オーバカナルには、何か特別の魅力があるように思う。
パリを思わせるオープンスタイルのカフェ、黒で決めた粋な男性のギャルソン、壁に貼られたフランス映画のポスター・・・。今はなき原宿のオーバカナルは、それまでの日本になかったカフェのスタイルとエスプリとで瞬く間に私たちを魅了した。今や珍しくなくなったカフェスタイルの先駆けとして、特別な思い入れがある方も少なくないだろう。




現在、展開しているのは赤坂、紀尾井町など合計5店舗。今回は、ブーランジェリー専門の大崎店で、ブーランジェリー シェフを務める金子英史さんにお話を伺った。金子さんは、大崎店のみならず、全店舗のパンの監督を任される立場にあるという。

「最初はパティシエを目指していたんです。実家が和菓子屋なのですが、その関係もあって自然とお菓子の道を選びました」


岐阜県出身の金子さん。パティシエを目指し、都内にあるパティスリーの名店で学び、パティシエ街道をまっすぐに進むはずだった。が、次第に興味はパンへと移っていった。

「パティシエでもヴィエノワズリーを作るので、元々パンに興味はあったんです。実際に店で作るようになって、はまったという感じですね。理由ですか?お菓子と違って、パンは作業を止めることが出来ないもの。ライブ感というんでしょうか。それが、すごく好きなんです。その分失敗も多いですが、作っていて楽しい。やりがいがあるんです」


パンはいったんスタートしたら最後、時間と温度との戦いである。そして、生地が主体となるため、失敗は許されない。日々真剣勝負、それを楽しむ金子さんの姿が印象に残った。





店内の品揃えを改めて眺めると、ヴィエノワズリー系の美しさが特に目を引く。バターと粉の旨みを引き出す濃い目の焼き色、層が空気を含みフワッと膨らんで生まれる適度なボリューム感。力強さの中に、繊細さを感じさせるそれらは、パティシエの腕を持つ金子さんならではのものなのだろう。

「そうですね。やっぱりヴィエノワズリーは自分でも好きなんですよ。クレームパティシエールを使った『ダノワーズ・パティシエール』は女性に人気がありますね。それから『ショーソン・オ・ポム』のリンゴのピューレは、フランスから仕入れたものを使っています。そうしないと、1年中同じ味が出せないんです」

日本ではなかなかお目にかかれない、パルミエやシューケットも人気の商品だ。

ダノワーズ・パティシエール
ブリオッシュ・シュクレ(\210)ダノワーズ・オランジュ(\220)


味作りにもこだわりがある。オーバカナルでは、全商品に“バカナル専用粉”を使用。製粉会社が特別に配合したブレンドだ。さらに昨年秋からは、これもバカナル専用の石臼挽きの小麦を使うなど、粉へのこだわりも強い。石臼挽き粉は、特にバゲット類を始めとするハード系パンに使用されている。

「石臼で挽くと、皮や胚芽の部分も一緒に粉末にされるので旨みの強い粉になります。とてもおいしいですよ」




確かに、長時間発酵のアンシエンヌは、非常に旨みがあり力強い味わいだ。粉の旨みと食感を最大限にいかす、まさにライブ感を大切にする金子さんならではの作品なのだろう。

「粉によっては、生地がダレたり、グルテンが弱かったりして扱いが難しいものもあります。それから、店舗によって窯が違うので、当然焼き上がりも変わってきます」

ちなみに、大崎店では『ダーレーン』というスウェーデン製の窯を使っている。

パン・ド・セーグル・小(\189)


店内には、ハード系、ヴィエノワズリー、キッシュのほか、サラダやカスクルートの種類が充実している。お腹をすかせて行ったら、あれもこれもと買いすぎるのは必至だ。原宿店から変わらない定番類のほか、常に新しい商品も登場している。

「これからはシリアルやハーブ系のパンなども作ってみたいですね。ケーキ類も増やしていければと思っています」

ランチタイムにはもちろんだが、夕方にはOL、週末には近隣の住民が自宅用のパンを買いに訪れる。



オーバカナルの魅力に隠されているもの。それは、パン作りを楽しむ職人の姿なのかもしれない。 雰囲気を裏切らない真のおいしさこそがオーバカナルの魅力ではないだろうか。




オーバカナル 大崎店
住所 東京都品川区大崎1−11−1 ゲートシティ大崎B1
TEL/FAX03-3494-6441
営業時間11:00〜21:00
定休日なし
URLwww.auxbacchanales.com
備考★ 他に赤坂店、紀尾井町店など。店舗によりメニューが変わりますので、ご確認下さい。