(写真内・一番左が東オーナー)


韓国「toujours」とパナデリアが行く パン・ケーキ屋さんめぐり 2日目におじゃました、キャトル成瀬台店。
オーナーの東さんより、パティスリーの経営・パティシエの育成について、たくさんの興味深いお話を伺うことができた。


キャトルといえば「うふプリン」を思い浮かべる人も多いだろう。地卵の殻を容器に見立てた愛らしいプリンは手土産としても人気が高い。他にも、ふんわり軽い食感が魅力の「とりころーる」や優しい味わいのケーキは、大人から子供まで幅広く愛されている。
今年で創立23年を迎えたキャトル。この間、原宿店、柿の木坂店、成瀬台店、さらにデパ地下にと順調に規模を拡大していった。キャトルの個性とは何なのか、オーナーの東健司さんにお話を伺ったところ、意外な答えが返ってきた。


「他のパティスリーとの差別化は特に考えたことはないんですよ。というのも、自分の店をどうしたらいいのか考えるだけで精一杯ですから(笑)」。

それでは、「うふプリン」のようなヒット商品はどうやって産まれたのだろう?

「マスコミなどでも取り上げていただきご好評をいただいていますが、初めからヒット商品をと考えたわけではないんです。ヒットすると短期的に効果が上がりますが、後で必ずしわ寄せがきます。うちの商品は「うふプリン」や「とりころーる」も含めて、全部主力商品なんです」。



さらに、東さんが気をつけていることがある。それはパティシエをきっちり育てるということ。

「パティシエの仕事は何だと思いますか?もちろん、ケーキを作ることが主な仕事です。しかし、実際には洗い物や掃除、片付けなども必要なのです。でも、ここ柿の木坂店では純粋にケーキを作ることだけに専念してもらっています。ケーキ作り以外の仕事はパートタイマーにお願いしています。だから自然と生産性が高まりましたよ」

効率良くケーキ作りを進めるための設備投資は惜しまない。ただし、やみくもに機械を導入すればよいというものでもないという。

「機械が最も優れている国を知っていますか?それはヨーロッパです。なぜならヨーロッパは労働基準法が厳しく労働時間の制約があるため、機械で生産性を高める必要があるからです。ただし何でも機械任せにしてしまうと、今度はテクニックが身につかなくなりパティシエの質が下がってしまう。このバランスが難しいのです」

効率よく仕事を行えば生産性が高まり、その結果コストは下がる。コストが計画より安くついたらその分はボーナスとして還元する。やる気を出すための工夫だ。設備投資をすることで生産性を高めることとパティシエを育成すること。一見相反するふたつの目標を達成しようとする。そこに東さんの経営者としてのセンスがうかがえる。

  

ケーキ作りに専念することでテクニックを身に付けたパティシエたちはやがて独立を意識するようになるだろう。しかし東さんの育成はこれで終わりではない。

「成瀬台店では柿の木坂店とは違って、お菓子作り以外のことも全部経験してもらいます。例えば掃除、片付け、洗い物、それから花の管理などなど。独立して自店をオープンさせる時の勉強になると考えています。柿の木坂店ではお菓子作りのこと、成瀬台店では店の運営のことと両方学んでもらおうと思っています」

社員の独立が決まれば徹底的にサポートする東さん。場所選びから店舗デザイン、果ては保証人になることもあるそうだ。どこでも通用する一流のパティシエを育てていこうとする思いは非常に強い。

さらに、各店のシェフパティシエの個性を伸ばすことも忘れない。キャトルの各店舗でケーキを食べた経験がある人は気づいているかもしれないが、実は、同じケーキでも店ごとに微妙にアレンジが異なっているそうだ。

「パティシエっていうのはそれぞれにこだわりがあるからね。だから「うふプリン」と「とりころーる」以外のケーキについては各店のシェフに細かい配合を任せているんです。食べ比べてみると面白いと思いますよ」



おいしさを追及するというパティシエとしての一面と、経営効率を意識したオーナーとしての姿を両立させ、見事に手腕を発揮してきた東さん。

最後に、若いパティシエや独立を夢見ている人にこんなメッセージをいただいた。

「若くて元気なうちは上達するために必死に勉強することが大切。時間はいくらでもあるのだから。でも、いつまでも同じやり方を繰り返していては駄目。年を重ねるごとに密度を濃くして時間を凝縮することを考えていかなくちゃ。それができるようになれば独立も夢ではないですよ」


今後も東さんの下から多くのパティシエが巣立っていくことだろう。



キャトル柿の木坂店
住所東京都目黒区柿の木坂3-4-11
TEL03-5431-3663
営業時間10:00〜20:00
定休日無休
アクセス東急東横線学芸大学駅より徒歩15分