『ブーランジェリー ラ・セゾン』は、今年の6月、代々木公園にほど近い参宮橋にオープンした。バゲットを飾ったカゴやおすすめがわかる黒板、そして温かみのあるオレンジを使った店構えは、入る前から"おいしそうなパン"を期待させる。
中へ入ると、表情の豊かなハード系や上品な惣菜パンがバランスよく並ぶ。「あ!これ、おいしかったのよね」と話しながら、次から次へとオーダーする女性たちの姿が目に入った。




「いらっしゃいませ!」
笑顔で挨拶をするシェフの西條友起さん。売り場からパン作りの現場が目に入るよう設計された店内は、日仏商事が全面的にプロデュースしたものだ。

「最初はパン屋になろうとは考えてなかったんです。実家は新潟でパン屋をやっているんですけど、自分は税理士を目指していたんです」
学校を卒業し、一度は税理士事務所に就職した西條さん。血は争えないのか、結局はパンの道を選ぶことになった。




「上京して浅野屋に入りました。実家がパン屋といっても規模も違いますから、パンのことは本当に基礎から勉強しました。実は、入るまでパン屋を甘く見ていたんです。"誰でもできて簡単だろう"なんて思っていたんですよ」
実家とは違い、入ったのはたくさんのパン職人を抱える大所帯。パンの厨房は四谷と軽井沢、板橋の3ヶ所。特に軽井沢は作る数が多く、時期によっては目の回るような忙しさだったという。
「言葉使いなんかで、まず職人の世界を感じましたね。職場全体に活気があって、技術的なことやパン作りへの熱意が伝わってくるんです。すごく刺激的でした」
パン作りや素材などについての勉強をする軽井沢塾にも参加し、次第にパンの魅力に引き込まれていった。




「いつか独立して自分で店をやりたいとずっと考えていて、物件も見ていたんです。もうそろそろというタイミングを感じていたのが去年の夏。そうしたら、この物件に出会って『これしかない!絶対これを逃したら後悔する!』って思ったんです。それからはトントン拍子に進みました。オープンが6月だったじゃないですか、梅雨の最中だったんですよね。それに続く今年の暑さですから、実際は良いのか悪いのかまだ様子がつかめてない状況なんですよ」
とちょっと心配そうな表情を見せる。
参宮橋という場所は、都心にありながらあまり行く機会のない人も多い場所。どのような層の利用者が多いのだろうか。
「この辺はオリンピックセンターや専門学校があります、でも大きな会社は少ないんですよ。実は、場所を決めたときに、この辺はあまり競合店がないじゃないかと考えていたんです。ところが逆に、周りにないせいか渋谷や新宿のパン屋さんを利用されていた方が多いんですよ。これは大変だな、と思いました」
競合相手は一流店揃い、実際はどうだったのだろうか。




「お客様は近くに住んでいる方が多いです。週に何度も来てくれる方が多くて、中には毎朝同じ時間に来てくださる方もいるんですよ。皆さんパンに詳しくて、「餡が少ない」とか「おいしくない」とか結構厳しい意見を言ってくれるんですよね。本当にありがたいことだと思います。やっぱり、お客様と直接会話ができることが一番楽しいですね、。オープンしてみて、本当に楽しいです。」
専門学生などお昼の利用客のため、サンドイッチ類の充実を考えているという西條さん。下町のような温かみのある参宮橋の中で、日々鍛えられているのだろう。




「ラ・セゾンという名前は『四季』ではなく、『旬』という感覚でつけました。ケーキや料理には"旬"が当然ですが、パンにはあまり"旬"が表現できていないような気がするんです。その気持ちを忘れないために、店の名前にしました。もしかしたら、いつの日か、売れているからと言って"夏野菜のデニッシュ"を続けてしまうようになるかもしれない。それを戒めるためなんですよ。
とりあえず3年間は様子を見たいと思っています。目指すのは究極のパンではなく、お客様のためのパン。お客様が良いと思うものが、"良いもの"なんだと思うんです。でも、そうするとどんどんパンの種類が多様化してきてしまって。正直、今はまだ迷いがあります。
将来やりたいこともたくさんあります。この店構えだからか、週末はここをカフェだと思ってくる人が100人くらいはいるんですよ。せっかくの場所をいかしてまずは喫茶をやりたいですね。とにかく今は柔軟に!これから少しずつ色を出して行きたいと思います」
バゲットが好きだからと、7種類のバゲットを揃える西條さん。やわらかい雰囲気の中に、芯の通ったこだわりがしっかりある。ラ・セゾンには食べる側と、作る側がいい関係を築ける雰囲気があふれている。



住所東京都渋谷区代々木4-6-4 エクセレント代々木1F
TEL/FAX03-3320-3363
営業時間7:00〜20:00
定休日月・第3日曜日
アクセス小田急線参宮橋駅からすぐ(左手にあります)