夏本番を迎え、子供たちは夏休みに突入!ミーンミーンと元気よくセミが鳴く頃、イタリアパン教室は最終日を迎えました。パオロ先生から習ったイタリアパンのおいしさにすっかり魅了され、家でもしっかり復習している様子。中には講習前から、熱心に質問する姿も見られました。・・・さすが!
第3回目は、ベネツィア地方のお祭りで食べられる玉ねぎパンと、そして2kgの大型パンの2本立て。今回は、天然酵母で作るイタリアパンに挑戦します。皆さん、キリリとエプロンを締めて気合十分。夏の太陽にも負けないほど熱いイタリアパン教室。最終回をレポートします!


今回の課題の一つめは、「Filoncini alle Cipolle Tostate(フィロンチーニ アーレ チポーレ トスターテ)」。イタリアのヴェネツイア州では1年に1回、カーニバルの時に食べられるパンです。オニオンとニンニクが入ったパンは、冷たい白ワインにぴったり!カーニバルでは、細長い形状にして焼き上げたパンを手に持って齧りながら、お祭りを楽しむそうです。パンというよりおつまみのように気軽で楽しい食べ物。まさにイタリアらしい陽気なパンです!

「チャバタに近い、水分の多い生地なので、成形が難しくなります。食べるには楽しいパンだけれど、作るのは大変だよ!」

おいしいワインの為・・・ではなかった、おいしい玉ねぎパンのために、頑張らなくては!

今回は、香りの良さが特長の国産小麦「ミナミノカオリ」と、タンパク量の多い外国産の「スーパークラウン」をブレンドして使います。2種の小麦粉をミキサーで混ぜている間に、具材の準備。たっぷりのドライローストオニオンとドライガーリック、オリーブオイルとラードをそれぞれ混ぜあわせます。 工房はあっという間に、オニオンとガーリックの香りでいっぱいに!それだけでも、何だかスタミナが付きそう!?


たっぷりのオニオンとガーリックを手でしっかり混ぜます。これだけの量だと、かなりパワフルな香り!


今回使用するのは、天然酵母。しっかりとした粘度があり、口に含むとほんのりとした甘味が。気になる酵母の正体は・・・「ヒミツ!」とのこと。う〜ん、残念。 酵母と水で溶いたモルトを、粉に加えて軽くミキシングし、さらに塩とオイルを加えて、26℃になるまでアルトフェックスでしっかり捏ね上げます。

“ヒミツ”の酵母は、12℃で30時間しっかり発酵させたもの

水が多めなので、滑らかで粘り気のある生地ができあがります


目標温度に達したら、オニオンとガーリックを加え、軽く全体を混ぜ合せたら、生地がくっつかないようにオリーブオイルをひいた番重に移します。

「玉ねぎに含まれる特有の成分が、乳酸の働きを押さえてしまうので、オニオンは捏ね上げが完了してから最後に入れるのがポイントです」

室温で、一次発酵へ。約2倍になるまでしっかり発酵させます





番重の中でしっかり発酵し、気泡をたっぷり含んだ生地の表面は、つややかな光沢。
とても柔らかな生地なので、いつものように、丸めたり捏ねたりという成形とは異なります。まるごと作業台の上にあけてから、スケッパーでそっと切り分けるだけ。分割量も、今回ばかりは目分量です。
これがなかなか難しい作業で、ふわふわもちもちの生地は手に持つだけで、形が変わってしまいます。それに加え、室温で生地の発酵がどんどん進むのでますます生地はダレてしまう・・・。なるべく手早く、同じ大きさで分割したいけれど、ウーン、難しい!!

番重から取り出した生地は、座布団みたいにフカフカ!この艶やかな表面は、しっかり発酵ができている証拠です。

時間短縮のため、生地の両サイドから一気に切り分けます。時間と、生地と、人間との競争!?


スケッパーで切り分けた生地は、打ち粉をした台の上で細長く伸ばし、とじ目を上にして、キャンバスに並べて二次発酵へ。生地が柔らかいので、伸ばすのは簡単・・・かと思いきや、綺麗な棒状にならず案外難しい!力で無理に伸ばそうとすると、生地を痛みつけてしまうので、あくまで優しく丁寧に生地を伸ばします。

なるべく生地を痛めない成形の仕方が、イタリアパン特有の優しい食感を生み出します

伸ばした生地にはしっかり粉をつけて、キャンバスに並べます


二次発酵を終えた生地は合計130本!!まさにパン屋さん並みの数です。これだけの数をこなせるようになったのは、今までの講習で頑張ってきた努力の成果でしょうか。
220℃に温まった石窯は準備OK。いよいよ焼成に入ります。窯の中からは、程なくしてオニオンとガーリックの芳ばしい香りが漂ってきました。
窯に入れてから20分・・・黄金色に焼き上がった玉ねぎパンの完成です!


焼き上がりのパンからは、パチパチ・・・というおいしそうな音が!





2つめの課題は、お待ちかねの大型パン「Pane Agreste(パーネ アグレステ)」。“田舎者のパン”という名前の素朴なパンです。材料は、粉・水・塩・酵母だけの極めてシンプルなもの。材料の味が前面に出るので、粉はグラハム粉、石臼粉、外麦、国産小麦の4種をブレンドして使います。
家でも、色々な小麦粉を使い分けたいもの。でも、心配なのは保存の仕方。湿気の多い夏は、特に気になりますが・・・。

「保存には、梅干しをいれる素焼きのツボがいいですよ。容器の表面が呼吸をするので、余分な湿気を逃がしてくれるんです。パン作りは水の温度・粉のたんぱく量・・・など複合的な要因で出来上がりが全て変わってきます。東洋がパン文化じゃないのは、水質と湿気が問題。粉の保存と同じように、水にも工夫が必要です。日本の水は塩素量が多く、phが低いので、一回沸かしてからレモンかヨーグルトを足して使うと、ph値が上がって上手にパンが作れますよ」

なるほど・・・同じ配合で作っているようでも、日本で食べるパンと海外で食べるパンの味が異なる理由がよくわかります。でも、逆に海外の水だと、ごはんや味噌汁など日本食にはあわない・・・というのも面白いところ。食と風土の結びつきを考えさせられます。

さてさて、勉強になったところで、大型パンの生地作りです! 小麦粉にセミドライイーストと酵母、水を加え、軽くミキシング。さらに塩水を追加したら20分ほど、ミキサーにかけてゆっくり捏ね上げ、小さな気泡をしっかり作ります。 捏ね上げが完了したら、生地を打ち粉した台に取り出し、ビニールを被せて30分ほど発酵させます。

油が入っていない生地ですが、低速でゆっくりしっかり混ぜることで生地は強くつながります

一次発酵を終えた生地。むっちりとした弾力があり、表面はつややかで、やわらかな発酵臭がします





発酵させた生地を2kgずつ分割し、両手の甲を使って台の上で優しく転がし、とじ目を下にして丸く成形します。今回は、パンのおしりに、石臼引き粉使用の証明シールを貼りました。このシール、なんと水をつけてパンにペタッと貼って焼けば、そのまま焼成できてパンと一緒に食べることができるのです。これで、“田舎もののパン”も、“血統書付きのパン”に変身!

2kgの大型パンは、両手にずっしり。なかなか家ではできない貴重な体験です

ジャーン!これが、石臼挽きパンの“血統書”になります


50分間、二次発酵を取った後、シールが付いている部分をひっくり返し、ナイフで切れ目を入れます。
220℃に温めたオーブンに入れ、焼成にかけます。今回は大型のパンなので、焼成時間はたっぷり50分。
さてさて、この時間を利用して、先に玉ねぎパンの試食を行うことにしました。

ナイフで切り目をいれて、いよいよ窯の中へ・・・。おいしく焼きあがりますように !!





130本の玉ねぎパンに、2kgの大型パン。暑い中での大仕事を終え、さすがにお腹もぺこぺこ。ヴェネツィアのカーニバルにならって、つめたーく冷やしたワインを並べ、玉ねぎパンは豪快に一人一本を丸かじりで食べました。パンとワインには、やっぱりおいしい料理 !今回も、パナデリアスタッフお手製のイタリアンメニュー。チキンやサラダ、チーズやドライフルーツのコンポートなどパンにぴったりの料理が食卓を彩ります。 焼きたての玉ねぎパンは、カシュッ!というクリスピーな食感のクラストが香ばしい。歯切れの良いクラムを噛み締めると、ローストオニオンの香りがフワーッと口に広がります。スパイシーな味わいに食欲が刺激され、まさに夏にぴったりのスタミナパンです。



玉ねぎパンは、豪快に齧って丸ごと1本ぺろり!





全3回のイタリアパン教室を終え、生徒のみなさんもすっかり打ち解け、試食をしながら話も弾んでいる模様。ゆっくりじっくり熟成をかけて、優しく成形し、焼き上げはおおらかに・・・。イタリアパンを作っていると、こちらの心も広く穏やかになっていくよう。皆さんの様子を見ながら、イタリアパン作りは、ストイックに作ることで完結するのではなく、あくまで「おいしく食べる」こと、「パンを通じてコミュニケーション」するということが目的なのではないかな、と思いました。

日本ではまだ、本格的にイタリアパンを作っているお店は多くはありません。パオロ先生は本場イタリアのパン技術を伝える、貴重な人物。

「私は、沢山のパンを作りたいわけでも、沢山のパンを売りたいわけでもありません。日本ではまだ、パンは“おやつ”のように認識されている部分があるけれど、パンは立派な食事。日本でも、おいしいパンがあるから、おいしい料理を作ろう・・・と思ってもらえるような、毎日の食卓を豊かにする存在になって欲しい。そんな想いを込めて、イタリアパンを作り続けています」

パオロ先生がイタリアパン以上に愛情を注ぐもの・・・それは、愛娘のミホちゃんです!




パオロ先生の熱い想い、そしてイタリアパンのおいしさと技術を、しっかり心と頭と・・・そして胃袋の中に収めた、生徒さん達。ここからすばらしいイタリアパン職人が生まれ、いつかパナデリアで取材できる未来に期待しつつ、今回のイタリアパン教室を終了しました。みなさん、そしてパオロ先生、アシスタントの有見先生、本当にお疲れ様でした!



【今回作ったパン】

玉ねぎパン
Filoncini alle Cipolle Tostate 


大型パン
Pane Agreste