アラン カスケビッチ

Alain Kaczkiewicz 氏



20年前にフランスから東京に。「ドンク」で腕を振るっていた。さぞかし腕のいい職人だったろうと、店に並ぶケーキやチョコレート、焼き菓子を目にして口にして思う。ドンク時代は北海道や京都などなど日本各地を見てまわったそうだ。そして14年前神戸三宮で独立。アラン・カスケビッチ氏、名前がそのまま店の名前、現在は神戸御影に、ろうそくの立つ可愛いひさしの店を構える「アラン カスケビッチ」のオーナーパティシエである。

三宮から御影に店を移したのは今から4年と少し前。震災の起こる2ヶ月前のことだ。
三宮と御影のお客さんの違いはありますか、とうかがったところ、大きくうなずいて答えが返ってきた。「三宮の人は忙しそう、こっち(御影)の人はのんびりしている」。その結果、焼き菓子が以前より売れるようになったという。
それでは日本とフランスというグローバルな視野でのお客さんの違いはどうだろうか。「フランスは口から、日本は目から」。フランス人はまず味ありきだが、日本ではまず食べてもらうため、買ってもらうために見た目が大事だと実感しているそうだ。そして実のところこれが14年経った今でも一番アラン氏が頭を悩ませているところでもある。特に関西は東京より美しいデコレーションが要求されるエリア。「デザインは大変ね!」と笑って西洋人独特の首をかしげて両手のひらを上に向けるポーズが飛び出した。とはいえ、アラン氏の作るケーキはどれも美しい。努力の甲斐あってなのか、充分目をひくデザインである。

味や素材はかたくなにフランスを追求しているのだろうかと思いきや、日本の粉や卵の品質の高さを評価して使用している。発酵系のバターも使用していない。日本の素材の清潔さや一年を通しての品質の安定は素晴らしいとのお言葉をいただいた。
そして「フランスの味を再現するのは絶対無理ね。完全に同じ素材は絶対に手に入らない」と実感こもったお言葉も。たとえ手に入ったとしても気候を始め風土が違うということも言葉の裏にはあるだろう。実感こもったその言葉に、14年間このお店と共に日本の空気を吸って味を作ってこられた氏の歴史が感じられた。


ケーキや焼き菓子もさることながら、チョコレートにはことさら力を入れているように感じられた。何種類ものチョコレートをブレンドして味の研究には余念がなさそうだ。バレンタインデー向けに作られた魚の形の「サーディーヌ」はフランス系のお菓子やさんにしか置いていないような品である。


さりげなくフランスしているセンスのいい店「アラン カスケビッチ」。作る味は日本人好みにアレンジしているとはいえアラン氏自身の舌はまだまだフランス仕込み。甘さの強さをはじめ味の濃いものが好きで、味噌汁やご飯にも塩やコショウをかけてしまうという。イエスノーもはっきりした性格だ。「新しい職人を入れるなら即戦力となる人より何も分からない真っ白な状態から人がいいね」という一面も。日本のお菓子を客観的に見ている、数少ない職人さんである。

取材日 1999年