第2回
リッチなパン
(2008年6月)


先月のリーンなパンから一転して、2回目のテーマはリッチなパン。厨房では、授業の開始時間が待ちきれないかのように、加藤先生が手を動かし始めます。
「今日は3種類の生地を作って11種類のパンを作ります。菓子パン生地であんぱんとクリームパンとメロンパンを、ブリオッシュ生地でブリオッシュとシャポーとオランジュを、それからクロワッサン生地でクロワッサン、チーズクロワッサン、チェリーデニッシュ、パン・オ・レザン、パン・オ・ショコラを。餡やカスタードクリームも自分たちで作りますからね。忙しくなりますよ!」
え、そんなに盛りだくさんで大丈夫?想像以上の種類の多さにちょっぴり不安そうな参加者たち。それでも、加藤先生のペースに乗り遅れないようにと、早速仕込みを開始。今回も店を開けるほどの量が待ち受けていました・・・。




この日最初の作業は、パン生地・・・ではなくて、あんぱん用の餡作り。もと和菓子職人の加藤先生だから、一切手抜きはありません!教えていただいたのは、京風の和菓子あん。2回渋切りをすると、小豆が白っぽい状態に。この後、やわらかくなるまで40〜50分ほどじっくりと煮込みます。先生、最後の練り加減の目安時間は?「時間にたよらず目で見て判断することが大切!」出来上がりは黒々として艶々です。




「今日はとっておきのブリオッシュ生地を教えますよ」と加藤先生。卵もバターもたっぷり入るリッチな生地ですが、パサつきがちなのが悩みの種。でも、最後に冷たく硬めのバターを加えればそんな心配もありません。できるだけ早く生地とバターを馴染ませるのが最大のポイント。やわらかいバターを加えるとオイリーになって混ざりにくく、時間もかかるのだそう。最後はしっかり生地温をチェック。高すぎると脂が出てきて、これまたパサつく原因に。




大量のクロワッサンを仕込むときに欠かせないのが、業務用のシーター。バターをデトランプで包んだら、後はシーターにお任せ。あっという間に希望の厚さに伸ばしてくれます。とはいえ、プロならではの大きな機械を前に、生徒さんも戦々恐々。ペダルを踏んで操作するのですが、力を入れすぎると勢い余って生地が落下!なんてことになるから慎重に。そしてもうひとつ、伸ばす時にバターがはみ出さないように、生地の継ぎ目をぴったりと密着させておくことも大切です。




これはアルチザンバゲット。実は授業の合い間をぬって、加藤先生がランチ用のパンをせっせと仕込んでくれていたのです。その作業の早いこと早いこと。一次発酵を終えた生地を瞬く間に分割、成形後、ホイロで寝かせてからクープを入れてオーブンへ。無駄のないプロの手つきを前に、思わず見入ってしまいます。




メロンパン用のメロン皮は、油脂類、砂糖、塩、卵、粉類の順で材料を入れ終えて馴染んだところで終了・・・と思ったら、加藤先生はここでひと工夫。なんと、15分近くも混ぜると聞いてびっくり。「とことんまで混ぜてグルテンを切ってしまうのが目的。こうすればその後どんなに練っても固くなる心配もないし、サックリした食感になりますよ」出来上がった生地は空気をたっぷり含んでやわらかく、触るとさらっとしています。しばらく冷やせば、成形作業も楽勝(のはず)。




生地を作るだけでは立派なパン屋とは言えません。フィリングもトッピングも全部手作り、が加藤流。餡にカスタードクリームにメロン皮にビスキュイ、と並行して作業を進めます。そうこうするうちに、厨房内に鳴り響くタイマー音。いったい何の合図?「ブリオッシュ生地が捏ね上がりました!」「そろそろ菓子パン生地の分割を始めないと」手元で作業を進めつつも、全ての作業に気を回さなくては!




捏ね、一次発酵、分割の後、ベンチタイムをとったら、いよいよ成形作業。餡を包んだり、クリームを挟んだり、メロン皮を乗せてカードで模様をつけたり。見ているとさも簡単そうに見えますが、綺麗に仕上げるのはなかなか大変。「ほら、そこ、クリームがはみ出してるよ。ダメダメ、欲張っちゃ(笑)」はみ出してしまったものは、先生の助けをかりてなんとか完成。形もサイズも様々だけど、これも手作りならではの醍醐味です。




成形がひと段落したところでお待ちかねのランチタイム!加藤先生自慢のアルチザンバゲットの登場に歓声が上がります。「皮がパリパリ!」「もっちり〜」香ばしい食感の秘密は、フランス粉に近いといわれる丸信製粉のオーヴェルニュを使っているから。でもそれだけではなくて、先生独自の製法もあるのだとか。「え、習いたい?これは難しいですよ〜」と加藤先生。そう言われるとますます気になります!




3つ折を3回終えたクロワッサン生地は、2等辺三角形にカットしてくるくると巻き込んだら三日月状のクロワッサンに、長方形にカットしてチョコレートを巻き込めばパン・オ・ショコラに。天板にのせたら約28℃のホイロの中で発酵させます。ホイロの温度が高すぎると脂が出てきてしまうので要注意。




あんぱんの真ん中に穴を開けるのは何故でしょう?「見た目もありますが、生地の発酵がうまくできているかどうかが一目瞭然。綺麗に穴が開いたままの状態なら、成功した印なんですよ」他にも、焼き上がったら周囲が白くなっていれば(ホワイトライン)、ぷっくりと膨らんだ証。「これなら良くできてますね」と合格点をもらってひと安心です。




ひし形に成形したクロワッサンは、カスタードクリームを絞って上にダークチェリーをのせて焼成。仕上げにはナパージュを・・・というパターンが多いのですが、ここでも加藤流のアレンジが。「ダークチェリーの缶詰のシロップ、そのまま捨てちゃうのはもったいないよね」と、にやり。コーンスターチでとろみをつければ立派な上がけ用ゼリーに早変わり!たくさんのパンを作るプロの現場では、材料を無駄にしないことも大切なのです。




朝から暑い暑いと思っていたら、厨房内の温湿度計の針は30℃!パンにとってはありがたくても、生徒さんにとっては過酷な環境に。それでもひたすら作業を続けた甲斐あって、時間内に作業を終えることができました。いつも太っ腹でたっぷりの材料を用意してくれる加藤先生だから、今回も繁盛店並みの忙しさ。そんな中、室温が高かったらいつもより加える水の温度を低くしたり、捏ね上げた生地の温度が高ければいったん冷蔵庫に入れて冷やしたり、生地の状態を見ながら発酵時間を調節したり。いつも全てのものに気を配りながら臨機応変に対応しなければならず、つくづくパンは生きものなんだと実感。ホイロの温度が高すぎてクロワッサン生地から脂が・・・といったアクシデントもありましたが、それもまたいい勉強になったはず。 そして今回も、アイデアマンの加藤先生においしさのヒントをたくさん教えていただきました。あんぱんもクリームパンもメロンパンも、どこの店にもある定番の品。だからこそ、こんな風に個性を出せれば嬉しいですよね。





【今回作ったパン】
あんぱん
しっとりやわらかな口当たりと、そのままでも充分おいしい生地が魅力。これは中種法で仕込んでいるお陰なのだそう。翌日食べてもまだしっとりしているからすごい!自家製餡は甘さが程よく、ほっくり感を残した豆の炊き方も絶妙です。


クリームパン
カスタードクリームを炊く時間を短くしたものはぽってり、グルテンを切るように長めに炊いたものはとろーり。同じ配合でも炊き方を変えるだけでずい分差が出るから驚きです。 やわらかくもっちりとした生地には、とろーりのタイプが相性抜群。卵の優しい味わいを、口いっぱいに頬張りたい!


メロンパン
薄めのメロン皮は、カリカリッと軽快な食感。ベタベタ系の生地が苦手な人でも、これなら良さそう。メロンの香料の代わりにレモン汁を入れているので、ナチュラルで爽やかな味わいです。大きめサイズで存在感も充分。


ブリオッシュ
先生自慢のブリオッシュ生地は、パサパサとは無縁のしっとりとした食感!バターの扱いも重要ですが、牛乳を配合していることもポイント。卵やバターに乳風味がプラスされた優しい味に仕上がっています。カップに入れずに丸めて焼くと素朴な風合いに。


シャポー
ブリオッシュ生地の上にのせているのは、卵白と砂糖、塩をよく混ぜ合わせた後、粉と溶かしバターを加えて作ったビス生地。卵白があまってしまったらこんな活用法がお薦めです。しっとり甘〜いビス生地とブリオッシュの組合せは、不思議と懐かしい味わいで、おやつにもぴったり。


オランジュ
オレンジピールをのせてロール状に仕上げたブリオッシュがこちら。とにかくオレンジピールの量が半端じゃない!サービス満点の加藤先生ならではのリッチなおいしさです。


クロワッサン生地を使ったクロワッサン、チェリーデニッシュ、パン・オ・レザン
伸展性を良くするショートニングと風味づけに欠かせないバターのダブル使いがポイント。サクサクハラハラと軽い食感に仕上がります。写真の他に、チーズ入りクロワッサンやパン・オ・ショコラも完成。応用範囲の広い基本の生地なので是非マスターしたいもの。今回はフランスパン用のフランス粉と強力粉をブレンドしましたが、好みに合わせて粉を使い分ければますます楽しめそうです。