六本木の喧騒を忘れさせる、シンプルさと上質が漂うロビー。ラグジュアリー、洗練・・・。そんな言葉が似合うのが、六本木ヒルズの一画を構成するホテル「グランド ハイアット 東京」だ。 数あるホテルの中でも、食へのこだわりが強いことで知られる「グランド ハイアット 東京」には、10のレストラン・バーがある。そして、そのレストランの料理に負けない評判の高さを誇っているのが、パンである。今回は、ホテル内で提供されるパンを一手に任されている、ベーカリーシェフの本田修一さんにお話を伺った。 |
案内されたのは、ホテル6Fにあるステーキレストラン「オーク ドア」。広いダイニングの奥を占めるウッドバーニングオーブンの中では、パチパチと薪が爆ぜ、真っ赤な炎が揺れている。その隣にずらりと並んでいるのは本田さん自慢のパンだ。
「オーク ドアでは、メインの『オーク ドア サワーブレッド』のほかに、ステーキサンド用のバンズなど全部で4種類のパンを用意しています。おかげさまで、とても好評をいただいていますね。それから、イタリアンカフェやペストリーブティック、婚礼などのパーティのパンも作っています。一日に仕込む量は、少ない日で100kgくらい、年末などパーティの多い時期になると200kgを超える日もあります」 「オーク ドア サワーブレッド」は、オープン以来の定番で、ウッドバーニングオーブンでパリッと表面を炙ってからテーブルに供される。北海道産小麦を使用した、味わい深さとしっとりとした食感が魅力で、2個3個とおかわりをするお客様も珍しくないという。 |
シェフの本田修一さんは、現在37歳。頼れる兄貴分といった雰囲気を身にまとい、常に人を楽しませる気配りを忘れない。 「実家がパン屋なんです。幼い頃から父の背中を見て育ったので、その影響は大きいですね。でも実は、父親にはずっと、『パン屋にはなるな』と言われて育ったんです。やはり、パン屋の厳しさを知っていたからでしょうね」 本田さんのお父さんは、今もパン屋を営む生粋のパン職人。かわいい息子に苦労をさせたくない、そんな親心だったのだろう。だが、そんな想いとは反対に本田さんはパン職人への道を選択した。 「調理系の仕事をしたいとずっと思っていたんです。高校後、パンの専門学校があることを知って、入ることを決めました。父ですか?それが、反対するどころか、大喜びで学費を出してくれました(笑)」 本田さんいわく、頑固ものだというお父さん。ひたむきにパン職人を続けてきたからこそ、自分の反対をよそに、同じ道を選んでくれた喜びはひとしおだったのだろう。 学校を卒業すると、本田さんは品川プリンスホテルに入社した。そしてここで、本田さんのパン作りに大きな影響を及ぼす、ある人物との出会いがあった。パンだけでなく、料理、お菓子まで幅広く取り組むことで知られる、「アンジェリーナ」の隅章氏である。 「発想力がすごいんですよね。元々は料理人だし、お菓子もできる。パン業界で、ああいう人は珍しいんじゃないかな」 パンは独立したものではなく、料理と一緒においしく食べるもの。そんな考えのもとに、生み出される隅氏のパンは柔軟で楽しさに溢れている。パン・料理・菓子の垣根を取り払い、とにかくおいしいものを追求しようというその姿勢は、この時期に本田さんの中に形成されたようだ。 |
プリンスホテルで、パンの楽しさを学び、順調にホテルベーカリーでの地位を築いていく本田さん。だが、ここで運命のいたずらが。ホテル業界から一転、実家のパン屋を手伝うことになったのだ。 「父親が身体を壊してしまったんです。1人で続けるのは大変なので、店を手伝うためにホテルを辞めることにしました」 高級感が求められるホテルのパンと町のパン屋さん。本田さんにギャップはなかったのだろうか? 「私が『こういうパン、作ってみたら?』ってハード系のパンを勧めても、『そんなの作れない』と一蹴。うちの父親ってすごく頑固なんですよね。その上、自分も頑固だから、お互いに譲らなくて(笑)」 頑固な職人が2人に増えた店内には、お父さんの作る今までのパンと、本田さんの作る新しいパンの2種類が並んでいたという。 「当時は、店で売るだけではなく、幼稚園の先生を相手にパンを売りに行ったりしていました。結構評判が良かったんですよ」 大きなホテルという仕組みの中では、どうしても作り手と食べ手に距離感が生まれる。今までとはまったく異なる、食べ手との密接な関係を通して、本田さんは本当に求められているパンがどんなものかを体得していった。 |
そうこうするうちに、お父さんの体調は回復し、本田さんはホテルの世界に復帰することになった。ディズニーシーの「ホテルミラコスタ」ではスーシェフを務め、その後はレストラン界へと進出。フレンチの名店「オテル・ドゥ・ミクニ」の幕張店および池袋東武店のシェフとして、レストランとブティックのパンを任された。その当時のスペシャリテ「フォアグラデニッシュ」は、色々な雑誌に取り上げられ、お客さんが殺到したという。 「四季折々のアイテムを考えて、三國シェフにプレゼンテーションするんですよ。変化や見た目の面白さが要求されるので、工夫が必要。インパクトがあるもの・・・と考えて、頭付きのウナギをパンにサンドしたものも考えたんですよ」 残念ながら、ウナギパンは三國シェフのOKをもらえず、幻と消えたそうだ。だが、ここでもいわゆるパンという概念を打ち破り、料理に一歩近いジャンルを開拓していった。 その後、本田さんは、「グランド ハイアット 東京」のベーカリーシェフを任されることになる。ホテルのオープニング時から始めて、今年で4年目を迎えた。 「ここでは、料理と一緒に味わうパンがメイン。だから、レストランのシェフと話す機会は多いですね。例えば、『ジャガイモを使ったパンはできないか?』というような提案を受けることもあるんです。そういう場合は、試作したパンをシェフにプレゼンテーションし、『皮がもう少しパリッとした方が良い』とか、『甘みがほしい』といったコメントを受けて、さらに試作を重ねます」 おいしいパンは、料理をさらにおいしく豊かにする重要なアイテム。シェフ間で共有されている食に対する意識の高さが、より素晴らしい食を生み出す。 「料理はパンがおいしくなければ台無しだと思うんです。ひと昔前は、レストランのパンというのはあまり重要視されていませんでしたが、最近は自分で焼いたりする店も増えていますよね」 料理は文句なくおいしいのに、パンを食べてがっかりする。そんな経験は誰でもあるのではないだろうか。最上の料理人と最上のパン職人が作り出す、食のコラボレーションがここでは繰り広げられているのである。 |
さらに、クオリティに対するこだわりも強い。
「素材については、値段が高くても良いから、とにかく質が良くて味の良いものを選ぶようにしています。例えば、グランド クラブ ラウンジ(グランド クラブ ルーム 又はスイートルームを利用するお客様のための専用ラウンジ)でお出ししているピスタチオ入りのパン・オ・ルヴァンの場合は、1kg 7500円以上するピスタチオを80g入れているんです。これもホテルだからできることかもしれませんね」 さらに、本田さんといえば有名なのが、小麦粉に対するこだわりだ。 「国産の小麦はほとんどのパンに使っています。なんといっても、気に入っているのは風味の良さ。ただ、国産小麦の現状として、劣化が早いという弱点があります。でも、ここでは焼き立てをすぐ提供できるので、お客様には最高の状態を召し上がっていただけると言う訳なんですよ」 「オーク ドア」の定番「オーク ドア サワーブレッド」には北海道産小麦の「タイプER」(江別製粉)、「フレンチ キッチン ブラッセリ- アンド バー」でサーブされる「カンレミ」にはフランス産の小麦粉「カンレミ」(奥本製粉)というように、ほとんどのパンに旨みの強い小麦粉を使い、酵母はその粉の風味が引き立つように、ブドウから起こしたルヴァン種を使っている。 だが、実はここに問題がある。国産やフランス産の小麦は、味は良いが扱いが非常に難しい。日によって、また人によって出来上がりに差が生じやすいのだ。しかし、ビジュアルにもクオリティが必要とされるホテルでは、おいしいけど形が良くないでは通らない。味と作業性のバランスを見極めたレシピ、そして何より技術力が不可欠となる。 「9人で作っているので、どうしてもバラツキが出やすいんです。だから、シェフたちに『毎日同じ顔のパンが焼きあがるね。これは、すごいことだよ!』と言われるのが、すごく嬉しいですね」 |
本田さんのパンの魅力は、ハード系だけではない。枠にとらわれない楽しいパン、そして食べ手の気持ちをわかる本田さんだからこその商品がある。その1つが、「フィオレンティーナ ペストリーブティック」で販売されている「カレーパン」だ。 カレーパンといっても、ただのカレーパンではない。ホテルらしさをしっかり打ち出そうと、贅沢にも味の良い和牛をミンチにしてじっくりと煮込み、チェダーチーズとパルメザンチーズでコクを加える。パン生地にはリッチな菓子パン生地を使い、バターたっぷりのブリオッシュのパン粉をまぶして焼き上げる。口に入れると、軽いパン粉がサクサクと音を立て、カレーのコクに生地の甘さが心地良い。牛肉の甘みが口いっぱいに広がり、フンワリとチーズのコクが残る味わいは、さすがホテルと唸りたくなる上品さだ。 こんなふうに、本田さんのアイデアの元はいくらでもある。というのも、必要な食材は和洋中を問わずホテル内のレストランから調達できるからだ。まず、おいしさありき。そんな芯の強さと柔軟性が、本田さんの作るパンの美味しさの源になっているのかもしれない。 |
「パンは生ものと同じ。刺身と一緒ですよ」
と本田さんは言う。売る側、買う側にも高い意識をもって欲しい、パンを愛するからこそ、素材、技術、そして食べ方に至るまで、その思いは強い。 「今はすばらしい環境にいると思います。ホテル側もお客様もパンに対する意識が高いので、やりがいがあります。とにかく何にでも挑戦していきたい、そう思っています」 終始穏やかだった表情が引き締まった。 本田さんのパンは常に食事と結びついている。テーブルを豊かにする本当のパンの意味を知っているからこそ、生まれる味わいなのだろう。 実家である町のパン屋、ホテル、そしてレストランで感性と技を身に付けてきた本田さん。日本を代表する最高の舞台で、これからも素晴らしい活躍をしてくれるに違いない。 |
グランド ハイアット 東京 |
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住所 |
東京都港区六本木6-10-3 |
TEL | 03-4333-1234(代表) |
「フィオレンティーナ ペストリーブティック」から新商品のお知らせです。 9月1日より、「フィオレンティーナ ペストリーブティック」から続々と新商品が発売になります。 中でも、注目は“オコッペファーム クリームプリン”!“オコッペ”とは、オホーツク海に面した北海道の興部(おこっぺ)の町のこと。人よりも牛の数の方が多いという、自然の豊かなこの町でのびのびと育った牛から採れる牛乳は、口に含むと牧草の清々しい香りがして、コクがあるのに後味はさっぱり。ほかでは味わえない、おいしさです。 実は、先日、パナデリアも興部を訪れ、オコッペ牛乳のおいしさを堪能してきたばかり。あの味わいが、プリンになるなんて夢のよう!みなさんも、ぜひお試しください。 《9月1日発売開始》 オコッペファーム クリームプリン \840 イタリアン モンブラン \525 《9月15日発売開始》 マロングラッセ \1,575 《10月1日発売開始》 りんごのシブースト \630 |