好評のうちに終了した、石窯パン教室。今度はその応用コースが、9月から新しくスタートしました。基本コースでは、実際のパン屋さんと同じ量のパン生地を仕込み、とにかく、たくさん生地に触れ、数をこなしてきましたが、応用コースでは実際にパン屋や教室を開いたことを想定し、パン生地とそのバリエーションを組み立てていくということが目的。じっくりと考え、自分で見極めながら、基本で学んだパン作りの技術をしっかりと自分のものにしていくという訳です。さらには、ドイツパンや飾りパン、クリスマスのシュトーレンなど、今までとは違う生地にも挑戦していくので、さらに実力が身につくはず!その様子をご紹介していきます。


1ヶ月ぶりの再会

パン作りの敵とも言える夏の暑さを考慮して、8月を休み、約1ヶ月ぶりに集まったメンバーたち。その顔には、4月にスタートした頃とは違う、自信が見えるようです。

「今日はパン・ド・ミを作ります。基本コースでは国産小麦をメインに使いましたが、今日使うのは外麦のカメリア。それから、風味を加えるために、全粒粉を配合します」

と加藤先生。
旨みが強くて人気のある国産小麦ですが、まだまだ流通量は少なく、実際にパン業界で一般的なのは外国産小麦。自分が現場に立つことを考えれば、外国産、国内産、様々な小麦でパン作りができるのに越したことはありません。

今回初めて使うミューズリー


まずは“湯だね”用生地の仕込みから。
気がつけば、5kgの粉を計量したり、大きなミキサーを扱うことにも慣れたメンバーたち。手際よく、作業を進めていきます。

「本当は、フランスパン用粉とカメリアで作ろうと思ったんですが、今日は全部カメリア(強力粉)に変えました。今回は“湯だね”を使うし、全粒粉はグルテンがでないから。特にパン・ド・ミみたいにボリュームが必要なパンには、強い粉じゃないと難しいんですよ」

と加藤先生。
風味のための粉、食感のための粉・・・。自分の作りたい食感をイメージして、粉を調節できれば一人前です。

しっかり沸かした熱湯を加えます


「先生、“湯だね”の生地だと、どう違うんですか?」

と、生徒さんから質問があがります。

「“湯だね”は、小麦粉に熱湯を加えることで一度グルテンを切る作業。だから、サク味がでる訳だけれど、その分グルテンの膨らみが抑えられてしまいます」

なぜ、“湯だね”を使うのか、その場合はどんな粉選びをしたら良いのか。そういうことを考えながらパンを作ることが必要、と加藤先生。レシピ通りに作るだけでは、プロとは言えないのです。

早く冷やすため、薄く伸ばします


「今日はこの生地でパン・ド・ミ、シチューパン、セサミ・マウンテン、ラムレーズンの4種類のパンを作りますからね」

そこで、今度はシチューパン用のシチュー作りに取り掛かります。

「すでに出来上がっている食材を使うパン屋さんも多いけど、こういうものもしっかり作れるようにならないとね」

ところが、シチュー作り以外にもこのパンにはヒミツがあるようなのです。

「シチューパンといってもね、ただシチューを詰めるだけじゃだめなんだよ。アツアツの仕掛けがあるんだから」

と、加藤先生は何やらたくらみ顔。アイデアマンの加藤先生ならではの、あっと驚く秘策があるようです。

ルーから作るのが美味しさの秘訣


シチューは、もちろんルー作りから。小麦粉を焦がさないようによく炒って、牛乳を加えます。シメジやブロッコリーなど、そのほかの具材はパンに入れることを考えて小さくカット。
パン生地のおいしさはもちろんですが、手作りのクリームやシチューにキラリとセンスが光るパン屋さんてありますよね?パン生地と食材の組み合わせ方も、プロのパン職人には欠かせない勉強のひとつなんですね。

しっかり炒めた野菜類とホワイトソースを合わせます


“湯だね”が冷えたのを見計らって、パン・ド・ミの生地作りをスタート。

「応用コースだから、私は手を出さないよ」

と加藤先生。みんな、がんばれ!

全粒粉入りの生地に、湯だねを入れてミキシング 休ませてから分割です


続いて登場したのは、フォカッチャ生地。生徒さんからのリクエストでカリキュラムに加えられたメニューです。

「イタリアでは、シンプルにオリーヴオイルだけで食べたり、分厚く焼いたりと食べ方は色々。固めの食感のフォカッチャもありますが、今回はモチッとやわらかいタイプの生地にしました。水分がすごく多く入っているので、前日仕込みで一晩冷蔵発酵させないと扱いが難しい生地です」

ヒンヤリ冷たい生地は、プニャプニャと頼りなげな触り心地。手早く、四角形に伸ばし、発酵をとります。

水分の多い生地。成形が難しそう!


そうこうするうちに、パン・ド・ミ生地がちょうど良く膨らんできました。4種類のパンに合わせて分割します。生地はそのままで、成型やフィリングを変えるのかと思っていたのですが、そこは応用コース。1つにはミューズリー、もうひとつは黒ゴマを練りこんでいきます。

ミューズリーを加えた生地 黒ゴマたっぷり!


そして、次に、パイシーターが登場。4分割したうちの2種類(プレーンなタイプと黒ゴマ入り)の生地に、バターを折り込んでいきます。

「折り込みといっても、クロワッサン生地とは違うので、それほど慎重にならなくても大丈夫。同じ生地でも、こうやって、食感や味を変えられます」

基本コースの時に比べ、シーターの操作もスムーズ。あっという間に、3つ折3回の生地が完成しました。

手早くバターを折り込みます しっかりと巻き、長い筒状にします


残りのプレーン生地はパン・ド・ミ用に、ミューズリー入りの生地はパン粉をまぶしてシチューパン用に、と順調に成型を終えてランチタイム!応用コースでは、パンの管理を兼ねて作業台でランチをとります。
焼きあがったばかりのフォカッチャは、4種類。どれも、具沢山でおいしそう!
特に人気があったのは、ジャガイモ入りとカボチャ入り。ホックリした食感とフォカッチャのモチモチした生地との相性が抜群でした。

旬のカボチャが美味!具沢山なのでランチにぴったり


お腹いっぱい、とのんびりしているのもつかの間。

“ピー!”

とオーブンが時間を知らせます。

「ホラホラ、窯の人、大丈夫?」

そうです、ランチだからといって、窯や生地は待ってくれません。

シナモンシュガーとレーズンをたっぷりと巻き込んだラムレーズン ふっくらと発酵したセサミ・マウンテン


さて、いよいよ、加藤先生の秘伝の“アツアツシチューパンの技”が伝授されることに。
なんと、シチューを詰めたパンをアルミホイルで包み、再度、窯に入れるのです。

「ホラ、こうすると中までアツアツでしょ!でも、実際にこういう手間をかけている店は少ないんです」

アルミホイルを外して口に入れると、パンもシチューも、ブロッコリーまでもがアツアツで、火傷しそうなほど。外側のパン粉はサクサクとしていて、うーん、おいしい!
パン生地のおいしさはもちろんですが、こういう目に見えない手間がおいしさに大きく影響しているんですね。

自宅でもぜひ試していただきたいアイデア


今回は、座学タイムもありました。
作るだけではなく、パン作りに必要な素材について知っておくことも大切ですよ、と加藤先生。
塩、砂糖、牛乳、スキムミルクなど、基本となる材料が発酵に及ぼす力や意味を教えていただきました。

もっと美味しいパンを作るため!真剣に耳を傾けます


そして、

“ピー!”

とタイマーの音。 窯の中をのぞくと、セサミマウンテンが見事にふくらんでおいしそう!

「これは、私の教えている店舗で実際に売っている人気商品なんですよ」

ゴマたっぷりで、中心が高く盛り上がっている姿は、まさに“セサミマウンテン”!熱いうちにカットして試食。お腹いっぱいだったはずなんですが・・・。
バターを折り込んだ生地は、パン・ド・ミ生地とは思えないほどサクサク!たっぷり入れたゴマの香りにバターのコクが加わり、リッチな味わい。人気商品というのも納得のおいしさです。
続いて焼き上がったラムレーズンも、サクサクした食感とたっぷりのレーズンが口いっぱいに広がります。

ゴマの香ばしさに思わず歓声が!


「そうだ、パン・ド・ミは冷蔵庫で保存して、食べる都度カットしてトーストしてくださいね。1週間は全然大丈夫ですから。基本コースでパン・ド・ミを作ったとき、そうやって1週間食べた人はいますか?」

残念ながら、皆さん1週間を待たずに食べてしまった様子。

「え、いないの?困るなぁ、みんな、すぐに食べちゃうんだから(笑)。私のレシピでちゃんと作ったパンは、冷蔵庫で保存して大丈夫ですから。だまされたと思って、試しにやってみてくださいね」

食パンの保存は冷凍するのが一般的ですが、パナデリア事務局にも“本当に冷蔵でおいしく食べられて、びっくりです!”というメールが届いているので、間違いないようですよ。

窯から出すと“パリッパリッ”とパンの鳴く音がしておいしそう!今回も1週間もたなそうですね。




本来は、プロの職人を相手に、パン作りやレシピを指導されている加藤先生。実際に店舗で販売されている商品のレシピを教えていただけるのも魅力のひとつです。いつの日か、応用コースの生徒さんがお店をオープンした時には、セサミマウンテンやアツアツのシチューパンが並んでいるのでしょうか?
実力、知識ともに、身になっている様子の応用コースの皆さん。これから、どんな風に成長していくのか、ますます楽しみです!

※パンの内容については、授業ごとに若干異なりますのでご了承ください





〜 今回作ったパンたち 〜


パン・ド・ミ
セサミ・マウンテン
ラムレーズン

シチューパン
フォカッチャ