第4回
バラエティパン
(2008年9月)

いよいよ最終回の4回目を迎えた石窯パン教室。台風接近のニュースに心配をしていたものの、当日は気持ちのいい秋晴れ。受講生の皆さんの情熱に押され、台風もどこかへ行ってしまった模様です。
さてさて、「ラ・テール」の栄徳シェフが講師を務める土曜日コース。今回はラ・テールでも人気のピッツァと、フォッカッチャ。そして、栄徳シェフお勧めのパン・ド・ミ・ノワールを教えていただきます。ノワール・・・ということは“黒”のパン・ド・ミ?一体どんなパンなのでしょう?フィリングの美味しさも魅力の栄徳流イタリアパン、こちらもとても楽しみです。




「今回のテーマは、味覚破壊です」
ええーっ!!粉を繊細に使い分ける栄徳さんがそんな・・・。いえいえ、ご心配なく。今回、ピッツァとパン・ド・ミ・ノワールに使った小麦粉「石臼挽き粉 サンストーン」のお話。




「フランスに行った時に、生地の色も味も濃厚で、驚くほどおいしいバゲットに出合ったんです。食事パンで生地の味が濃いというのは新鮮で。そのバゲットをイメージして、今回はサンストーンという石臼挽き粉を使います。この粉は、色も味も濃いのが特徴で、組み合わせる副素材やトッピングは、パンチが弱いものだと合いません。一度この味を知ると、普通のピッツァが物足りなくなりますよ〜」

なんとも罪な粉の登場です。まずは、こちらのサンストーンを100%使ったピッツァから・・・


小豆島のオリーブオイル


材料は実にシンプル。サンストーンに、塩、酵母、水、そしてオリーブオイル。酵母には「あこ天然酵母」を使用。室温にて少なめの水でじっくり発酵させた酵母は、甘酒のような香りが特徴的。オリーブオイルは、小豆島から取り寄せているもので、こちらもフルーティーで力強い香りです。これらをミキシングし、冷蔵して一晩発酵させます。


捏ね上げ直後。うっすら水分が浮き上がっている程度のミキシング初期の段階で止めるのがコツ。
一晩冷蔵(一次発酵)したもの


しっかり発酵を取った生地は、瑞々しく艶やか。生地はグレーに近い、かなり色みの濃いもの。生地は分割した後、成形しやすいように常温に戻します。




その間に、ピッツァのフィリングの準備。今回はマルゲリータとキノコ。マルゲリータのベースとなるトマトソースは、イタリアンのシェフに習ったという本格派。

「ホールトマトをピューレにして裏ごし、まるごとの生にんにく、塩・胡椒、フレッシュバジルを入れて一晩寝かします。水の代わりにこのトマトソースをベーグルに入れても美味しいですよ」




ピッツァは一次発酵後、ホイロ無しで成形してすぐ焼成できるのがいいところ。今回は、ピッツァを焼きあげるのに便利な“ピザ網”が登場。めん棒で丸く伸ばした生地をこの上に載せて焼くと、底が焦げることなく、綺麗な丸型を保ったまま焼きあげることができるのです。さて、この網を使って、一人3枚のピッツァを作ります。これが本日のランチ。自己責任なので、いつにもまして真剣に・・・。





トッピングをしたら、どんどん窯に入れます。蓄熱性の高い溶岩窯は、ピッツァの焼成にぴったり。300度でわずか5分。美味しそうなピッツァが焼きあがりました。
まだまだ作業は続きますが、焼き立てが一番!窯出しのアツアツを皆、早速ほおばります。自分で作ったピッツァは格別!!生地の味わいが濃厚な分、少し薄めがおいしいようです。




次は、フォッカッチャ。こちらに使うのはデュラム小麦「デュエリオ」。従来は硬くてパンには不向きと思われていたデュラム小麦を、日清製粉の特殊技術で微細に挽くことを可能にした画期的なパン用粉。淡い黄色と甘みとコクのある味わいが特徴で、クロワッサンにしてもおいしいのだそう。

「この粉のポイントは、単体で使うこと。おそらく染色体の関係だと思うのですが、デュラム小麦は他の小麦とあわせると、良さがなくなってしまうのです。ただし“老化が早い”というマイナス面があるので、ホワイトサワーを入れることでその部分を補います。また、老麺にしてもいいですよ」




材料を全てミキサーにかけ、捏ね上げます。伸展性の良い、なめらかな生地に仕上げるためにミキシングにはコツが必要。

「バゲットは、グルテンが結合し始めた初期の段階で止めますが、フォカッチャや食パンはオーバー気味にミキシングしていったがいいですね。ずっとまわしていると、生地に艶が出て、次第に団子状にまとまります。ここがグルテンのピークですが、この段階で出してしまうと生地は伸びません。さらにミキシングすることで、また粘り気が出てくる。時間だけではなく、生地の状態をよく見ながらまわしてください」

いつもつきっきりで、ミキサーの中を覗いていた栄徳シェフ。その姿に、本当に粉が好きなんだなあ・・・と単純に感心してましたが、粉と対話しながら、グルテンが変化していく様子をじっくりと見張っていたのですね!




捏ねあがった生地は、柔らかな黄色みとキメ細かく滑らかな肌が、まるで炊き上がったばかりのパティシエールのようです。一次発酵後分割し、さらにベンチタイムを置いた後、成形にうつります。生地はとても柔らかいので、中に出来た気泡を痛めないように優しく丸める程度に。それを、「チャミラック」と呼ばれる紙で包み、両脇をねじります。この紙が型代わりになって、やわらかなフォカッチャ生地も形が崩れることなく焼きあがり、具をたっぷり乗せても落下を防いでくれます。




フォカッチャの具は3種類。カラフルな野菜が目にもおいしい「夏野菜」や、ラ・テールでも人気ナンバーワンの「ハニーゴルゴンゾーラ」。そして、「荒挽きソーセージのドイツ風ホットドック」。特に、ホットドックにたっぷり乗せる“シュークルート(酢漬けの玉ねぎ)”に注目。




市販品のシュークルートは、そのままだと酸っぱいので、砂糖でキャラメリゼした“キャラメルビネガー”で柔らかな味わいに。甘酸っぱいシュークルートには、ジューシーなソーセージと粒マスタードがぴったり。他にも、野菜をオーブンでこんがり焼き目をつけて下処理することや、ゴルゴンゾーラにマスカルポーネを混ぜてまろやかな味わいにするなど、ちょっとした工夫がいっぱい。何気なく食べる惣菜パンも、細かい努力がひと味違うおいしさを生むのですね。

「フィリングに手間をかけるのもいいですが、基本となるパン生地をおいしくすることが一番大事。フォカッチャも、他の素材が入ることで粉の旨みがぶつかってしまうので、食感に重きを置いています。ミキシングに神経を注ぐのは、その為です」




彩り鮮やかなフォカッチャが焼きあがりました!ひと段落したところでランチタイム。フレッシュバジルを練りこんだ、焼きたてのフォカッチャに、自分で焼きあげたピッツァ。そしてラ・テールスタッフの川端さんお手製のスープ。疲れた体に、出来たてパンとあったかスープが染み入るよう・・・。しっかり食べて、次なる作業へのスタミナをつけましょう!!




さて、残る一品はパン・ド・ミ・ノワール。こちらに使う粉も、ピッツァに使った石臼挽き粉「サンストーン」。これに石臼挽き粉「ムール・ド・ピエール」をブレンドして使います。

「サンストーンは、灰分が高いのでつながりが悪いのが特徴。ラ・テールでは、ベーグルにも入れていますが、その際にはグルテンを加えるといった配慮を必要とします。今回のパン・ド・ミは、酵母はルヴァンリキッドとインスタントイーストを併用し、さらにモルトを使うことで、発酵力を促進させます」




ピッツァでも分かったように、サンストーンの最大の特徴は味の濃厚さ!副材料も、味が弱いものをいれると粉に負けてしまいます。そこで今回使うのはオーガニックモラセスとラード。モラセスは、砂糖を精製した際に副産物としてできる糖蜜。プルーンエキスのような濃密な香りで、パンに甘みと風味、そしておいしそうなカラメル色を加えます。ショートニングに比べてコクが出るので、油脂はラードを使用します。味の強い粉には、味の強い素材を!これが基本原則のようです。




ミキシングは、粘り気が出るディベロップ(結合)という段階まで。表面に水がちょっと浮いたような状態で、手で伸ばして薄い膜が出れば捏ね上げ終了のサイン。少しおいてから軽くパンチし、一次発酵させます。分割後、ベンチタイムをおいて成形へ。生地は軽く締めるようにして折って丸め、綺麗に型に詰めていきます。

「ここで、生地ひとつひとつの締め方が違うと、山の高さがちぐはぐになってしまいます。均一にふっくらとあがるように、締め方には充分注意してくださいね」

今回は、ひとり一斤。ピッツァと同様、自分の作品がそのままお持ち帰りとなるので、成形は真剣勝負です。これまでの講習の成果やいかに・・・!?




ホイロでしっかり発酵をとったら、いよいよ焼成です。210℃で約35分。じっくりと焼きあげます。窯から出たパン・ド・ミ・ノワールは、その名の通り、黒味がかった焼き色がなんともおいしそう!粉とモラセスの甘い香りが立ち込めていました。午後の光を浴びながらパンに並ぶ、名札をつけた作品は、パン屋さんに並んでもおかしくないほどの優秀な出来栄えでした!
全4回の石窯パン教室。今回もたくさんのパンが石窯から焼きあがりました。受講生のみなさんの腕も、もはやプロ並!?・・・これはパン業界の未来は明るい!!秋・冬に開講される応用コースも楽しみです。









【今回作ったパン】



ピッツァマルゲリータ

4種のキノコのピッツァ

サンストーン100%のピッツァ生地は、今までに経験したことのない力強さと、噛めば噛むほどじわじわと旨みが増してくる独特の味わい。味が濃厚なので1カットでも十分な食べ応え。ワインとも相性がよさそうです。





フレッシュバジルのフォカッチャ

「夏野菜」

「ハニーゴルゴンゾーラ」

「荒挽きソーセージのドイツ風ホットドック」

フォカッチャ生地は、デュラム小麦の甘みとコク、そしてふんわりとしていながらしっかりと歯ごたえのある食感が印象的。塩だけを乗せて焼いたものも、シンプルに生地の味わいを堪能でき、美味。アイディアあふれるフィリングも、是非まねしたいものです。





パン・ド・ミ・ノワール

ほのかな土臭さが、なんとも滋味深いおいしさ。モラセスの甘みと、粉の旨みが一体化し、塩気もしっかり感じる。そのままでも完成された味わいのパン・ド・ミですが、ラベンダーやもみの木など、少しクセのある蜂蜜をつけてもおいしい。トーストするとさらに香りが増します。