成城アルプス 

太田 秀樹 氏

家業だから、子供の頃からいつかはこの仕事を継ぐんだとは思っていました。学生時代、特に他にやりたいこともなく、ワーキングホリデーでカナダに行ったとき、「帰ったらやるぞ」という気持ちになっていました。振り返ってみると、父親の仕事が嫌だと思ったことは一度もありませんね。

最初、調布の『スリジェ』で3年お世話になりました。実は、3年くらい他の店で修業すれば戻ってきてもできるかなと思っていたんです。でも、実際はじめてみると、3年じゃとてもだめだと思わされましたね。やっぱり技術じゃないですか、ケーキを作るのって。腕が大切なんです。きちんとした腕前でなければただの2代目で終わってしまう。そう思ったときから必死で学びましたね。『スリジェ』のあと国立の『レ・アントルメ』で2年。それから半年間ヨーロッパに行く準備をし、フランスに2年、スイスに1年行ってきました。そして父親の店であるこの『成城アルプス』に戻ってきたんです。
戻ったとき、色々迷いました。
それまでのお菓子の味を変えるか、変えないか。
商品構成を変えるか変えないか。

古くからのお客様も大切です。でも、新しいお客様に合うお菓子も作らなくては、店がいい意味で老舗として残っていくことができなくなってしまいます。結果、ショートケーキやモンブラン、シュークリームなど、昔ながらのお菓子にはまったく手を加えていません。昔通りのレシピです。よく考えたら、自分が子供の頃好きだったお菓子ですからね。でも6割のお菓子には手を加えました。お客さんが好むお菓子ばかりを作ってきたけれど、これからは専門店らしく、「これはどうですか」とこちらから言えるようなお菓子があってもいいと思うんです。そんな中で、お客さんも一緒に成長することもできます。この選択は間違っていなかったと思っています。

ヨーロッパでは、お菓子の原点を見た気がしますね。帰って来て、「このお菓子は、本場ではこういう風に作るけれど、自分はここをアレンジしてこういう形、味にした」ということが堂々と言えるようになったんです。これは本当に自分にとって大きな進歩で、新しいお菓子も、この信念を持って作ったからこそすんなり受入れてもらえているのかとも思うんです。

僕は子供のときから3日に2日はケーキを食べていました。だから、お客様がケーキを「特別な日に食べるもの」と捉えているのか、「日常に入りこんだもの」として捉えているのかが分からないんです。実はこれが僕の弱点だと思うんです。これからは今まで以上にお客様に接しながら、より専門店らしい店にしていきたいですね。伝統は、守っていればいいというものではない。100年、200年と名店でいるためには、店もケーキも進化しなくちゃいけないですから。

取材日 2001年10月











成城アルプス
世田谷区成城6-8-1
TEL:03-3482-2807

太田さんの秘密