第2回
ヴィエノワズリを作る
(2008年6月)




第2回目は、ヴィエノワズリの作り方。クロワッサン、パンドーロなどバターや卵をたっぷりといれたリッチな生地を学びます。6月に入り、梅雨シーズン真っ盛り。室内が高温になると、作業中にバターが溶け出してしまうので、ヴィエノワズリを作るには、実は悪条件だったり・・・。

「まぁ、最悪の条件で作れるようになれば、どんな時でも失敗しませんからね〜」

な、なるほど。さすが、栄徳シェフらしい前向きなご意見です(笑)
今回は、菓子パン生地、パンドーロ生地、そして最もハードルの高いクロワッサン生地。こちらの3種類の生地に挑戦します。さてさて、どんなパンができるのでしょうか?それでは、菓子パン生地の仕込みからスタート!




まずは粉類と水をミキサーにかけ、水和させてから、油脂と合わせます。小麦粉は、ゴールデンマンモス(強力粉)とオルガン(薄力粉)をブレンド。ゴールデンマンモスは、浮きの良さが特徴。伸びる力が強く、菓子パン生地のような、糖分が多い生地に向いています。油脂は、不二製油のコンパウンドバター「フィエールノルマンディー」を使用。フランス・ノルマンディー産のバターが65%配合され、乳風味の強さが特徴的。バターを多く生地に入れる場合は、事前にしっかりミキシングすることがコツ。バターを入れてから強くミキシングをかけると、風味が飛んでしまうそうです。




バターを入れると、初めはツルツルと滑ってしまっていた生地も、徐々に速度を上げながら丁寧にミキシングをかけていくと、次第にしっかりと生地になじみ、伸展性の良いつややかな生地が出来上がります。指でひっぱってみて、薄い膜が出来ればこね上げ終了のサイン。温度をしっかりとチェックして、一次発酵へ。




菓子パン生地では、ラ・テールでも人気の薄皮あんぱんを作ります。栄徳シェフが用意してくれた餡は、「宇治抹茶黒豆餡」「木苺餡」「こし餡」の3種。どれも、ラ・テール洋菓子店の中村シェフのレシピだそう。コロコロと大量の餡を丸めていると、なんだか和菓子屋さんになった気分。3色並ぶととてもきれいです。




「実は、ぼくは包あんが苦手なんですよ〜。なんせ、はじめて包あんを習ったのがフランス人からなので(笑)」  

・・・といいつつも、その手さばきは、一個を作るのにわずか数秒というすばやさ。入っているあんの半分以下という少ない生地量で、均等な厚さでキレイに包むのは至難の業です。シェフに教わりながらコツを掴んで、なんとか成形。中のあんが透け透けになってもご愛嬌。個性色々のあんぱんをホイロに入れ、次の作業に移ります。


ミキシング直後 
一次発酵後、24時間冷凍したもの


続いては、パンドーロ生地。使用している粉はゴールデンマンモスとスーパーカメリア。ゴールデンマンモスは浮きが良いという利点はありますが、灰分が高い為にパンドーロ生地の黄色がキレイに発色しません。灰分調整の為には、スーパーカメリアをブレンドします。

「パンドーロ生地は、イタリアから取り寄せた本場のパネトーネのイメージを再現しています。パネトーネ種を使い、蜂蜜や卵黄、発酵バターをふんだんに入れたリッチな配合にしています。パネトーネ種は乳酸菌が多く含まれているので、保湿性が高く、日持ちの良さも特長。全卵にすると、卵白のせいで乾燥しやすいので、卵黄だけを使うとさらにしっとりした生地になります」

トータルで20分以上かけて、ゆっくりしっかりミキシングされた生地は、柔らかく粘り気があるもの。指で伸ばすと驚くほど伸びが良く、まるでチーズのようです。こね上げの後で、具材を練りこみ、オレンジピールとフラワーウオーターを入れた“オレンジのブリオッシュ”と、オレンジピール、レモンピール、ラムレーズンを入れた“パネットーネ”の2種の生地を仕込みます。




前日仕込みで、パンチ後24時間冷凍をかけたものを分割し、ベンチタイムを置いてから成形しホイロにいれます。

「バターの配合が多いので、あまり触りすぎると体温で油分が溶け出してしまいます。丸めは、生地の表面を張らせるイメージで。なるべく生地をいじめないように、手早く優しく成形してください」




さて、いよいよ最難関のクロワッサンへ・・・!

「クロワッサンの配合や作り方に正解はありません。要は、どんな食感にしたいか。粉、バター、生地・・・どれを強調したいかで、やり方は全て変わってきます。今回は、生地がおいしいクロワッサンにしたいと思います。丁度ニューヨークで研修を受けてきたばかりなので、アメリカ仕込みのバリバリとした食感に仕上げましょう」

固めの食感に仕上げるには、生地の乳製品を多くすること、そして発酵時間を少し短めに取ることがポイント。逆に、生地のバターを減らし、発酵を長くとれば、フワフワとした食感になります。バターはエリックカイザーも使用している、雪印のファーメントバター(発酵バター)。北海道で、昔ながらのチャーン製法で攪拌したバターは、低水分で乳の風味が強く、クロワッサンにぴったり。また、ルヴァンリキッドを入れることで、バターのしつこさを消します。




前日仕込みした生地を伸ばし、バターを折り込みます。この時、バターと生地の固さを同じにするのがポイント。指で押してみて、固さをチェックします。機械にかけて、少しずつ生地を伸ばし3つ折り。柔らかくなってしまうと、生地にボリュームが出ません。冷えた温度を保ったまま作業しなくてはならないので、合間に冷凍庫で20〜30分冷やしながら、3つ折りを3回繰り返します。

「先生!家にパイローラーが無い場合はどうしたらいいんですか?」
「ええっ・・・そうですね。じゃあ、手伸ばしでやってみましょうか」




わー、パチパチ。みんなが見守る中、手伸ばしに挑戦。固く冷えた生地は手で伸ばすには相当の力が必要です。一気には伸びないので、少しずつ伸ばしては冷やしを繰り返す必要があるため、パイローラーの倍の時間がかかります。毎日鍛えているパン職人でも大変なのだから、女性の力ではなかなか難しそうですね。




3回目の折りが終わったら、さらに冷凍にかけ、生地を落ち着かせてから成形に移ります。生地をカットし、クロワッサンと、パン・オ・ショコラに成形します。パン・オ・ショコラには、ヴァローナのチョコレートを使用。ローストの強いチョコレートはほんのりとした酸味。バターたっぷりのリッチな生地にぴったりです。もちろん、成形の際も温度が上がらないように、あくまで手早く!がポイントです。




クロワッサンをホイロに入れている間を狙って、すばやくランチタイム!時計を見ると、すでに2時近く。人間の腹時計もパン時間に合わせなくちゃ・・・とはいえ、正直おなかペコペコです。アシスタントの、ラ・テールスタッフの川端さんがまかないランチを用意してくれました。豆のミルクスープに、サラダ、ホットサンドを食べながら、シェフと生徒さんのお話も弾みます。

「栄徳シェフは、なんでパン職人になろうと思ったんですか?」
「実家が祖父の代からパン屋だったんですよ。幼い頃から祖父や父の仕事を見て育ちました。昔だから、作っているのは本当に素朴な食パンとかロールパンなのですが、今でも覚えているのが、丸めがものすごくキレイだったこと。毎日大量に作るパンをひとつひとつキレイに作るのがどんなに大変か、自分が職人になってみないとわからなかったことです。それを今でも思い出しながら、丁寧な仕事をしようと心がけているんですよ」

なるほど、栄徳シェフの仕事の丁寧さはそこから来ているんですね・・・!ホイロで眠るパンは、これから仕上げと焼成に入ります。しっかりエネルギーもチャージしたし、最後まで愛情を込めて丁寧な仕事をしよう!!




3種の薄皮あんぱんは、抹茶餡は2つの切れ目を、こし餡は桜を添えて、そして木苺餡はチョンチョンとはさみを入れて、ウサギの耳に。ウサギにする筈が、猫になったり、ピカチュウになったり・・・。木苺餡と抹茶餡は、低温で白焼きにし、こし餡は高温で短時間焼き、つややかな焼きあがりを目指します。さて、どんな風に焼きあがるのでしょう?




ブリオッシュとパネットーネは、表面にマカロン生地をかけます。マカロン・・・といっても、泡立てたメレンゲではなく、卵白とグラニュー糖、アーモンドプードルなどを混ぜた簡単なもの。これを表面に塗ることでサクッとした食感と優しい甘みを加えます。表面には粉糖でお化粧し、パネットーネはさらにあられ糖をかけます。窯に入れ、表面を蒸気でパリッとさせて、焼き色を見ながら200℃で焼きあげます。




クロワッサン、パン・オ・ショコラの塗り卵は、層の部分につけると浮きが悪くなってしまうので、塗り方には注意が必要です。焼成は、低温で水分を飛ばしてから、途中で温度を上げて中までしっかり火を通します。高温で火を入れるので、最後の数秒でかなり焼き色が変わるもの。しっかり見張って、出すタイミングを見計らいましょう。





【今回作ったパン】


普段何気なく口にしていたヴィエノワズリ。目標とする食感、味をどうするかによって様々な作り方があると知り、今まで以上に奥の深さを感じました。基本の生地は、たくさんの油脂や砂糖を使うため、しっかり発酵させるには、イースト量やこね上げに注意が必要。プロの職人でも「菓子パンは意外と難しい」といっていた理由がよくわかりました。基本をしっかり押さえれば、好みの食感をめざして、粉や油脂、乳の量を変えたりとアレンジは無限に広がります。作り方を知ると、これからお店でさまざまヴィエノワズリに出会う楽しみも広がりますね。それでは、今回作った栄徳スタイルのヴィエノワズリ、どんな風に焼きあがったのでしょうか?ご紹介します。


〜菓子パン生地から〜
「宇治抹茶と黒豆の薄皮あんぱん」「木苺の薄皮あんぱん」
「桜の薄皮あんぱん」

たっぷりのあんこが詰まった薄皮は、ミルキーな口どけが特徴。白焼きしたものはしっとりとした食感と乳の優しい風味。焼き色をつけたものは、サク味があり香ばしい仕上がりに。餡の上品な味わいが際立つ、ほんのりとした生地の甘みは有機砂糖と沖縄の塩“シママース”によるもの。




〜パンドーロ生地から〜
「オランジェとマカロンのブリオッシュ」「パネットーネ」
表面のサクサクのマカロンがアクセント。ブリオッシュは、大ぶりのオレンジピールがほろ苦く、甘いパンドーロ生地とよく合います。パネトーネ種の乳酸菌効果で日が経ってもしっとりふわふわをキープ。バターのまろやかな発酵臭と、フルーツの爽やかな香りが、卵の優しい香りと溶け合います。




〜クロワッサン生地から〜
「クロワッサン」「パン・オ・ショコラ」
横から見ると、一層一層がしっかり厚みが。目標の“外はバリバリ、中はしっとり”の食感に仕上がりました。折り込みだけでなく、生地にもたっぷりと発酵バターを使っているので、かなり乳風味とコクが強いもの。しつこくなりがちなところを、ゲランド塩とルヴァンリキッドがすっきりとキレのいい後味にしています。