ホワイトデーが終わった3月16日、若手パティシエを対象にした飴細工のコンクールが行われました。主宰するのは、全国のホテルや洋菓子店のシェフで組織される「内海会」。日本のホテルベーカー界の基礎を築いたといわれる内海安雄氏の意思を継承するために発足した職人たちの集団で、業界の向上発展の為にコンクールや講習会などを主催しています。
ジュニアコンクールの参加条件は、23歳以下であること。”la saison(四季)”をテーマに、高さ50cm程の通常より小さいサイズの飴細工の作品を持ち込む形で行われました。58名の参加者のなかには名古屋など遠方からの参加者もいて、作品を抱えて新幹線に乗ってきたとのこと。飴細工はとても繊細で移動の際に壊れてしまうことも多いため、作品を審査会場に納めるまでは一瞬たりとも気を抜けないはず。大変な裏舞台がうかがえます。
(以下、敬称略)



会場である高輪プリンスホテルの宴会場に到着すると、会場中央には華やかな作品がずらり。パナデリアがいつもお世話になっているシェフや、内海会の協賛会社である原材料メーカー等の企業の方も多く、このコンクールが多くの人に支えられて成り立っているということが良くわかります。会が始まり、来賓の方々からの挨拶のあと、いよいよ結果発表に。前に並んだ参加者は皆緊張の面持ちで、その緊張感が会場に張り詰めます。銅賞10名、銀賞5名、金賞2名、そして最優秀賞1名の名前が順に呼ばれ、受賞者は壇上へ。賞状、メダルと、協賛会社からの賞品が授与されました。



最優秀賞:竹嶋映子(リーガロイヤルホテル東京)

金賞:西川宏三(帝国ホテル)金賞:服部真季(名古屋マリオットアソシアホテル)


最優秀賞を受賞した竹嶋さんは専門学校卒業後に同社へ入社し、現在3年目の22歳。コンクール出場2回目にして、今回の栄誉を手にしました。今回この作品を作ったきっかけと、製作にまつわるお話を伺いました。

「季節感のあるフルーツでテーマの”la saison”を表現し、果物を使ったブーケのようなデザインにしました。デザインを決めるまでに時間がかかってしまったので、練習期間は約1ヶ月。通常は夜9時ぐらいまで仕事があるので、それから終電までの時間を練習に当てました」

飴細工は力が要ると聞きますが、その点での苦労はなかったのでしょうか?

「飴には色々な種類があり、自分が作りやすいものを選んだのでその点は問題ありませんでした。職場のパティシエは女性ばかりなので、いつも力仕事もこなしています」

写真撮影をお願いすると、

「徹夜明けなので、恥ずかしい」

と照れる姿は22歳の普通の女の子。将来の目標を聞くと、

「とりあえずフランスに行って、お菓子めぐりをしたい」

とのこと。最優秀賞の副賞は、フランス行きの航空券。今回の栄誉と共に、彼女の夢がひとつ叶うことになりそうです。



今回運営に携わった内海会のメンバー。帝国ホテル・望月シェフ、グランドハイアット・後藤シェフ、成城アルプス・太田シェフなど


大先輩のシェフに作品の評価を求める熱心な参加者。


また、内海会の会長を務める「菓子工房オークウッド」の横田秀夫シェフに、コンクールの総評を伺いました。

「今回もレベルの高い作品が揃い、審査は困難を極めました。その中で、最優秀賞の竹嶋さんは、デザイン、技術ともに秀でていたと思います。女性が多く入賞しましたが、女性の方が感性に柔軟性があると思うんですよ。男性は真正面から学んでしまうことが多いのですが、女性は他分野で得たものを自分の中で消化し、それをお菓子の世界で表現することが上手。シニアコンクールになると体力面など様々な理由で男性が強くなってくるのですが、これからは女性も増えてくるでしょうね。コンクールに出場するのは、心身ともに負担のかかること。しかしそれを乗り越えて挑戦する若手が増えることは、良いことですよ」



人気の職業として注目を集めるパティシエ。しかしケーキの美しさとは裏腹にとても厳しい世界で、途中で挫折する人も多いと聞きます。しかし今回のコンクールを見て、若手パティシエの”強い意欲”と”高い実力”を実感しました。世界レベルのコンクールでも上位入賞の常連となっている日本。現在トップとして活躍しているパティシエの下には、厚い若手層が控えているようです。




銀賞以下の受賞者

◇銀賞
安田げんき(浦安ブライトンホテル)、宮本舞子(アルパジョン)、本田大輔(東京プリンスホテル)、安田綾子(帝国ホテル)、青木裕介(浦和ロイヤルパインズホテル)、金井祐治(菓子工房オークウッド)、浅井和(名古屋マリオットアソシアホテル)

◇銅賞
坂根由希子(名古屋東急ホテル)、櫻井真弓(明治記念館)、丸山恵美子(明治記念館)、斉藤慶(品川プリンスホテル)、原口琢磨(品川プリンスホテル)、横田航(東京全日空ホテル)、田部恵子(高輪プリンスホテル)、佐藤祐子(東京製菓学校)、荒川務(名古屋マリオットアソシアホテル)、中山和大(六本木ヒルズクラブ)