クリスマスムード満点の12月中旬、石窯パン教室応用コースもついに最終回を迎えることとなりました。クリスマスといえば、リースは欠かせないアイテム。更にヘクセンハウス(クリスマスのクッキーハウス)を飾ったり、シュトーレンを楽しんだりできればますます盛り上がりそうですよね。なんと、今回はこの3品を全部作ってしまう予定。さすがは我らが加藤先生、最後まで太っ腹です!

「リースはパン生地で、ヘクセンハウスはクッキー生地で、それからシュトーレンは中種法で作ります。今日はかなり忙しくなりますから、覚悟してくださいよ!」

朝の6時から仕込みをしてくれていた加藤先生はもちろん、生徒さんたちも並々ならぬ気合が感じられ、朝から活気ある雰囲気に。すかさず、質問が飛び出します。

「先生、今日のランチは何ですか?私、朝から食べる気満々なんです!」

「え、ランチ?!」

そう、このパン教室ではバリエーション豊富なランチも魅力のひとつ。毎回登場する新作に、皆、興味津々なのです。

「ランチ用には、アルチザンフランスの生地を用意してあります。応用コース2回目の時に作ったでしょう。あのバゲットも、もう食べおさめだからね」

そのアルチザンバゲットを、今回はいつもと違う窯で焼くと言うのですが・・・。
こんなオーブンがあったらきっと腕も上達するはず?!


「櫛澤電機で近々販売予定の家庭用石窯オーブンがあるんです。蒸気注入やダンパーも蒸気も出せるし、蓄熱性もあるから、これさえあれば業務用の石窯に近いものが作れると思いますよ」

「わあ、すごい!」

バリンバリンと香ばしいクラストが印象的だったあのアルチザンフランスが、家庭でも再現できるなんて!生徒さんたちの間から大歓声があがります。いったいどんなバゲットが焼き上がるのか、ランチタイムが楽しみです。

中種法で作るシュトーレン。ふんわりとした食感が魅力です。


ひと通り講習内容の説明が終わると、早速作業に取りかかります。まずはシュトーレンの仕込みから。

「シュトーレンはいろいろなタイプがありますが、今回は中種法で。粉の一部と、生イースト、牛乳、水をミキシングしてシュトーレンの素(中種)を作ったら、1時間ほど発酵させてあげます」

イーストを使うシュトーレンはパンの仲間。ただ、大量のフルーツとバターが入るため、そのままではほとんど発酵しません。そこで、発酵力が安定する中種法で作れば、ソフトな食感になるというわけなのです。実はパン屋のシュトーレンはこのタイプが主流なのだそう。

ヘクセンハウス用のクッキー生地は通常よりも少し固め


中種を発酵させている間に、次はヘクセンハウスのクッキー生地作りへと移ります。

「ヘクセンハウスっていうと、普通はスパイスが強かったり固くてまずいものが多いですが、これはきちんとおいしく食べられる生地。バターとショートニングをブレンドしているから、コクとサックリ感と両方楽しめますよ。バターに砂糖を加えて軽く混ぜたら、次々と残りの材料を加えていきます。あまりバターを立て過ぎちゃうと、もろい生地になっちゃうから気をつけて」

ヘクセンハウス用のクッキー生地は崩れにくいものにするため、とにかく固さが命。ミキサーボウルで混ぜ終えた生地も通常のものより固めに仕上がっています。これを少し冷やしたらシーターで5o弱の厚さに伸ばし、天板サイズのシート状にカットしてカチカチになるまで冷凍しておきます。

粉の量も半端ではないので、振るう作業もひと苦労

飾りパン用の生地は粘土のような固さ


「次は飾りパンリースの生地を作ります。これもいろいろな配合がありますが、その中でも固めの生地を紹介しましょう。シーターを使わないと伸ばすのは難しいけれど、この生地だと形がきれいに仕上がるんです」

材料はライ麦粉、強力粉、水に少量のショートニングと砂糖と塩。伸びを良くするために、グルテンのないライ麦粉(そば粉でも代用可)を使うのがポイントです。水分量が少ないため、捏ね上がった生地はパン生地というよりもまるで粘土のよう。この生地がいったいどんなリースに仕上がるのでしょう?未知の飾りパンの世界に期待が高まります。



飾りパンリースの生地を作り終えると、加藤先生はすかさず窯のそばに置いてあったバンジュウの中身をチェック。どうやら先に仕込んでくれていたアルチザンフランスがいい具合に膨らんできているようす。

「みんな、憶えてる〜?はい、どんどん成形してくださいね」

広げて、たたんで、細長く伸ばして・・・ちゃ、ちゃ、ちゃっと手を動かしてあっという間にバゲットの形が完成。それを間近に、思わずため息を漏らす生徒さんたち。

「これは、カメラじゃなくて、ビデオに収めておきたいよね」

「そんなの、いくら見たってだめだめ。何回も訓練して体で覚えないと!」

結局は地道に努力するしかないのでしょう。そうわかってはいても、やっぱり・・・。

「そんなの、いくら見たってだめだめ。何回も訓練して体で覚えないと!」

結局は地道に努力するしかないのでしょう。そうわかってはいても、やっぱり・・・。


「2次発酵を終えたら、家庭用石窯オーブンで焼いてみましょう」

このオーブン、家庭用といってもかなり大きめサイズ。業務用の天板一枚を入れることができるので、一度にたくさんのパンを焼くことも可能です。扉を開けてバゲットを窯に入れたら、すかさず蒸気を注入。暫くすると、パリパリの香ばしいバゲットが焼きあがりました。お店に並ぶパンのような香ばしいクラストに、皆、驚きを隠せない表情。中には、“このオーブン、絶対欲しい!”目をキラキラと輝かせながら決意を固めていた人も。パナデリアにも是非、一台!そう、お願いしたくなるような優れものです。




“ピー”

タイマーの音とともに次に待ち受けていたのは、シュトーレンの本捏ね作業。

「先に仕込んでおいた中種と、残りの材料を合わせていきます。最終的な捏ね上げ温度は27〜28℃が理想です。このとき気をつけたいのが、中に入れるラム酒漬けフルーツの温度。フルーツが粉に対して70%も入るから、温度が低いと生地の温度にも影響してくるんです。冷蔵してある場合はもちろん、室温においてあるものもホイロに入れて26℃くらいに保温しておくといいですよ」

他にも、ドライフルーツをやわらかく戻すときには、熱湯をかける方法よりも蒸す方が適度なふんわり感をキープできるなど、ちょっとした気配りが仕上がりに影響してくるのだとか。こうした小さなひとつひとつの作業の積み重ねがおいしさにつながっているのです。
捏ね上がったシュトーレン生地は、約30分のフロアタイムをとった後、分割、その後ベンチタイムをとったら楕円形に成形してオーブンへ。

「それにしても、シュトーレンってすごいバターの量!こわいよね〜」

「そんなに気にしたって、どうせ食べるんでしょ!」

はい、その通り。この、バターがぷんぷん香るところがたまらないんですよね。


ミキサーボウルをまわしながら窯に入っているパンをチェックし、更にホイロの中で発酵中の生地や冷凍庫で冷やしている生地などに気を配る・・・毎回テキパキと忙しく駆け回っている加藤先生ですが、この日は特に休む暇もなく動き続けていました。

「さて、ここでお昼にしましょうか。食べ終わったら、いよいよリースの飾りつけとハウスの組み立てが待ってますよ!」

30分ほどでささっとランチを済ませ、素早くリース作りに取り掛かります。

飾りパン用生地は、シーターで何回か伸ばしていくとなめらかに 蕎麦状のものを何本もカットして丸い生地に盛り付けると・・・
こんな風にリースらしく仕上がります ナイフ1本あれば何だってできちゃいます


「まず生地をシーターで3o厚さに伸ばしたら、大きな輪の形に切り取って土台にします。そこに、細くカットした紐状の生地をたっぷりと盛り付けていけば、リースっぽくなるでしょう?」

ナイフで1〜2oの細さに刻んだ生地は、色と形といい、まるで蕎麦のよう。一本一本丁寧に刻んでいって、ある程度まとまったら土台の上に巻きつけていきます。あまりトロトロ時間をかけていると、生地が乾燥して固くなってしまうので要注意。

「リースができたら、今度は飾りを作ります。形は何でも好きなものでいいですよ。ただし、道具はこれだけ」

そういって取り出したのはぺティナイフとハサミ。生地を涙型にまるめてハサミでたくさん切り込みを入れたら松ぼっくりが、ナイフで切り抜いた2枚の生地の間に小さな球を入れたら鈴が、三角にカットしてくるっとまるめたらミニクロワッサンが。ナイフとハサミさえあれば、どんな飾りだってできてしまうからすごい!

「私、こんなもの持ってきちゃった」

生徒さんの一人が持参してきたのは、クッキーの型。なるほど、これなら簡単にヒイラギやツリーの形を作ることができそうです。

「こら、誰だ、そんな手抜きを考えている人は!」

「だって、先生、時間がないって言ってましたよね〜」

「うーん、しょうがないなあ」

そうそう、本当に時間がなかったのです。でも、大丈夫。きっと皆さん、家庭でじっくり練習してくれるはずですから。
ヒイラギ、ツリー、星、リボン、薔薇、松ぼっくり、ミニバゲットにミニクロワッサンetc。思い思いの飾り付けをしたらオーブンでじっくり焼き上げます。

ヘクセンハウス用の型紙と楕円形の抜き型 カットした生地は暫く寝かせて落ち着かせるのが理想
焼成前にしっかりとドアの跡をつけておきます
柵になる生地。一本ずつ丁寧に


その間に、ヘクセンハウスの作業へと移ります。シート状に伸ばしてカチカチに冷凍してあったクッキー生地をカット。土台、ハウスの正面、裏面、壁、屋根、飾り窓、煙突、垣根、ドアと各パーツを天板に並べて焼成するのですが、ここでまた先生のオリジナルグッズが登場しました。見ると、ダックワーズ用の楕円形の抜き型に似ていますが・・・?

「先生、これで何か細工するんですか?」

「そんな、先のこと読まないの!」

もったいぶってなかなか教えてくれようとしない加藤先生ですが、これにはわけがあるのです。

「最初からポイントを全部聞いてしまうと自分で考えなくなっちゃうでしょ」

実はこれ、ドアの形に抜く型なのでした。ハウスの正面部分の生地の上からこの型を押し込むのですが、始めはドアを抜き取らずに、そのまま焼成します。そして半焼きしたところで再び型をしっかりと押し込み、続けて焼成。

「始めから抜き取って焼いてしまうと焼き縮みしちゃうんです。こうして跡をしっかりつけておいて焼いてからドアを抜くようにすれば、形が崩れないでしょう?何度か作っていくいくうちにこの方法を思いついたんです」

オリジナルのテクニックを披露するときの加藤先生はちょっぴり嬉しそう。自分の頭で考えること、その大切さをこの講習会では何度も教えていただきました。

形が合っているかどうかチェック。合っていないと後で大変なことに・・・

きちんと建つことができるかな〜???

まるで建築現場?!


「パーツが全部焼き上がったら、ヤスリと糊(ゼラチンと水、粉糖を合わせたもの)を使って組み立ててくださいね。きちんと形を揃えておかないと家が傾いちゃいますよ」

「え〜、どうしよう?!」

ヤスリに糊と聞けば、もうこれは工作の世界。慣れない作業に戸惑いつつも、自分のハウスが完成していく様を見るのはやっぱり楽しいもの。仕上げにメレンゲを絞って粉糖の雪を降らせたら、可愛らしい“お菓子の家”の完成です!



「皆さん、基礎コースから応用コースまでお疲れさまでした。今日が終わっても、わからないことがあったらいつでもメールしてください。メル友になってくれても構いませんから(笑)」

最後に加藤先生から締めの挨拶があると、それを聞いた生徒さんたちからもたくさんの声をいただきました。

「すごく楽しい教室でした」

「今まであまりわからずにやっていたことがわかって、とても勉強になりました」

「パン屋さんは本当に体力勝負なんだなと実感しました」

計量する人、機材をチェックする人、タイマーを管理する人、窯を担当する人・・・初めのうちは何事にもおそるおそる手をつけていた生徒さんたちも、気がつけば積極的に自分の得意な作業を受け持つように。業務用の機材を使って大量のパンを仕込みながら進めていったこの講習会で、実際のパン屋の雰囲気を少しでも感じてもらえたのでは?とパナデリアも自負しています。

これからも、ひとつひとつ過去のレシピを紐ときながらパン作りを楽しんでくださいね!




〜 今回作ったパンたち 〜

※パンの内容については、授業ごとに若干異なりますのでご了承ください


アルチザンフランス

ベーコンエピ

セサミフランク


飾りパンリース

ヘクセンハウス

シュトーレン