「ドイツパンを作る職人」と聞いてどんなイメージを抱くだろうか。頑固、質実剛健・・・。おそらくそんな言葉が浮かんでくるだろう。しかし、今回お話を伺った『エッセン』の冨田明宏さんはそんなイメージを覆すような優しく温かみのあるシェフだ。何がきっかけでドイツパンの世界に入ることになったのか、ご自身の経歴について伺ってみた。  




冨田さんとライ麦パンの出会いは、アニメ「アルプスの少女ハイジ」だった。ハイジがおじいさんと山の家で食事をしているシーンはご記憶の方も多いだろう。

「トローリと焼けたチーズをのせた黒パン(ライ麦パン)を食べる、あのシーンがとても好きでした。そのたびにライ麦パンを食べたくて食べたくて・・・。ハイジが白パンに憧れていたように、私はライ麦パンを食べたい!と幼心に思ったものです」

給食用のパン製造業を営む父親の元で育った冨田さんだが、父親と全く同じ道には進まなかった。工場で大量生産するパンではなく温かみのある手作りパンを作りたかったからだ。そのため個人のパン屋で、との思いからつくば市の『モルゲン』で修業を積んだ。そして、たまたま修業した先がドイツパンを扱っていたことから、ドイツパンとの関係が深まっていくことに。

「『モルゲン』で初めてライ麦パンを食べました。比較的軽いタイプのもので、とても美味しかった。年を重ねるうちにどこかに置き忘れていた、幼少期のライ麦パンに対する憧れを思い出しましたね」

店の雰囲気も全く違っていた。ライン生産している工場と比べると、各人の仕事に対する責任感が強く感じられる。厨房は活気と熱気で溢れていた。

その後ひたちなか市のパン屋勤務を経て、1995年に『エッセン』をオープン。ドイツ語の看板は掲げたものの、フランスパンや食パン、菓子パンなどの小麦パンが中心だった。ライ麦パンは自分の趣味として1,2種類置ければいいと思っていた。当初は「ライ麦パンは固い」と言われることも多かったという。それでもライ麦パンを作り続けることで徐々に支持されるようになっていった。

「うちで扱っているライ麦パンはほとんどが配合率3割以下のもの。それより高いと重い食感になってしまう。ライ麦の風味を残しつつ食べやすさも考慮した結果です。ライ麦初心者の方には、ふんわり軽くて甘い「素朴なライ麦パン」なども用意していますよ」



そして冨田さんにはもうひとつの顔がある。それは2001年から始めたネットショップ 。

「きっかけはパソコンを購入したことでした。独学でホームページを開設。それに合わせて通信販売を始めることで、水戸以外にも全国のお客様の意見を聞いてみたいと考えました」

ネット販売の特徴である顔の見えないお客に対する配慮も忘れない。毎月希望者向けに メールマガジンを配信、美味しいパンの食べ方や新作紹介、パンの豆知識などを提供。例えばライ麦パンなら「ライ麦パンはトッピングして食べるのがドイツ流の食べ方。バター、ハム、チーズ、卵料理などをのせて気軽に食べてみてください。」など、食べ方のアドバイスも行っている。冨田さんの近況や日々の思いなども綴られている点も興味深い。そんな顔の見えるパン屋さんに魅力を感じている人も多いのだろう。

(*2004年9月現在、作業工程などのリニューアルのため、ネットショップは一時的に休業しています。)



現在、パン作りは冨田さんを含めて2人。店頭に並べるパンとネットショップ用のパンの製造、そしてホームページのチェックやメールマガジン配信など毎日大忙しだ。いったいどんなハードな生活を送っているのかと心配になってしまうが、

「オープン当初は4時起床でした。それがだんだん早くなって今では3時。仕事は慣れてきたものの、早めは早めに済ましておかないと心配なんです。お客様がいらしてくれた時にきちんと商品を並べておかないと。」

と優しい笑顔を見せてくれた。

水戸でライ麦パンを広めたいという思いと、お客に対するサービス精神を忘れない冨田さん。思いやりある人柄がそのまま現れているパンを手にした時、皆が幸せな気持ちになることは間違いないだろう。

    






住所 茨城県水戸市柳町2−3−20
TEL029−233−7525
営業時間9:00−19:00
定休日木曜日
アクセスJR水戸駅よりバス「柳町一丁目」下車
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