昨年、パナデリアでは会報でライ麦パンを特集。その時、取材でお世話になったほとんどの職人から「ライ麦パンだったら、伊豆のダンケの杉山さんに聞いてみたら」と言われていた。

そして今回、年末年始の休みに思い切って車を走らせ「ダンケ」を訪ねてみた。山小屋風の外観、周りは山にかこまれ空気がおいしい。わかりにくい場所とはいえ、ひっきりなしにお客さんが来店する。アイテムもドイツパンだけでなく幅広いジャンルで揃えている、やはり目を引くのは大型のドイツパンだった。


早速、杉山さんに聞いてみた。
「ドイツパン、特にライ麦パンに絶対必要なことは、サワー種、水、そして道具かな」
職人の確かな技術を支える道具、オーブン、ミキサー、粉挽き、厨房を案内していただいた。どれもピカピカに磨いて手入れされている。特にワーナフライダー社のオーブンは全面のガラス、周り、炉床まできれいにされ、いかに大切に扱っているかがわかった。
「そろそろ、ホイロが終わってオーブンにパンを入れるから見てって」
型物のロッゲンシュロートなど何種類かがラックで運ばれてきた。
オーブン下段の炉床が手前に引き出されて来た「えっ」フランス系のオーブンにはない光景だ。そこへそっと型に仕込まれたライ麦パンが手早く置かれていく。
「ここは、今でも俺しかやらないんだ」
ゆっくりとオーブンに炉床を入れ蓋を閉じる、瞬間、ジュワッと蒸気が注入される。すごい量だ、
「ライ麦パンにはこれが重要なんだ」「水は水道水だとカルキが入ってだめ」「横のダンパ見て」
作業をしながら説明が入る。機械ものが好きという杉山氏、厨房内の粉用のダクト、設備など出来る限り自分で作るそうだ。
店売り30、外販70という体制を支える工房はとても広い、作業場もブロック化され、使いやすい配置。ドイツ職人の質実剛健さをそのまま表現しているような厨房であった。


手作りのダクト


「これ、食べてみて」「1週間ぐらい前焼いたロッゲンだけど、どうぞ」
6mmほどの厚さにカットされたパンを口へ、いい香りとともに旨みがジワッと広がる、きつい酸味もなくクラストのバランスもいい。なにより気泡が乱れなく全体に均一なのに驚いた。100%ライ麦のパンはどうしても下のほうの目が詰まるのが普通だ。こんなところに職人の確かな技術が光っていた。
「ここは、水が美味しいんだ」
この水がないとこのパンは出来ない。もちろん、粉も重要だ。
「種を起こすのには挽きたてのライ麦が必要です」
ここの粉挽きはドイツのマイスターから譲り受けたものだ。かなり使い込まれた感じの機械だが、しっかり手入れされ、お手製のダクトやら掃除のためのコンプレッサなどすべてが揃っていた。



杉山さんの冗談まじりの会話に巻き込まれながらの数時間。職人のこだわりが随所に見られ充実したときをいただいた訪問となった。別れるとき「あとどれくらいで焼き上がりますか」と、先ほどオーブンに入れたパンのことを聞いてみた。
「いや、まだまだ当分かかるよ」「できたら、送るから」
という言葉を背に帰路についた。 翌日、宅急便でパンが届いた。焼成後3日目ぐらいが美味しいとの教えのとおり、すぐに 食べたかったがじっと我慢。もう一日おいてから食べることにした。


セザム ロジーネン シュタンゲン  
¥367

ゴマの香りが食欲をそそる。レーズンの甘みとライ麦の入るやや引きの強い旨みのある生地とのバランスがいい。口の中でプチプチとゴマがはじけるたびに、クラストの香りと生地の美味しさのハーモニーを楽しむことができる。クリームチーズなどやベリー系のジャムとの相性もぴったり。
ロッゲンシュロート  
¥567

これぞライ麦パン。しっとりした生地にかりっと焼き上げられたクラスト、周りにつけられた粗挽きの自家製粉ライ麦粉が香ばしい。口に運ぶと、すぐにガツンとした旨みがいっぱいに広がる。ゆっくりと咀嚼していくうちに味噌にも似た香りと旨みのある塩味がすべてを包み込んでいく。おいしい肉料理を食べている感じだ。

フロッケンブロート
¥609

ロッゲンよりさらに旨みが強い気がする。しっとりした生地の中にライ麦のフレークが入りとてもいい食感を出している。もちろんその旨みもいっしょに味わうことができる。 見るからにもそもそしそうな外見だが、口の中ではけっしてそんなことはなく旨みの 洪水状態となる。サラミや香りの強いソーセージなどとの相性がいい。


ラインザーメン ロジーネ フォルコン ブロート   
¥787

ライ麦パンにこんなにたくさんのレーズンがどうやって入るのだろうか。ライ麦パンを作るとき、とても大変な作業とも言えるのが生地を捏ねること。とても粘つくので、手でやろうとするとべたべたつきまとい、始末におえないものだ。これにこんなレーズンをどのようにしていれたたのか、一度聞いてみたい。しっとりしたレーズンとやや酸味のある生地、外側のかりっとしたライ麦フレークが香ばしくはじける。見た目に反して、ぼろぼろとせずしっかり調和した美味しさを味わえる。 カリフォルニアレーズンベーカリーコンテスト、鉄人大賞を受賞した逸品。


ミッシュブロート   
¥399

とても軽い仕上がりというのが第一印象。気泡がしっかり均一に入る。酸味はほとんど感じなく、サワーの香りがさらさらと鼻へ抜ける。やや厚めのクラストに軽いクラムの組み合わせ、とてもライ麦60%と思えない。なんといっても食べやすい。8mmぐらいの厚さにカットして、さっとトースターで焼きバターを塗ってもおいしい。





住所 静岡県田方郡大仁町三福637
TEL0558-76-8777・1151
FAX0558-76-6270
営業時間平日 10時〜18時30分
土曜 10時〜16時00分
定休日日曜・祝祭日
URLhttp://www.backerei-danke.com/index.html




休みに何本か映画を見た。
「戦場のピアニスト」のクライマックスで荒れ果てた戦場の廃屋で、隠れていたユダヤ人がドイツ軍将校に見つかってしまうシーン。将校はそのユダヤ人がピアニストだと知ると演奏してみるように言う、演奏に感動した将校はこのピアニストを助ける。食料もない廃屋での生活を想い、演奏の御礼に差しいれたパンはロッゲンブロートのようだった。それにラズベリーのジャム。さぞかし美味しいものだったに違いない。