ出発!
AM7:15 せっかくの機会だからと、急遽、予定にはなかった『金麦』に立ち寄ることに決定。

残念ながらシャッターが閉まっていました

開店時間前だから、外から見るだけでも仕方がないと思っていたのですが、伊藤さんは快く迎えてくださいました。厨房内では、ちょうど開店に向けて作業の真最中。スタッフの女性がてきぱきとパンの成型をしているところでした。中の様子を見てリーさんは「どうして2人であんなにたくさんのパンを作れるのですか?」と驚いた様子。韓国ではToujoursのようにパンもケーキも一緒に販売するお店が多く、こういった小規模のおいしいパン屋さんは少ないのだそうです。
伊藤さんのご好意に甘えて、焼きたてのクロワッサンや、パナデリアでも大好評だった豆乳食パンに使う濃厚な豆乳までごちそうになり、大満足でお店をあとにしました。
AM8:30 次に向かったのは鶴見にある『エスプラン』。商店街にありながら占有面積が広く、特に惣菜パンが充実しているのが特徴です。

お店の外観も熱心にチェック

塩田シェフにお話を伺ったあと(詳しくはこちら!)、エスプランの人気アイテムあんパンをチェック。韓国の人はあんパンなんて知らないはず、と思っていたら、なんと向こうでもあんパンは定番の人気アイテムなのだそう。お隣だけあって、やはり食の好みに通ずる部分があるのかもしれません。(唐辛子は別ですが!)ここで、餡の代わりにコーヒークリームと生クリームを詰めた人気のコーヒーあんパンに話題が集中。なぜかというと、焼くと溶けてしまうはずのクリームが入っているのに、それを注入した穴が見当たらないからです。ああでもない、こうでもない、と想像をめぐらし「どうしてもシェフに聞きたい!」と納得がいかない様子。実はこれ、上にトッピングされているチョコレートの下に穴があるという、わかってみれば至極単純な構造。無事なぞが解け、一件落着です。

中の様子が気になる様子のイーさん
AM10:00 スタッフYの頼りない運転の末、やっとたどり着いた『リリエンベルグ』
実は、リリエンベルグの存在は韓国でも有名で、Toujours一行もここへ来るのは初めてではないのだそう。今回はその有名な横溝シェフに直接話を聞けるとのことで、通訳担当のイムさんは少し緊張気味の様子でした。

憧れのシェフを前に思わず熱が入ります

そして横溝シェフが登場。忙しい合間を縫って、お菓子を作る仕事への情熱とポリシーについて丁寧に話してくださいました。(詳しくはこちら!)「ああ、やっぱり人間こうあるべきだ」と感銘を受け、すっかり心を清められた私たち。横溝さんのエッセンスの詰まったたくさんのお菓子たちを手に、お店をあとにしました。
AM12:00 3日間で実は初というランチタイム。定番ですがやっぱり・・ということでお寿司に決定!お寿司はもちろん、天ぷらも韓国にあるのだそうで、ここでも日本と韓国の距離の短さを再認識。考えてみれば、焼肉やキムチだって日本に定着していますよね。
それでもやっぱり本場の良さがあるのか、ネタの写真を指差しながら次々と楽しそうに注文をしていました。
PM2:00 経営の話しを聞くといったら、外せないのが圧倒的な売上げを誇る『パンステージ・プロローグ』。オープンして5年目を迎える今もその勢いが衰えることはありません。

パンをじっと見つめる社長のヨンさん。
何か新しいヒントを見つけたのかも!?

2年目の売上げが初年度の3倍以上だったというプロローグ、そのことを物語るように厨房は少しずつ増設が繰り返された跡が見えます。今回山本さんにお話を伺ったのも、新しい窯を入れるために増設したばかりという部屋。(ちょうど私たちが帰るときに窯が到着した様子でした!)無我夢中でがんばってきた今までのこと、そしてこれからの新たな目標など、パン職人だけに留まらない熱い思いを色々と伺うことができました。(詳しいお話は近々公開予定です)



プロローグではスタッフ全員が「いらっしゃいませ!」、「ありがとうございました!」と挨拶をするのですが、リーさんは「作っている人は、それに気をとられて作業を間違ってしまうのでは?」と心配になった様子。Toujourの製造スタッフは、全神経を集中し一生懸命作っているのでしょうね!
PM3:30 最後を締めくくるのは石窯を始めとした製パン用機材を扱う櫛澤電機製作所。社長の澤畠光弘さんは、「焼きたてパン屋さん本日開店!」「次の焼きあがりは2時45分になります!」といった繁盛店のためのノウハウを書いた本の出版でも知られる方。同じ食パンでも何回かに分けて焼き、焼き立てを出すようにする、というようなパン屋さん経営に関する知識を色々と話してくれました。

Toujourに石窯が登場する日も近い??

特に経営サイドの話しとあって、今までは穏やかに聞いていたヨン社長も積極的に話に参加。窯や製パン用の機械などにもとても関心をもったようでした。
PM3:30 お疲れさまでした。それでは解散!のはずでしたが、ヨン社長から、今までのお礼にぜひ韓国料理をごちそうしたいとの嬉しいお言葉をいただき、一行は新宿へ。昨日一緒だったパクさん、そしてリーさんの親戚で日本で修業中の若いリーさん、そして他のパナデリアスタッフも合流。ご存知の方も多いと思いますが、歌舞伎町の先には飲食を初めとした韓国のお店がずらりと軒を連ねる通りがあります。その一角にある某韓国料理屋さんが最後の最後を締めくくる場所となりました。

面白かったのは、韓国と日本ではオーダーの仕方が少し違うこと。大勢が集まっての食事では、少し頼んで「とりあえずこれで」というスタイルが多い日本ですが、韓国ではテーブルに隙間があっては失礼とばかりに最初からじゃんじゃん注文するのです。
←スタッフの一番人気は「チャプチェ」
韓国では各家庭によって少しずつ、
具や作り方が違うのだそう
お肉を焼くのも、取り分けてくれも男性陣!
やさしくてマメなその姿に、韓硫ブームの
秘密がわかったような気がしました→

そんな訳で、焼肉、チャプチェ、キムチ、チヂミ・・と数々の料理が並びました。 3日間を過ごし、やっと打ち解けてきた私たち。「来年は絶対韓国へ行きます!」そう約束して、楽しくも名残惜しさの残る会は幕を閉じたのでした。


TOUJOURの皆さん、どうもありがとうございました!


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韓国ではまだ製菓や製パンの学校が少なく、Toujoursのスタッフのように日本へ留学する人も多いと言います。そのため、ここ数年で韓国のケーキ屋さんの技術は格段に進歩しているのだとか。もしかして、逆に韓国への出店を狙っている日本人パティシエも多いかもしれませんね!

今年もぜったい韓流の年!昨年に続く韓流ブームの波に乗って、パンやケーキの分野でももっと交流を深められればいいですね!